第42話:轟音から
明けましておめでとうございます、昨年はその前の年からコロナで色々と制約があり息苦しい生活をしましたが今年は穏やかな年になってほしいです。
米海軍が誇るエセックス級空母が全て海の底に叩きこまれていく映像が“おおわし”を通じて“さがみ”と伊400に伝送される。
「……何という威力だ! 正に痛快と言える場面だな。これで伊400の魚雷は撃ち尽くしたが……ふふふ、まだまだあるのだよ」
有泉艦長が艦長席に座りながら優雅にワインが入ったグラスを右手で持ちながら隣にいる柳本に言う。
柳本は有泉の表情と仕草を見て呆れた表情で笑みを浮かべながら答える。
「艦長……今の表情、正に悪の組織の大幹部そのものですよ?」
「柳本君、少しぐらいいいのでは? まあ、私にはこういうのは似合わないからな」
有泉はグラスを柳本に渡すと席から立ち艦橋の外に出る為に扉の方に歩いていくので柳本も急いで後を追いかける。
二人は艦橋上部甲板に立つと周囲を見渡す。
現在、この“さがみ”は光学迷彩シールドで覆われているので完全に景色に溶け込んでいて誰も気づかない。
「日下艦長は次にMOAB弾を使用する筈だ。効率な効果を高める為に後二十分後に浮上して発射だな」
防衛大学に入った時に祖父から形見としてもらったGショックを見て時間を確認する。
「さて、新鮮な空気を吸ったのだ! 艦内に戻るか」
頷く柳本と共に二人は艦橋に入って行く。
♦♦
伊400発令所では“おおわし”から送られてきた映像を見て全乗員が息を呑んで凄まじい情景を眺めていた。
「爽快と言うか痛快と言うかあのエセックス級空母が……いとも簡単に真二つに折れて沈んでいく様は正に血沸き肉躍るだな」
高倉先任将校が感嘆な声をあげながら日下に言うと日下も満足そうに頷く。
「米空母は片づけたが未だ巡洋艦を始めとする補助艦艇が雲霞の如く浮かんでいるからね? それを始末しよう」
日下の言葉に新見が艦の針路の指示を伝えると日下は直ぐに新見に伝える。
「針路九時の方向に転進して二十分程、最大戦速で進みMOAB弾を発射する」
「了解致しました! 針路九時に転進します」
伊400はゆっくりと深度二百メートル地点で艦を回頭する。
それと同時に速度を徐々に上げていく。
「艦長、確認ですがMOAB弾を発射する時は浮上するのですよね?」
「それはそうだね、水中から撃つことは出来ないからね? 高倉先任将校が心配しているのは敵に見つかる事だと思うが?」
日下の問いに高倉が頷く。
「……心配することは無いさ。……丁度いいか! 徳田、この発令所の会話を全区画に聞こえるように切り替えてくれ」
徳田がタッチパネルを操作して艦内全域に発令所の会話が聞こえるようにする。
「艦長の日下だ! これから伊400は浮上してMOAB全弾を撃ち尽くして米艦隊の大部分を葬る。だが、これから浮上する場所は雲霞の如く米艦載機が警戒している空域の真ん中にでるから初めて敵にこの伊400の勇壮を目にするだろう。“おおわし”から送られてきた情報では現在、上空にいるのが八百機だという事だ。彼らが帰るべきの空母は既に海の底だ。この伊400を発見すれば必ず全機が殺到する! そしてこの八百機の大編隊を一機残らず殲滅する! 一対八百の戦いだが圧勝で終わる事を約束しよう。後五分後に浮上する! 全員の健闘を祈る」
日下の言葉が終わると艦内は一瞬、静かになったが直ぐに大歓声が沸き起こる。
吉田技術長がやってきて笑顔で発令所の全員に聞こえるように言う。
ちなみに徳田は未だ放送を切り替えていないので吉田の言葉も聞こえる。
「この伊400の特殊装甲の力を是非是非、皆様に体験して欲しいですな! 魚雷や爆弾が命中しても傷一つつかない装甲を」
当然の如く艦内全域から感嘆の声が漏れ聞こえる。
日下は満足そうに頷くと徳田に目配せすると徳田は無言で頷くと艦内放送を切り替えて元に戻す。
そして五分後、伊400は日下艦長の命によりバラストタンクから海水を吐き出す。
浮力を得た伊400はゆっくりと浮上していく。
「水面浮上まで後、十五秒です!」
「よし、MOAB弾装填準備! 浮上して十秒後に初弾を放つ。徳田、爆発ポイントは押さえているな?」
「はい、既に終わっています! “おおわし”から送られてきた位置情報を元に効率的で効果的な被害を与える絶好ポイントを弾き出しています」
徳田の先を読んで行動に移している姿を見て日下は満足そうに頷く。
高倉先任将校も流石だと褒めちぎっていた。
「間も無く海面に浮上します! 五秒前、四秒前……一秒前、浮上します」
静かな海面が盛り上がっていき発令所が海面に出てそして完全に海面に姿を現す。
この光景は上空から目を皿のようにして血走りながら母艦を潰した正体不明の存在を捜していた艦載機が発見する。
「おい、あれは潜水艦か? 見ろ、ジャップの日の丸が描かれているぞ!」
「モビーディックの正体は潜水艦か?」
その瞬間、伊400の二五ミリ三連装自動レーザー砲が火を噴いてたちまち数機が火達磨となって海面に激突する。
発令所では徳田がタッチパネルを操作して発射ボタンのシルエットをタッチする。
後部十五センチレールガンから初速マッハ八のMOAB弾が轟音をあげて放たれる。
次話は伊400が暴れまわります、新年に相応しく。
本年もよろしくお願いします




