第54話:グランド・ゼロ
ロスアラモス郊外にて大規模なイベント会場が設置されていてそこで数千人の世界を代表する物理学者や科学者が順次に自分の研究の成果を発表していた。
「スチムソン長官、こんな素晴らしい規模を誇る会場を設営できるアメリカ合衆国はやはり偉大な国家です。東洋の小さな国が我が国に挑むことそのものが無謀だという事ですがいかがですか?」
テラー博士の言葉にスチムソン長官も頷き去年のオリンピック作戦は失敗に終わったが来年の十二月には数々の新兵器で日本を叩き潰して関東全域を制圧して米国の勝利を絶対としなければいけないと説明する。
「長官、現時点ですが開発中の兵器でV5ロケット弾の完成を目指しています。小型化した原爆をロケットや砲弾に装着して敵陣に撃ち込むものです」
拍手をして満足そうに頷くスチムソン長官だったがふと上空を見上げる。
キラリと光りスチムソンが口を開こうとしたときにそれは起こった。
ロスアラモス研究所最大規模のα(アルファー)原子炉千メートル上空で人類史上歴史が始まって以来の大災厄の扉が開かれた。
フラッシュの光が数兆個同時に発光したかのような閃光が閃く。
それと同時に鉄をも溶解する超高温な熱が爆破地点を起点として周辺一帯に放出されると同時に半径五キロの範囲内にあるありとあらゆる物質を全て呑み込んで塵一つ残さず溶解する。
何億ドルもかけて建設した沢山の原子炉やウラン濃縮施設等が一瞬で溶けて蒸発していく。
そこで働いている作業員も全てが等しく蒸発していく。
幸いだったのは彼らが何が起こったかもしれないまま一瞬で意識を狩り取られたのが幸いであった。
爆心地を起点として巨大な火焔の塊がドーム状に形成されていきそれが膨張していき未だかつて人類が経験したことがない爆風が周辺に音速で拡散していきいかなる頑丈な建物も木っ端微塵に吹き飛ばしていく。
数千人にも及ぶ世界最高峰の頭脳を持つ各分野の博士達も例外はなく数千度の高温によって何が起きたかわからないまま消滅する。
そして研究所の周辺に建設されて一つの研究都市として存在していたロスアラモス近郊都市は最凶の爆風によって全てが薙ぎ倒されて根こそぎ大地ごと削り取られて強大なクレーターを形成する。
そして……超巨大なキノコ雲が形成されてそれが天高く立ち昇っていく。
実に高度六十キロ、幅四十キロの巨大なキノコ雲でその異様な光景は米国中部各都市等でも目視で観測できるほどで何事だと大騒ぎになる。
但し、水爆が爆発した事による放射能汚染は殆ど無くあるとすれば原子炉から漏れる放射能の類だったがそれも水爆の熱がウランごと消滅させたことにより放射能による不毛の台地となる事だけはかろうじて防げたが人が住むには不可能な放射能汚染が残される。
幸いなことに被害はロスアラモス研究所を起点とした百キロ四方が焦土及びトルコにあるカッパドキアのような異様な形が残ったのである。
この水爆の破壊から逃れた一人の学者であるオッペンハイマー博士は丁度、ロスアラモスから百二十キロ離れた地点の所でバスに乗っていたが威力が弱まったとはいえかなりの風圧でバスが煽られて急停車する。
オッペンハイマーはバスから出てみるとロスアラモス方向に今まで見たこともない巨大なキノコ雲が天高く構成されていくのを見る。
「……あ、あれは……原子爆弾じゃない! 事故でもない……水爆か? いや、理論では分かっているが未だ見たこともない」
オッペンハイマーや、バスに乗っていた乗客が茫然として巨大なキノコ雲を我を忘れたかのようにただただ、突っ立って眺めていただけであった。
この光景はもう一つに投下されたワシントン州砂漠地帯にあるハンフォード・サイトでも同様に出現したがロスアラモスとは違い、人的損害は数千人に抑えられたが施設と言う施設は全て吹き飛んで巨大なクレーターを形成する。
ワシントン州の沿岸都市部でもその巨大なキノコ雲は目視でも分かる程に観測されて何事だと大騒ぎになる。
この全ての状況をモニターで見ていた“さがみ”や伊400の乗員全ても我を忘れて魂が抜けたかのような表情であまりにもの凄まじい威力を目のあたりにしたのである。
「……“おおわし”から自己診断結果が届きましたが……故障等無しで機能も異常なしとの事です……」
衛星制御員がこれもまた茫然と立っていた柳本に言うと彼は我に返り衛星機能の異常なしの報告を受けて頷く。
「(しかし何という威力だ、見たか米国人よ! これが核爆弾の力だ! 別世界でお前達が我が祖国“広島”“長﨑”に落した核爆弾だ)」
天之加久矢制御室で一連の描写を一部始終見た三人は暫くの間、絶句状態で沈黙が続いていたが有泉がポツリと口を開く。
「……終わりましたね、核爆弾の生産や研究は数年間は遅れるであろうな」
「被害はどれくらいなのだろうか?」
「研究都市を含むロスアラモス全域には科学者や博士達の家族等を合わせると約二万人規模が住んでいた筈」
「……広島と長崎に比べたら少ないが……何も罪もない人々を焼き殺した罪は彼らと同じで罪の十字架を背負って行かなければいけない」
三人はお互い、顔を見あわせると頷く。
「後、問題なのが米国外に存在する原子爆弾の存在でしょう! 何発あるか不明ですが恐らく再建されつつあるマニラ航空基地を中心とする爆撃隊に搭載されていると考えた方がいいと思います」
「……その爆撃隊を全て始末すれば数年間は原子爆弾の心配はないというわけだが伊400だけでは捌ききれないな」
「やはり日本に残存する航空機を結集させて総攻撃を仕掛けるのがいいと思います。幸いに物理的な攻撃のダメージを遥かに軽減する塗料もありますしそうはいっても現在で五十機分程度しかありませんが」
「まあ、それも含めて石原閣下と相談しよう」
この攻撃で世界の核兵器開発も後退した筈です。
これからどうなるのか?
人的損害が遥かに少ないですが広島と長崎に落した原爆の報いを受けてもらおうと書きました。




