第53話:パンドラの箱
“さがみ”と伊400の乗員全てがこれから自分達が起こす大罪の十字架を背負うことを決めて有泉一等海佐と日下少将に吉田技術長がお互い、頷く。
「では、行きましょうか! 天之加久矢の制御室へ」
吉田技術長の言葉に二人は頷くと吉田を先導として大会議室を出て行き艦橋甲板に向かう。
手が空いている“さがみ”乗員が勢揃いして敬礼していく。
これから行われる災厄の発動を見送るために……。
発射装置へ向かっている時、“おおわし”制御室から連絡が入り現在、ロスアラモス研究都市に多数の科学者や物理学者が数千人もの大人数が集結しているとの事を知らせにやってくる。
「……よりによってこんな時に……な、間違いなく全員が一瞬で消滅してしまうがそうなれば原子力の技術が後退するか」
日下の言葉に有泉も頷くとふと思いついたように他の二人に聞こえるように話す。
「そういえば、我が日本にも仁科博士を中心とした理研が原子力の研究をしているのだったが今はどうなっているのだろう?」
「分かりませんね? まあ、私達の世界では昭和二十年の大空襲で理研の実験施設が潰滅して仁科博士は重傷を負ったという事でしたがこの世界ではどうなっているのでしょうか? まあ、石原閣下には原子力の取り扱いは慎重にしてくださいと進言しないといけませんね」
吉田の言葉に二人は頷く。
そうこうしている内に天之加久矢の制御室に到着すると三人は足を踏み入れる。
その部屋には古事記や日本書紀に描かれている国造りから天孫降臨までを描いた古代画が飾られていた。
「こ、これは……凄い! 価値にしたらどれぐらい……いや、値がつかない代物だぞ」
日下の言葉に有泉と吉田は頷く。
吉田の説明によると朝霧翁が数百年間の間に収集していて“さがみ”旅立ちの餞別にもらったのを話す。
少しの間、天孫降臨について話していた三人であったが起動する為に話を終える。
「第一段階として先ず前面にある指紋照合タッチパネルに右手と左手を押し付けて下さい。これは三人同時で行います」
吉田の言葉に日下と有泉は頷いて1・2・3・の掛け声と同時に両手をタッチパネルに押し付けると鮮明な機械で再生した声が部屋に響き渡る。
「コードN0・19823を確認、天之加久矢制御資格同時確認開始……資格オールグリーン! 直ちに第二段階解除実施してください」
機械音の指示に吉田が手に持っている制御キーを三人同時に差し込んで右に九十度回す事を言うと二人は頷いて手に持っている鍵を持って三人同時に鍵穴に差し込んで右に九十度回すと再び機械音が流れて来る。
「コードNo.34980を確認、天之加久矢に燃料注入を開始します」
“おおわし”に搭載されている外部燃料タンクから天之加久矢に燃料が注入される。
それを見ながら有泉が制御室に連絡して、炸裂させる高度等の確認をする。
制御室から炸裂させる座標が送られてきて米国の地図上に印が付く。
「丁度、原子炉の直上千メートルで爆発させるのか……。吉田さん、百メガトン水爆が爆発しても一般市民には被害が無いのですね?」
「ええ、投下地点の二か所は砂漠のど真ん中に建設された研究所で一番近い町や村まで千キロは離れていますので犠牲は最小限に抑えられると」
吉田の言葉に二人は頷くが万が一、何か常識外の事が起きても最早、匙は投げたのだから全てを受け入れると決意する。
「それでは、最終セキュリティー解除を実施します。これをすれば最早、後には引くことが出来ません! 三十秒後に放たれます」
三人は天を向いて目を瞑る。
特に何か喋ることはないがこれから起こす事を思い浮かべる。
そして同時に改めて決意をする。
「では、最後にそれぞれの網膜及び角膜DNAを解析照合して合致すればOKです」
三人同時に解析レンズに目を通すと淡い光が一瞬だけ三人の網膜及び角膜DNAを読み取り解析する。
三人には永遠の時間が流れたようだったが実際に十秒しか経っていなくて機械音の声が鮮明な澄んだ声で流れる。
「コードNo.19442、最終照合オールグリーン! 天之加久矢発射許可を確認しました。これより“さがみ”制御を解除します。と同時に衛星にリンク授与開始します」
人工衛星“おおわし”に装填されている天之加久矢が収められている蓋が自動的に開放される。
「発射三十秒前、発射十秒前に衛星シールドを展開します」
この衛星シールドは百メガトンという未だどの平行世界でも人類が経験した事がない爆発に生じる未知の電磁波とか爆風から完全に身を護るシールドであった。
「……それでも心配です、誰も経験したことがない威力ですし……机上計算では十分に安全と出ましたが……」
吉田の言葉に二人は何も言わなかったが考えている事は同じであった。
機械的なカウントダウンが淡々と流れていく。
「天之加久矢、発射します!」
“さがみ”と伊400艦内では全乗員が息を呑んでロスアラモスとハンフォード・サイトの様子を映し出しているスクリーンを見ていた。
スクリーンには数千人の科学者による演説が始まったばかりであり他の場面には何百台の巨大軍用トラックが列をなしてロスアラモス研究都市の入口門から入って行く。
「あれは原爆を運び出すのだろうな」
「ま、それも無駄になるか」
そんな話をしている中、遂に“おおわし”から天之加久矢が放たれる。
マッハ二十以上の速度で大気圏を突き抜けてロスアラモスとハンフォード・サイト上空一キロで炸裂する……。
「着弾しました!」
機械音が喋る。




