第69話:石原莞爾達の謀略?
今日の大阪の昼は温かったです。
ソビエト社会主義共和国連邦首都“モスクワ”クレムリン宮殿奥にある最高指導者で資本主義国の代表者と言えるアメリカ大統領とタメを張る『ヨシフ・スターリン』書記長の執務室でスターリンと彼を支えているメンバーが会議をしていた。
機嫌がいい表情と不機嫌な表情がコロコロと変化するのでその都度、他の閣僚達はビクビクする。
「同志スターリン閣下、欧州からの報告ですが我が赤軍は怒涛の如く草原を走る火矢のような速さで次々と制圧しています」
『ニキータ・フルシチョフ』中央委員が欧州の地図が広げられている重要な地点に赤の小さな旗を刺す。
フルシチョフは流暢な言葉でスターリンに説明しているが心の中ではガクブル状態で一刻も早くこの緊張した雰囲気から逃れたいと思っていたのである。
この時のスターリンの表情はにこやかで機嫌がいい証拠で気軽にフルシチョフに質問をしてくる。
「同志フルシチョフ君、君の考えは何処まで我が軍の進撃を考えているのかね?」
この質問に執務室にいた他の幹部も緊張する。
スターリンの質問に彼と同じ答えを発せねばシベリア流刑か鉛の銃弾のプレゼントの二つの内一つに当たるので冷汗が滝のように出ている。
フルシチョフも又、冷汗が大量に発生していて頭の中で素早く意見を纏めてスターリンに答えを言う。
「凡人なら欧州全土を手中に収める為に突き進むでしょうが同志スターリン閣下ならフランス首都パリを制圧した時点でストップをかけて占領地域を完全な社会主義に染めると愚考致します」
スターリンは先程のにこやかな表情は消えていて無の表情で人差し指で机をコツコツと叩きながら何か考えていたが口を開く。
「ふむ、現在の我が軍の最前線はオランダ・ベルギ―とルクセンブルクにオーストリアまで制圧している。同志フルシチョフ君、流石だ! 私もそう考えている。パリを制圧したと同時に進撃を停止して獲得した地域に社会主義を植え込まなければならない」
正解の答えにフルシチョフは思わず安堵の息を吐きかけたが直ぐにそれを阻止して実直な態度でお礼を言う。
「現在、我が軍の百万の軍団がフランス国境沿いに展開している。米国主導の欧州軍の殆どが太平洋に移動するのだから空白地帯が出来るわけだ」
それからスターリンは欧州の事について色々と話していたが急に何かを思い出して口を開く。
「そういえば、ジューコフは何をしている? アジア方面の報告が欲しい」
スターリンの質問に内務大臣『ラヴレンチー・ベリヤ』が立ちあがり説明する。
他の共産党員からはスターリンの腰巾着と馬鹿にされていたのだが、ベリヤはかの悪名高いKGBの頂点にいる人物だったので誰も睨まれないようにしている。
「同志スターリン閣下、アジア方面情勢ですが現在、我が軍は朝鮮半島の釜山を陥落せしめたとの報告がありました。これで東アジア大陸は我がソ連の領土となりました」
ベリヤの説明に当初は頷いていたスターリンであったがベリヤの説明が終わった直ぐに誰もが触れたくない話をスターリンが爆弾を落とす。
「……同志ベリヤ君? これで終わりなのかな? 未だ私の耳に入れなければいけない情勢があるのでは?」
スターリンの目が一気に覚めた瞳をベリヤに向けている。
執務室の温度が一気に氷点下になった感じが場を支配する。
「いや……それは……同志スターリン閣下、申し訳ございません! 一呼吸いれようと思っていたので決して忘れてはいません」
そう言うとベリヤは心の中では失神するほどの震えが来ていたが我慢する。
心の中では自分が積極的に東アジア方面に口を出した事を後悔していた。
「北海道侵攻部隊の全滅の責任を日本方面司令官『ヤコブ・ニキータ』大将以下千二百名の上級幹部を銃殺処分としました。残りの者はシベリアに労働者として流刑と致しました」
ベリヤの報告にスターリンは納得しない表情をしたばかりか冷酷な視線をベリヤに向けると少しだけ発する。
「……噂に聞く白鯨の情報は?」
この情報こそ現在、スターリンが最も欲しい情報だったのである。
欧州方面の事や東アジア情勢の事はあまり重要視していなくてあの連合軍数十万を単艦で葬り去った謎の潜水艦の情報だった。
既に米国経由で潜水艦の写真がスターリンの手元に渡っていて少しでもその情報が欲しいと思っていたがそれに気づく事がない部下達にイラついていたのであった。
スターリンの質問にベリヤは心の中で大失態を犯してしまった事を認識したのである。
実を言うとベリヤは米軍主体の連合軍を殲滅させた潜水艦の事について特に重要視していなかったのである。
頭の中にあるのは東アジア方面のライバルになる可能性のある人物を粛清する事のみを考えていたのでそういう情報集めは一切、しなかったのである。
「……ベリヤ君、君には失望したよ?」
死神に等しい言葉に場にいた全員が真っ青の表情になり当のベリヤも思考が停止して固まったままであった。
その時、彼らにとって救世主の存在が出現した。
「失礼します、同志スターリン閣下! 御希望の物を取得しました」
執務室にはいって来た一人の若い東洋人が入室してくる。
他の者が驚いた表情をするがスターリンは笑みを浮かべて頷く。
「よくやった、所でどうやって情報を? 確かな物かな?」
スターリンの質問に東洋人は簡潔明瞭に話すがその内容は特に難しくなく共産主義に同調する日本国内の同志の一人から受け取ったもので彼は軍部の中枢部にも近づくことが出来る人物であることを説明する。
「彼の情報では現状に不満がある共産主義に同調する日本人達による同志の一斉蜂起が予定されています。恐らく数十万規模になると思われます。主に北海道で蜂起する予定です。既に必要な武器弾薬を密かに密輸して渡しています。先のクーデター騒ぎで憲兵隊や特高警察の組織が崩壊寸前で弱体していますので容易に動けます。特に来年に予定されている関東侵攻戦に全力を注いでいる状態なので米軍侵攻と同時に一斉蜂起してその混乱に乗じて我が軍が日本海を渡り一気に上陸制圧してそこにソビエト連邦の衛星国が誕生します」
彼の説明に頷くスターリンであったが何も来年を待たずとも直ぐにでも蜂起したらどうかね? と言う。
どうせ日本国内の共産主義は使い捨てにしか考えていないので暴れるだけ暴れてもらって関東防衛の邪魔が出来れば米軍にも感謝されて一石二鳥ではないかと言う。
日本国内の鎮圧に全力を注いでいる間に電撃的にいかなる方法でもいいから軍を上陸させれば北海道は我がソ連の物になるのでは? と逆に提案すると彼はスターリンを神の如く崇めるような表情をしながら頷いて再び日本に戻って準備をすることを言うとスターリンは大いに褒める。
「早ければ早い程が良いな、二月あればいいのでは? 時期的に八月九日とか?」
スターリンから激励を貰った彼は有泉や日下から石原莞爾や小沢治三郎に渡した円盤とそれを再生する機器をスターリンに渡すとその場で彼に“レーニン勲章”を授与すると彼は一段と感激する。
「今頃、陸軍省や海軍省は大騒ぎになっているでしょう」
「ベリヤ君以下の者達よ、これが仕事を成功するという事だ! これから汚名返上としてこの私を失望させないで欲しい」
この言葉が発せられた瞬間、彼らの首の皮が繋がった事を魂で感じたのである。
ベリヤ達はその若い青年にお礼を言う。
「さて、ジューコフには北海道に上陸する手段を死んでも考えろと命令しないと」
全員が執務室を出た後、スターリンは先程の円盤を再生する。
凄まじい戦闘記録映像を見たスターリンは暫く絶句していた。
「この潜水艦が我がソ連の手中に入れば……世界を征服できるな! さて、どんな手段を使おうかな?」
スターリンは真剣に伊400を手中に収めるべき方法を考える事にする。
ちなみに若い東洋人は、後に朝鮮半島国家“高麗国”の主席元首となる『李日成』であるが実は彼こそが二重スパイで中野学校を首席卒業した人物でこの映像と機器も有泉や日下達の許可を得て石原があえて渡したのである。
特に共産主義の暴動を恐れていた東條英機の提案で関東侵攻戦の前に共産主義者達を一掃するための作戦を描き石原莞爾に許可を求めて許諾されたのであった。
共産主義者数十万人全員を北海道に集結させる手段も既に構築済で実際にどんどんと北海道に共産主義者達がはいっていたのである。
石原莞爾と東條英機は第五旅団長の大窪陸将補の協力を得て一気に虐殺に等しい処分を実施する事を決定していたのである。
だがこの事は有泉一等海佐に話したが日下少将には話していなかった。
彼には首謀者数百人を逮捕するだけであると言っていた。
彼がいた世界で戦時中に司令部の命令に逆らえなく民間人を虐殺してしまった後悔の念がある彼に伝える事が出来なかったのである。
伊400に乗船して旅順攻撃に向かっている途中の中、石原莞爾は心の中でこの作戦を必ず成功させると誓うと共に日下少将に心の中で詫びる。
「(激怒してこの潜水艦ごと何処かへ去られてしまえば日本はお終いだが……最悪、この私の命を捧げてもいい)」
石原莞爾は発令所で指揮を執っている日下の後姿を見つめる。
だが、彼も日下敏夫と言う人物の真の底を知らなかったがそれはまだ先の話である。
そして石原は頭を切り替えて今、ソ連で工作活動をしている人物を思い浮かべる。
「(大山鳴動して鼠一匹にならなければいいが……もし、うまくいけば褒美に朝鮮半島全てを統治してもらおうか)」
都市伝説ですが現在の北朝鮮を建国した「金日成」は日本が援助して建国したと言う説がありますが
どうなのでしょうか?




