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閑話②:後始末

これからもよろしくお願いします。

 時を少し巻き戻り……

 御前会議が終わった翌日、石原莞爾は裕仁陛下の名のもとに宮城事件クーデターにおける首謀者の断罪を発表する。


 それと同時に新生大日本帝国軍の再出発として軍部の粛清を断行する事を内外に発表する。


 その対象に選ばれたのは部下を見殺しにして自分はのうのうと生きている卑怯者が主な粛清対象であった。


 だが、その中でも気骨ある軍人もいたのである。

 発表当日、小沢海軍大臣は監禁されているある将を訪ねていたのである。


「……お久しぶりです、大西滝次郎さん」


 牢獄の中央で正座のまま目を瞑って瞑想をしている大西に声を掛けるとゆっくりと目を開けて笑みを浮かべながら小沢を迎える。


「小沢さんですか、お久しぶりですね? 私の刑の執行が決まったのですね?」


 大西の表情は前に会った時と比べて憑き物が落ちたかのような安らかな表情だった。

 そんな姿を見た小沢だったが最早、遅いのだよと自分に言い聞かせて頷く。


「ええ、刑の執行は……絞首刑です、軍人として名誉な銃殺は却下されました」

「そうか、それでいい。陛下に弓を引いた大逆人には名誉の死は許されないからね」


 二人は暫く無言状態でいたが大西から口を開く。


 彼からは九州方面に侵攻した連合軍が全滅に近い損害を得て退却したことは非常に喜ばしい事だが特攻隊にて散って行った若者達の事を思うと詫びても詫び足りないと苦痛な表情で喋る。


「……石原莞爾大将は全ての特攻隊を廃止して絶対に再開させないと共にさせるなという力強い命令を出したと聞くが流石に立派な方だ」


 大西の言葉に小沢は頷くがその特攻隊の弊害として馬鹿な上官が大量作成されたことについて話す。


「私はそんな事になると思わなかったが……いや、よそう。特攻隊生みの親として私は歴史に悪名を残すがそれでいい」


 そういうと大西はもう話す事も無いからというが何か思いついたようで小沢に頼みごとを言う。


「小沢大将にお願いがあるのだが私の愛用している軍刀を差し入れてもらいたいのだ。最後まで共にありたいと思っているのだが頼めるかな?」


 小沢はその申し出を快く引き受けるが心の中で大西は自害するのだろうなと思ったがそれを表情に出さなくて看守に大西の頼みごとを聞くように言うと出て行く。


「(さようなら、大西中将! 必ず日本を……護って見せますので安心して旅立ってください)」


 そう小さく呟くと小沢は二度と後ろを振り向かずに去って行った。


 この同時刻、奇遇にも石原莞爾も又、阿南惟幾を訪ねていた。

  独房で静かに読書をしていたが足音で石原莞爾が来たのだと分かる。


 石原が独房の中に入ってくると阿南はゆっくり振り向いて静かに頷く。


「石原、久しぶりだな! 刑の執行が決まったのだな?」


 阿南の表情は実に澄んでいてとてもクーデターという馬鹿な事をした人物とは見えなかった。


 石原も阿南の事は珍しく認めていたのである。


「阿南さん、陸軍大学同期としていつか同窓会を開きたいと思っていたがこんな形として阿南さんと会うことになるとは……」


 石原にとって阿南は陸軍大学の同期生であると共に彼の能力を認めていて何か事あるごとに阿南を推薦していたほどである。


「阿南さん、陛下もクーデター前までは貴方の事を認めていたのです。だが、狂信溢れる若手将校の暴走で陛下の信頼する人物達を次々と惨殺してあげくに皇族を人質としてしまった……これからの戦後の日本を建て直すための必要な人材をも多数、殺めてしまったのです! 最終決断をした阿南さん、何故? 彼らの暴走を止められなかったのですか?」


 この時の石原の表情は巷で見せている冷徹な表情ではなく心を許しあった友人としての表情であった。


 石原の問いに阿南は何も言わなかったが石原には彼の気持ちが伝わったのである。


 もう話すことは無いという意思表示であることに気付いた石原は静かに頷くと彼に背を向けたまま話す。


「陛下は今回の件について怒髪天を掴むほどのお怒りだ、軍人としての死は到底許されないが……俺が最後にしてやれるのはこれだけだ」


 石原は阿南が常に所持していた軍刀を阿南の背後に置くと静かに立ち去るがふと室内なのに雨が降っているのを感じる。


「(ああ……これは雨だな)」

 知らずの間に石原の両目から涙が流れていたのであった。


 ゆっくりと歩きながら牢獄を出て行く石原に背後から声がかかる。


「有難う、友よ! 日本を……頼んだよ」


 背後からの声を聴きながら石原は監獄の外に出ると快晴の天気でお日様がサンサンと降り注いでいた。


 その日の真夜中、石原と小沢が地下司令部で作戦を話していた時に伝令員がやってきてつい、先ほど阿南惟幾と大西滝次郎が割腹自殺を遂げたことを報告してくる。


 二人はそれを聞いて伝令員に頷くと彼は敬礼して退室していく。

「……出来ればこれからの戦いに参加して欲しかったですが……」

「そうだな、だが……ケジメをつけねばならないからね?」


 石原と小沢は暫しの間、目を瞑って両名を弔う。


 それを皮切りに続々と息を切らした伝令が駆け込んできて牢獄で自決した人が多数出たことを伝える。


「『畑中健二』少佐・『椎崎二郎』中佐・『古賀秀正』少佐・『甘粕正彦』大尉・そしてまさか『梅津美治郎』大将に『杉山元』元帥……か、殆どが亡くなったか……」


「石原さん、自害した人物たちは強硬な面もあったけれど……少なくとも日本の事を思って立ちあがったのだと私は思います。やり方は間違っていましたがね?」


「ああ、せめて私達だけは彼らの事を……」


 二人は数分間、沈黙状態だったが今日の昼に行われる軍事裁判の件について話を振るがその時の口調と表情は冷酷そのものであった。


「真っ先に恥知らずで卑怯者の四名を極刑にしなければならない」


「富永恭介・牟田口廉也・寺内寿一・木村兵太郎の四名は……軍人、いや……人として下種な人物です」


「佐藤少将から直々に牟田口の処刑に立ち会わせて欲しいと依頼があったが彼の願いを叶えたらインパールの生き残りの将兵全員が立ち合いたいと言ってきたぞ? それと富永の犠牲になった者達の同僚も立ち会いたいといってきたのでこれも許したがどうだったかな?」


「……ここまで恨まれる人物は稀有な存在ですね? まあ、自業自得でしょう」


 小沢の軽い言葉に石原も頷いて今日の昼頃に実施される裁判について思いをはせったのである。


 その日の昼に行われた軍事裁判で先の四名は即、銃殺刑として判決が下されるがそこで波乱と言うか最後まで情けない醜態を四人が晒したのである。


 富永はこんな事になったのは無能者の部下たちのせいだと喚き散らかしたかと思うと牟田口も佐藤達を睨んで貴様みたいな臆病者が勝手に退却したから負けたのだ! お前達こそ腹を切るべきだ! と。


 寺内も木村も泣き叫んで懇願するがその醜態を見た他の参加者達は元より裁判官として立っている者も呆れ果てた表情であった。


 そんな醜態を晒した四人だったが簡単な裁判の後、即時処刑が実施されて刑場の露と消えたのであった。


 死して尚、罵詈雑言が四人の死体に浴びせられたのであった。

 その他にも海軍軍人も含まれていて実に二十名程が処刑されたのであった。


最期の四人は史実であれば戦後を生き抜きましたがこの世界では悪役です


次話からは再び戻ります。

ジューコフ将軍の処遇は?

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