第49話:新たな決意
遂に姿を現した巨大潜水艦伊400に石原達は目を見張る。
噂には聞いていたが初めてみると凄い大きさだという事がわかる。
「戦死なされた山本長官が考えた案が遂に実現してそれ以上の存在になったということか! 山本長官も靖国で喜んでいるだろう」
小沢が感無量で眺めていると艦橋から二人の軍人が甲板上に出る。
「伊400艦長『日下敏夫』中佐です!」
小沢と石原も同じく答礼する。
十分後、石原達五人は伊400艦内に入った時も腰が抜けるほど驚愕する。
ちなみに“雪風”艦長の寺内大佐も特別に共に行動をしていた。
日下の説明に石原達は無言状態で頷くことしか出来なかった。
一通り艦内を案内して食堂に来ると日下は石原達に席を勧める。
石原達が席に着くと給仕担当士官が熱い玄米茶と和菓子を出す。
「日下中佐、聞きたいことがあるのだが貴官達が未来の時代に行った時に半数の乗員が未来の時代に残ったとの事だが貴官は何故また、地獄の戦場に戻ろうと思ったのかな? いや、決して残った者達を責めていない。それも彼らが進む一つの道だからな」
石原の問いに日下は少しだけ考えるがその答えを口に出す。
「そうですね、パナマ運河に殴り込みをかけた時、当時の有泉司令官が命を掛けて戦場を離脱させてもらえました。伊401、伊13に伊14……清水さん達が日本の為に命を捨ててまで護ろうとした祖国日本を私が捨てるわけにはいきませんし……」
そこまで言った時に石原が頷いて礼を言うと連れてきた幕僚の一人に目配せすると小さな桐箱を石原に渡す。
「日下中佐、貴官を大佐に昇進させる! 勿論、この時代に戻ってきた乗員達にも昇進させる。それと数日の内にもう一階級上げる事にする! 勿論、全員にだ。最初の昇任は今までの働きに準じた勲功で最後の方はこれからの戦いに驀進する貴官達に対する私の気持ちだ。これは小沢さんも同意している」
吃驚する日下が小沢の方を向くと小沢も笑みを浮かべて頷く。
日下は再度、衿を正して敬礼して昇進の辞令を受け取る。
「謹んでお受け致します!」
日下は石原達に言おうとしたことを心の中で呟く。
「(命令とはいえ完全な無抵抗な船員を虐殺したこの罪から逃げない為に)」
石原達が伊400から出て再び“雪風”の甲板に乗り移った時には既に正午になろうとしていた。
有泉と日下を始めとした数百名の乗員が甲板上や艦橋から敬礼をして見送る。
“雪風”が微速前進しながら横須賀の方へ進み始める。
ちなみに疫病にあたった乗員達は無事に駆潜艇二隻に移乗した。
高倉先任将校が涙を流しながら詫びるが日下は彼の手を握り締めて今まで支えてくれて有難うございますとお礼を言う。
「また、元気になればお会いしましょう」
伊400はこのまま横須賀軍港に向かって新たな補充要員と合流する為に再会を期して潜行していく。
“さがみ”は東京湾奥深くの築地埠頭で錨を降ろして最新技術の設計図や科学者や数々の工作機器、そして人員を降ろす。
勿論、その前に伊400に魚雷やMOAB弾の補充を完了していた。
後、新たに使い捨てだが五百連発小型ドローンロケットミサイル発射筒五基を積み込む。
♦♦
横須賀港に戻る“雪風”甲板上で石原と小沢がこれからの事を色々と話していた。
「小沢さん、最新鋭システムを搭載する艦の選定はどうなされるのですか?」
「ええ、先ずはこの“雪風”ですね! 後は残りの駆逐艦に搭載しないといけませんね」
「しかし改めてアメリカの力は凄いと思うよ。彼らの攻撃で被った被害が我が日本ならば完全に両手を挙げて降参しかない。海外からの情報によればアメリカは完全に戦時体制に移行しているとの事。山本閣下もそれを恐れていて早期講和を提唱していたが真珠湾の騙し討ちのお陰でアメリカは完全に全面戦争に突入した」
「しかし、有泉さんが言っていましたがルーズベルトは真珠湾攻撃をあらかじめ知っていて人身御供だったとのことです。真の悪魔はルーズベルトですがね」
二人が熱く話をしている所に寺内艦長がやってくる。
「閣下、間もなく築地に到着です」
「寺内大佐、この“雪風”の能力が跳ね上がる時が来たよ。これから貴官の活躍する場面がでてくるだろう。宜しく頼むよ!」
寺内は力強く敬礼する。
その後、石原達は北海道防衛に絡むソ連に対しての話に転換する。
「石原さん、残念な気分では? 元は満州国は石原さんが全て立案して自ら動いて建国した国がいとも簡単にソ連の手におちたことを?」
石原は小沢の言葉に肯定するが今は大陸に進駐した事が全て間違っていたと思っていてあの満州事変が切っ掛けで盧溝橋事件を経て中国との泥沼戦争に突入してしまったことを今更ながら悔いているとの事。
「だが、未来の事を考えればこれでいいのかもしれないな。有泉一等海佐から聞いた話だと半島は分断されて訳の分からない者達が色々と日本国内で問題を引き起こしていると言うからね? ソ連支配にしとけば我が国にとっていい結果になるのかもな、だがソ連を本土に一兵たりとも踏ませない」
石原の決意に小沢も頷く。




