第45話:一つの区切り
ジョーンズ・サカキが乗るF8Fベアキャットは急降下して伊400の艦橋を狙いうちにしようとした。
「ジャップの存在がある限り俺達日系人は一人前の米国人と扱われずに排斥されるままなのだ! この呪われた血の穢れを落とす事が真の米国人になれるのだ!」
伊400発令所では逃げて行った一機を放っておくことにしてたった一機となったベアキャットが急降下してくるのを一部始終モニターで見ていた。
「あのパイロットから想像を絶する憎悪と困惑が混ざった瘴気が出ているな、よほどこの伊400ではなく俺達日本そのものを否定する感情だな」
日下が複雑そうな表情でモニターを凝視している。
一瞬、助けてやりたいなと言う感情が沸き起こったが首を横に振って忘れる。
「中々の腕だな、徳田! あの勇敢なパイロットに敬意を表して手動でレーザービームを操作できるか?」
日下の言葉に徳田は頷くと自動制御モードを解除して手動モードに切り替えるとスティックを握りベアキャットの風防を狙う。
「あのベアキャットが爆弾を落とすまで五秒後ですが手動モードが完全に移行するまで五秒間かかります」
日下は頷くと無言でモニターを凝視する。
ジョーンズは爆弾投下レバーに手を掛けるとカウントを取る。
「投下五秒前……三秒前……一秒前……投下!」
ジョーンズが投下レバーを引いたと同時に伊400から一門のレーザービームが発射されて前面風防を突き破りジョーンズの眉間を撃ち抜く。
ジョーンズの頭はトマトが一瞬で潰れた感じになり風防内は鮮血が飛び散る。
F8Fベアキャットはそのまま錐揉み状態になって海面に激突して爆発するが執念の爆弾は見事、艦橋に命中したのだが発令所内にいた日下達は爆発の衝撃が一切感じられなかったのである。
「艦長、上空には敵機皆無です! 全滅です」
徳田の言葉に日下は頷くと“さがみ”とのホットラインを繋いで有泉と話す。
二人は無言で見つめあうと静かに頷く。
「……では、日本本土に詳細を送ると共に行きますか! 祖国日本へ」
“さがみ”と伊400は針路を日本に向ける。
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その頃、原子爆弾を搭載した特殊輸送船は米国艦隊合流地点付近に到達したのだが全滅という衝撃的な報告を受けて原子爆弾水中爆発計画を中止する。
「……流石は我が祖国の底力という訳か……」
甲板上で角田覚治がポツリと呟く。
その彼の元に船長がやってきて作戦中止の無電が入り真珠湾まで引き返すようにとの命令を受けたことを言うと角田も頷く。
「船長、これからどうなるのでしょうかね? 日本は思っていた以上にやりますね」
「……さあな? 俺達は徴発された身だからな、そういう貴官も微妙な立場だな! つい二年前までは艦隊司令官だった身なのに」
船長の言葉に角田は少しだけ自虐的な笑みを浮かべると船室に入る為に歩き始めると船長も大きく息を吐くと船の指揮を執るために船内へ入って行く。
だが、この特殊輸送船を偶然と言えば偶然で日本海軍所属の一隻の潜水艦によって発見されたのである。
伊58……『橋本以行』海軍中佐が乗艦する。
潜望鏡で輸送船を確認した橋本は先任将校である『柿本十条』少佐に尋ねる。
「あれは米国の輸送船だが一隻で航行しているがいくらなんでも無謀だと思うがどうだろう? 罠かな」
橋本の言葉に柿本は少しだけ考えると罠ではないと思いますが何か重大な使命を受けていて例えば何かを輸送している途中とか? と自分の考えを言うと橋本も頷く。
「……よし、攻撃しよう! 聞けば連合軍艦船及び地上部隊は九割以上が海の底に消えて行ったという。本当かどうか知らないがな?」
橋本の命令で艦首魚雷発射管に四発の酸素魚雷が装填される。
もう一度、潜望鏡をあげて確認するが周囲に駆逐艦はおらず橋本は安堵して伝声管を通じて命令する。
「三秒間隔で一番から四番まで発射する! 久しぶりの実弾だぞ、失敗するなよ?」
橋本の言葉に伝声管から元気な声で反論の声が返ってくる。
「見くびらないで下さい! まあ、艦長は欠伸でもしながら見ていてください! 全弾命中させますぜ」
陽気な会話が場を支配している時に二人の若い青年がやってきて敬礼する。
「艦長、私達を逝かせてください! 栄誉ある回天で死に場所を!」
橋本が振り向くと回天一号機艇長『林伸成』飛曹長と回天二号機『天馬茂』飛曹長が直立不動で立っている。
石原莞爾達による逆クーデターが成功した時、真っ先に命令を発した内容が神風特攻攻撃全廃であった。
この命令が石原個人だっただけであればその指示に従う各基地司令官が少なかったがこれは裕仁陛下自らの執筆で各基地へあらゆる方法で人海戦術で日本全国の特攻基地へ通達したのである。
その結果、特攻は廃止されて代わりに古参搭乗員による新米に対する教育を実施する事になった。
その特攻は空は元より海中からも同じで回天や海龍・伏龍と言った小型特殊潜水艇も廃棄となりその解体した材料は大破状態や中破状態の艦艇修理に宛がわることになったのである。
伊58にも二艇の回天が搭載されていたが日本本土からの命令で神風攻撃が中止となった連絡を受けて不要になった回天を横須賀に持っていく途中だったのである。
橋本は二人の回天搭乗員を見ていたが改めてその要求を断り、この命令は恐れ多くも裕仁陛下直々の命令でそれを拒否する度胸はあるのか? と尋ねると二人は沈黙して分かりましたと頷く。
橋本は頷くと伝声管を通じて命令する。
「一番から四番、発射だ!!」
三秒間毎に四発の酸素魚雷が放たれたのである。




