第68話:いざ、旅順へ!
京都府舞鶴市舞鶴軍港沖合に伊400が停止している。
その伊400に一隻の小型艇がやってきてそこには石原莞爾と小沢治三郎が乗っていたのである。
伊400の舷側に停止した小型艇から一本の大きな板が出されて二人はそれを渡って伊400の甲板上に立つ。
「ようこそ! 石原閣下・小沢閣下、乗員一同歓迎致します」
日下艦長以下上級士官が敬礼をして二人を迎えると石原と小沢も敬礼を返して挨拶する。
「少しの間だがお世話になるよ! この潜水艦の事はずっと気にしていたのだ。乗船できると聞いて幼少のころに遠足に行く楽しさを久々に体験したよ」
「その気持ち、分かります! では艦内にどうぞ」
日下艦長が先に艦橋甲板のハッチに入ると石原と小沢も一緒に入る。
二人が発令所に降りると発令所内の全員が不動の体制で両名を迎えると共に敬礼する。
両名も敬礼を返すと私達に構わなくてもいいからそれぞれの持ち場に専念してくれと言うと発令所内を見渡す。
「……想像していたのと全然、違う! まるで未来の世界に来たようだ……と言ってもこの艦は未来の技術を積んでいるのだったな。海底二万里の白鯨の中もこんな感じなのだろうか?」
石原が感嘆して周囲を見渡している。
小沢も感慨深い表情をしながら深く頷いている。
「私は一度、潜水艦の中を見学した事があったが狭くて潜水艦独特の匂いがあったのだがこの艦の中は広くて高原の如く澄んだ空気が充満しているね? とても落ち着く」
日下は笑みを浮かべて頷くと両名を食堂に案内する為に発令所を出る。
両名も日下の後を付いていくが艦内通路の明るさに吃驚している。
「何なのだ、この明るさは? 帝国ホテルの最上級の部屋の照明よりも明るいではないか? まるで昼間の世界だ」
石原が感嘆の声をあげて絶賛している。
小沢も同様に頷いている。
「あの戦艦“大和”の艦内よりも最高の設備だな」
日下の案内で食堂室に入った両名は日下の勧めで椅子に座る。
伊400では食事する時は全てがセルフサービスであったが流石に両名にそれをさせるのは憚られたので橋本先任将校がその任をしたのである。
「先ずは何か腹に入れましょう! 腹が減っては戦が出来ませんからね?」
日下の言葉に両名もそれはそうだと頷いてメニュー表を見る。
これは客用の為であった。
「……所で今、気付いたのだがこの伊400には炊事場が何処にも見当たらないが?」
日下の説明では、この艦には炊事場はなくこの世界に来る前に真空密封したフリーズドライ十年分を積んでいて食べ物の種類も千種類があり例えば“唐揚げ定食”一式(唐揚げ七個・白米三百グラム・味噌汁・漬け物)が入ったフリーズドライの大きさがマッチ箱一つの大きさである。
カツカレーやラーメン等の単品なら一円玉の大きさのフリーズドライである。
チンプンカンプンの両名だったが論より証拠として好きな物を選んでもらう。
小沢は“宮崎県産の地鶏を使った親子丼”
石原は“米沢ラーメン”
両名のそれぞれの郷土料理? であった。
二人はそれぞれ一瞬で元に戻った料理を見て唖然とする。
正に出来立てで湯気がホカホカと出ていた。
恐る恐る口に運ぶと絶賛の声が二人から出る。
「何なのだ!? この美味しさは!! 生まれて初めて食べるがとても美味い!」
二人の絶賛の声で日下と橋本は目を合わせると頷く。
一瞬で空になった容器をリサイクルボックスに放り込むと次に艦内で製作している海軍軍人なら誰でも愛する“ラムネ”を二人に差し出す。
小沢は満足そうに飲み、石原もほうほうと言いながら飲み干す。
満足な表情をした二人と暫く話をした後、食堂を後にして機関室に移動する。
機関室も又、小沢が想像していたものと違った。
「……これが機関室?」
小沢と石原がキョロキョロと周囲を見る。
何処かの研究室のような感じであった。
日下の説明ではここの機関室は、大型精密スーパーコンピューターで制御されており一日に一回、防護服を着た乗員が熱核融合炉に入り点検するだけである。
想像を絶する伊400のあらゆるシステムを見学した両名は改めてこの技術を確立した日本の技術の底力に感動する。
「そうか、我々の祖国はとても凄い技術を確立するのだな! 本当に日本に生まれてよかったと思う」
両名の言葉が終わった時に橋本がやってきて出撃の準備が出来たと報告してくる。
それに頷いた日下は両名に出撃ですので発令所に行きましょうと言うと両名とも頷いて日下達と共に発令所へ行く。
日下達が発令所に戻ると西島航海長が報告してくる。
「舞鶴軍港から二等輸送艦四隻と駆逐艦四隻が出航したとの事です」
「よし! “おおわし”とのリンクを密にして敵の存在を……小魚一匹も逃すな!」
その時、TVモニターに有泉が映り輸送艦に乗っている指揮官等の名前が送られてきてその名を聞いた時に石原は驚く。
「奴が? 生きていたのか、『板垣征四郎』……そうか、無事だったのだな」
『板垣征四郎』陸軍大将……石原莞爾と共に満洲事変を鮮やかに成功させた一人で東南アジアに配属になっていたが復員作業時に日本に戻ってきていたのである。
日下は確か……東京軍事裁判でA級戦犯として死刑になった人物だった事を思い出すがこの時代ではあのような非業の死を遂げる事はないのだろうと思った。
有泉の話によると今回の兵員部隊は元関東軍の兵士で満州事変を経験した歴戦の兵士で構成されていたのである。
後、戦車部隊を率いるのは陸上自衛隊三等陸佐『小柳勉』で六両の九〇式を指揮するのである。
「では、そろそろ伊400も潜航します! 露払いと共に長距離攻撃で旅順付近の防衛施設を破壊します」
五分後、伊400はゆっくりと海中に潜り始めて海面は何もない穏やかな水面に戻る




