第57話:日本本土防空防衛戦前
大変なご時世ですが皆でこの苦境を乗り越えたいものです
先行していた伊400は、台湾近海で浮上すると無人戦闘機“晴嵐”を射出する準備に入る。
岩本・坂井と言う常識外れで人間離れした二人に撃墜された晴嵐も勿論、返還されて伊400に積み込まれていた。
轟音をあげて次々と三機の晴嵐が射出されると日下と橋本はそれを見送り三機の姿が見えなくなると艦橋の中に入り引き続き潜航を命じる。
伊400は深度六十メートルまで潜ると晴嵐とのリンクを繋げる。
それと同時に“さがみ”にもリンクが繫がると同時に“さがみ”から放たれた五十機の小型偵察ドローンから入ってくる情報もリンクする。
大型スクリーンに映る各都市の映像が鮮明に流れ込んでくるのを見て“さがみ”乗員や海上自衛隊から移籍してきた伊400の乗員は物珍しさで感嘆の声をあげながら見ていた。
「金閣寺を見てみろよ! 俺達の時代より輝いていないな」
「そりゃそうだろ! 俺達の時代の金閣寺は一度放火で丸焼けになったから再建した姿だから当然だな」
京都や奈良の街並みを見ながら乗員達が感心していると伊400から無電が入る。
「晴嵐が敵の航空基地を捉えた! 映像を転送する」
この言葉で、一瞬で戦闘に入る男の様相になる各乗員達を見る有泉は満足そうな表情で柳本に声を掛ける。
「どうだ? これが戦う男たちの面構えだ」
柳本も深く頷く。
その時、通信室から伊400からTV通信要請が来ているとの事を聞くと直ぐに切り替えてくれと通信室に送り返す。
TVモニターに日下が映し出されるとお互い、敬礼を交わす。
「有泉さん、衛星の方はどうですか?」
「後、二時間で展開しますのでそれと同時に探査を掛けます」
“おおわし”の探査能力なら一瞬で三万機でも探知できるので対策も容易になる。
日下が有泉に“晴嵐”が間も無くフィリピン周辺に到着する頃でマニラ航空基地上空に到達する頃だと言うと有泉も頷く。
「迎撃として一五センチMOAB弾と五百連発小型ドローンロケットで迎撃しようかと思いますが敵がどのような編隊形をとるかが問題です。密集隊形なら容易に迎撃できますが……」
「それより今から攻撃してはどうですか? 殲滅は出来ないかもしれませんがある程度は始末できるかと思いますが?」
日下は有泉の提案に少しだけ考えていたが決断したかのように答える。
「いや、やめておきましょう。“おおわし”の展開を終えてそこから正確な情報を得てから攻撃しましょう! それが一番、効率がいいかと」
日下の提案に有泉はそれではそうしましょうと言うとこの話は終わりになる。
そのタイミングを狙ったかのように“晴嵐”から映像が送られてきて“さがみ”と伊400の大型スクリーンに映し出されると全員が息を呑んで沈黙する。
映像には滑走路をびっしりと埋め尽くしている重爆撃機・中型爆撃機が出撃準備に入っているのを確認する。
滑走路ではない平坦な場所でも埋め尽くす程の戦闘機が発動機を回す所であった。
そして“晴嵐”二番機・三番機が他の基地から送られてくる映像も同じく埋め尽くす程の航空機が今この瞬間に出撃しようとしている。
有泉が呆れた表情で一体、どれぐらいの機数が集まったのだろうかと日下に言うと彼も又、うなりながら呟く。
「ざっとみても二万機以上はあるとみて間違いないな。それとフィリピン以外の基地からも出撃があるだろうから……三万機? に近いと思う」
映像を見ながら日下はやはり米国の力は凄まじいと改めて感じたがこれを殲滅しなければ日本という国は完全に滅亡してしまうと思った。
「しかし、この数万機の中に原子爆弾を積んだB-29を捜さなければいけないのは骨の折れる作業だな。そうそう、言い忘れていたが石原さんや小沢さんから日本本土に残存している飛行可能な航空機を全機出撃させるとの事。その中でも源田大佐率いる第37564隊五十機も出撃するそうだ」
有泉の説明に日下は苦笑いしながら凄い語呂合わせですね? と言うと有泉も苦笑しながらも頷く。
「伊400よりは劣るが特殊装甲塗料を37564隊の五十機に提供したから縦横無尽に活躍が期待できる」
日下は笑みを浮かべて頷くと爆撃隊が離陸して“おおわし”の探査が終わり次第、一斉攻撃をする事を伝える。
有泉もその言葉に頷く。
「さて、この数時間で全てが決まるか……」
♦♦
フィリピン各基地からエンジン音が轟々と唸りをあげながら離陸を待っている無数の爆撃機の内の一機にカーチス・ルメイが乗り込み全指揮を執ることになる。
「チベッツ機長、今日はよろしく頼む! 黄色い猿達が奇跡的に築き上げた京都に原子爆弾を投下するのだからな」
カーチス・ルメイの言葉にチベッツ機長がお任せください、必ず京都の上空までお連れしますというと豪快な笑いをしながらカーチス・ルメイは頷く。
「司令、離陸許可が出ました! 当機は一時間後に離陸です」
「史上空前の規模だからな、それに真打は最後と言うではないか!」
カーチス・ルメイが乗っている“エノラ・ゲイ”は一番後方に待機していて六編隊同時に日本本土に突入する部隊とは別行動をとる予定であった。
滑走路から続々と史上空前規模の航空機が離陸していく。
その結果、自分達に襲いかかる非情な運命を未だ知ることは無い……。
遂に史上空前の大規模な爆撃隊が出撃します。
果たして、どうなるのか?




