第77話:本当の敵は?
僅か数日でこの私達の世界は混沌に突入しましたがどうなるのでしょうか?
日下は有泉から北海道函館における共産党員及びならず者の虐殺を聞いて暫く目を閉じたままであったが悲しい事だが石原閣下や東條閣下が実施した事は後の事を考えれば正しい事だと話す。
「有泉さん、貴方達は二一世紀後半に生まれたので教科書ぐらいしか習ったことがないでしょうが私は……私が過ごした世界の戦後の日本は混乱の極みでありました」
日下は何十年前の事を思いだしながら昔話を語る。
「戦後、戦犯としての刑期を終えて娑婆に出てからの日本は、占領状態から講和、主権回復の過程で労働運動など表向きは民衆運動でしたが、実態は共産党が盛り上がり、松川事件・三鷹事件・下山事件という国鉄三大ミステリー事件が発生したのですよ。それから日本共産党が武装闘争路線をとり、サンフランシスコ平和条約発効の三日後(一九五二年五月一日)に血のメーデー事件が発生したのも、この時期でした。デモ隊と警察部隊とが衝突した騒乱事件で事件は一部の左翼団体が暴力革命準備の実践の一環として行ったものと見られていて当時は、当たり前のように発生していた戦後の学生運動で初の死者を出した暴動です。それから日本赤軍と言う組織が色々と世界規模のテロ事件を起こして正に狂気の時代でした。その大本の存在を石原閣下達が根こそぎ殲滅されたのです、これで私が知る戦後の動乱はこの世界の日本では発生しないと思います。思い切った事を為される方だと思いましたが流石は満州事変を軽やかに実施された方だ」
淡々と昔話を語った日下は話終わると有泉を見て笑みを浮かべて頷いて石原閣下にお見事でしたと伝えて頂ければ幸いですと有泉に言うと彼も笑みを浮かべて頷く。
「そうですか、日下艦長の御言葉は石原さんにも伝えておきますね」
そこでTV無線通話が終わり日下は窓の方に行き景色を眺める。
暖かい陽気な空気が室内を循環していて空を見るとルーデル閣下が乗機する晴嵐が飛び回っていた。
「はあ、今の段階であんな状態ですので本番になるとどうなるのでしょうかね?」
呆れた表情の橋本に日下は大いに魔王閣下に期待しようではないかと言い後で魔王閣下にロマノフ王朝の事を言わねばいけないねと言う。
「艦長、間違えてもジューコフ将軍の事は言わないでおくのですね?」
♦♦
それから月日は流れ昭和二十一年八月十五日、世界情勢は大幅に勢力が変更されていたのである。
パリ市街での激戦を制したソ連軍は補給と修理を終えてフランス全土へ向けて進軍して僅か一月でフランス全土を手中に収める。
このままスペインとイタリアへ雪崩れ込もうとするが第二次世界大戦を戦い抜き退役していた軍人達が立ちあがり数万規模のゲリラ戦を展開して進撃を頓挫させた結果、ソ連はこれ以上の進軍が不可能になったがその報復に占領した旧ドイツ・オランダ・ベルギー・デンマーク等といった国々からソ連を批判する者達しかも無抵抗の市民約三十万人をカティンの森事件のように虐殺すると言うおぞましい出来事が発生したがそれは表に出ることは無かった。
NKVD長官ラヴレンチー・ベリヤが射殺を提案し、ソビエト共産党書記長であるヨシフ・スターリンと政治局の決定で実行されたのである。
だが、その様子を“おおわし”が偶然にその虐殺の状況を高性能カメラで録画に成功する。
この映像を見たルーデルの表情は誰もが近寄りがたい魔王のような形相になっていてドイツ軍人の時だったら間違いなく飛び出していくぐらいであったが流石に晴嵐で単独でも出撃するという事はなかったが地獄の魔王が発するような音色で呟く。
「一人残らず……殲滅する! モスクワを廃墟と化してやる」
相棒のニールマンも拳を震わせながら復讐を誓う。
日下達を始めとする有泉達も又、そしてジューコフも愛する祖国の狂った指導者がしでかした愚かな事に対してほぞをかむ。
「戦争は……正常な人間をも狂気に走らせるのだ! この私達もかつてどれだけ狂気的に走って泥沼戦争に突入させた……か」
現在の日本陸軍の大将クラスがそれぞれ話す。
「現在、ソ連が占領した欧州各都市は略奪と虐殺、凌辱の嵐が吹きあられていて地獄の様相をしている。美しかったパリもベルリンもコペンハーゲンも廃墟だよ。俺達の本当の敵はソ連じゃないのか?」
「それはそうだが米国はソ連を批判していないで我々日本をこの世から消すのが第一の目標と大統領が演説しているようだ」
「何か違和感を覚えるのだけどな? あのトルーマン、本物なのか? 偽物のような気がしてならないのだよ、最近」
それぞれ東京で秘密基地で確実に来るであろう関東侵攻戦に備えて各自準備していたが米国に密かに潜んでいるスパイから連絡が入る。
それは予定が早まり十一月初旬に出撃が決定されたとの事である。
だが、アメリカはある策謀を図りとんでもない事を実施する。
我が米国は日本と講和条約を締結する意思があると特使が派遣されてきたのだがそんな見え透いた嘘を分かる石原達であったがそれが世界に発信されていたので形式上でも受けなければならなかったのである。
「敵は策士だな、我々が講和を拒否するといえば間違いなく日本が決定的な悪者になるがその講和の話を受けたとしても我々は表立って動けない! だがその状況でもやれることはやらなければならない」
「日下艦長、小沢海軍大臣から連絡が入りましたが朗報ですよ。利根・青葉・大淀・酒匂・妙高・高雄・北上の改修工事が全て終了したとの事です!」
遂に米国が動き出しますが日本も又、指をくわえて呆けていなくありとあらゆる手を打っています。
現在、陸上自衛隊や魔王やジューコフ将軍を擁する日本の未来は?




