第50話:歴史ターニングポイント前夜
昭和二十一年一月一日、新年を迎えた世界であったが地球上のどこに行っても心から新年を祝える国は無かった。
だが、それは各国の首脳部だけで一般市民はそれなりに新年を祝っていた。
度重なる空襲で辺り一面が焼け野原となった日本各地も同じで普通の国民達は何かの形で新年を祝っていた。
オリンピック作戦で鹿児島・宮崎は本土決戦の舞台で軍事クーデター政権の強制徴兵及び特攻で百万の犠牲を出したが連合軍撤退から逆クーデターによって政権を奪取した石原莞爾達による新政府によって手厚い復興支援を与えられて少しずつだが復興に向けて進んでいた。
その最中、石原達は新たに日本全国を九州区・四国区・中国区・近畿区・中部日本区・関東区・東北区・北海道区の八つに分けて兵力の再配置を検討する。
そして各区の総司令官との人事が発表されるがその内容に陸軍は元より海軍も驚いたのである。
それは『東條英機』大将を軍に特例として復帰させる事である。
彼は元々、裕仁陛下の大のお気に入りでクーデターも自ら積極的に動かず皇室に手を出す事は頑として反対していた理由であった。
勿論、その前に石原莞爾は犬猿の仲である東条英機と再会したがこの時、東条英機は穏やかな表情になっていて憑き物が落ちた様子であった。
「石原大将、私は夢を見たのだよ……。ポツダム宣言を受け入れた日本の後日の中、私は戦犯、しかも極悪戦争指導者として絞首刑に処せられる夢をね」
東條英機の言葉に石原莞爾も別世界の未来から来た人物からもポツダム宣言を受け入れて東京裁判にての東条英機の態度及び皇室には一切、責任なしで全て自分の責任と言い切った事を知り感動してしまった事を言う。
「もう少し、根気よくお互いを理解しようと努力すればよかったのかもしれない……。だが今からでも遅くはない! 貴様の能力は惜しい、一年後には再びやってくるであろう連合軍が! 今回以上の兵力で」
石原の言葉に東條は頷き今度こそ、祖国の為に全てをかけようと誓う。
二人は固く握手をする。
この時、異能な能力を持つ二大巨頭が手を組んだことで今後の日本の情勢が大きく変わることになる。
北海道区には『樋口季一郎』大将、東北区には『畑俊六』大将、関東区『石原莞爾』大将、中部日本区『東條英機』大将、近畿区『今村均』大将、四国区『山下奉文』大将、九州区『宮崎繁三郎』大将と決まるが今村・山下大将の二名は未だフィリピンとラバウルにて戦っているのであった。
「それ故、日下少将率いる伊400で太平洋上の船舶の航行の安全を確保して頂きたいのだ。それを以て一気に海外にいる軍を復員させる」
横須賀で新たな乗員を補充した伊400は再び東京湾第二海堡要塞付近に浮上して『日下敏夫』少将と新たに先任将校となった『橋本以行』大佐が“さがみ”艦長『有泉龍之介』一等海佐と共に石原莞爾を表敬訪問してこれからの……一年間の猶予で出来る限りの迎撃態勢を整えたい石原の願いを聞き届けてその立案計画を立てる事にするのであった。
石原との会談が終わった日下達は有泉の提案で“さがみ”で作戦立案をたてることになって向かう。
巨大空母と見間違うほどの大型輸送艦“さがみ”に乗船して艦内に入った時に橋本は再び度肝を抜かれて茫然とする。
「……時代が違えばこんなに違うのか! まるで未来小説のようだ」
橋本は横須賀に来た伊400に元伊58潜水艦乗員二十名が新たに乗り込んできたがあまりにも違う設備や環境に当初というか今もついていけていなく古参乗員から色々と指導を受けているのである。
「まあ、カルチャーショックということでしょうね、直ぐに慣れますよ! ようこそ、橋本大佐、後で艦内を案内します」
有泉の気さくな言葉に橋本はぺこりと頭を下げる。
“さがみ”大食堂室に入ると日下も改めて驚く。
何しろ、伊400の二十倍の広さがあるのだから。
「まあ、腹が減っては戦が出来ないというではありませんか! 今日は金曜日ですので海上自衛隊特製の“カツカレー”定食でも」
有泉の言葉に日下や橋本も笑みを浮かべる。
やはり彼らは海軍軍人でカレー大好物な軍人の一人であった。
有泉・柳本・日下・橋本の四名はカツカレーを思う存分、味わい腹が大いに満たされた後、食後のアイスコーヒーを飲みながら談笑していた。
そして食事が終わると改めて四名は大会議室へ向かって入室する。
見たこともない最新鋭機材を見た橋本はもう何を見ても驚かないと決めていたがやはりまじまじと見つめてしまう。
そして四人でこれからの行動、太平洋上の安全を確保する為に色々と話し合った結果、伊400は東シナ海・南シナ海・フィリピン海の連合軍潜水艦や航空基地を完全に叩き潰して空と海と海中の安全を確保する。
「衛星によるとマニラを周辺とする各航空基地にB-29を始めとするあらゆる種類の航空機が続々と集結している。最終的には一万機ぐらいになるかとの予想だ」
有泉の言葉に日下も呆れたような表情になり溜息が出る。
橋本も同じで果たしていけるのだろうか? と疑問を持つ。
「日下艦長、先日に渡した五百連発小型ドローンを使えば全部で三千機は撃ち落とせるしMOAB弾を使えば離陸する前に吹き飛ばす手もある」
有泉の言葉に日下は暫く考え込んでいたがそれしかないなと思い首を縦に振る。
そして日下と橋本が“さがみ”から下艦しようとした時に石原と“さがみ”の連絡を繋ぐ担当の『杉下左京』一等海尉が報告書を持ちながら駆けて来る。
息を整えながらそれを渡すと有泉が眼を通すととんでもない事が記されていて驚愕する。
そこには捕虜となった旧日本海軍提督『角田覚治』から情報を取り出した内容である。
米国内にて原子爆弾の製造が一月に百発生産出来るとの事で既に二百発が生産されているが幸いに外部には未だ持ち出されていないということだった。




