第41話:悪夢の米機動部隊
必殺必中の魚雷を放った伊400発令所内では日下たちが大型スクリーンに二分割で映し出されている物を見ていた。
一つは“おおわし”からリンクされて送られてくる魚雷の航跡を示すシルエットが米機動部隊に向かっている矢印。
既に搭載している四十発の魚雷を八回に分けて発射していて全てを正規空母にインプットしていた。
「第一陣命中まで三十五秒!それから二十秒後間隔で獲物に向っています」
徳田少尉がタッチパネルキーボードを打ちながら答える。
「四十隻の空母が撃沈する様は凄まじい情景だろうな」
日下が気の毒そうな表情をしながらもう一つのスクリーンに映っている海を覆いつくす程の米海軍機動部隊の威風堂々とした航行する映像を見ながら呟く。
「艦長、悪代官のような表情ですよ?」
高倉先任将校が笑いながら日下艦長に言うと二人を始め、発令所にいた全員が笑う。
徳田が後十秒ですと大声で叫ぶと笑い声が一瞬で収まり静寂になる。
「七秒前……三秒前……一秒前……命中です!!」
♦♦
伊400から魚雷が放たれる九時間前、スプルアーンス大将の号令の元、全艦船が錨をあげて出撃する。
警戒艦である百隻の駆逐艦が先陣となって環礁を出て行く。
特にソナー員の増員がなされていて少しでもおかしい音を拾えば即、報告する事が厳命とされている。
「提督、本隊の出撃時間です」
「うむ、全空母に伝達しているが再度、命令を伝える! 環礁を出たら離艦可能速度まで速度を上げて全機出撃だ! 各空域に分けた場所を上空から徹底的に監視して水中に何か捉えれば即、攻撃を開始するのだ」
スプルアーンスの命令は改めて全空母に行き渡る。
今回の目的は日本本土攻撃の為ではなく、正体不明の水中で暴れる物体退治であるがあまりにも想像の域を出ないので今一つ盛り上がらなかったが友軍を壊滅させた謎の物体を倒して仲間たちの仇を取ろうと誓っていたのである。
この作戦に参加している空母はエセックス級二十隻、護衛空母二十隻の計四十隻で艦載機は二千六百機搭載していた。
三交代制で八時間毎に決まり、現在は八百機が離艦して持ち場担当である各海域を捜索していたのである。
平均して百機単位で八つの海域を担当していたのである。
「いいな! 必ずモビーディックかリヴァイアサンか知らないが仲間たちの仇を取るぞ、だが一つだけ厳命しておくが目標を見つけても手柄をあせって単独で攻撃するなよ? 全機で嬲り倒してやるのだ!」
空母“イントレピッド”に所属している『ツイッター』大佐がマイクで各艦載機に伝えると元気な声で返事が返ってくる。
その言葉に満足した彼は愛機であるF8Fベアキャットで再びレーダー等を駆使して調査を始める。
勿論、そう簡単に手掛かりは見つかることは無く交代の時間が迫ってきたので各空母から第二陣として合計八百機の艦載機が出撃しようとした時、凄まじい激震が各空母を襲った。
空母“バンカーヒル”艦橋で発艦する様子を見ていたトーマス飛行隊長は突如、船体が突き上げられる衝撃を受けて艦橋から飛ばされてしたたかに頭を打って甲板に転げ落ちたが失神してしまう。
“バンカーヒル”は急速にハの字に折れて渦を作りながら轟沈する。
まだ一分も経っていなかった……。
“イントレピッド”では魚雷が船底を突き破って爆発した時、運悪く航空機燃料を格納庫内に運ぶ途中であった為、濃度は濃くないが蔓延していた為、たちまち誘爆して格納庫内に炎が立ち昇ると共に一酸化炭素が一気に循環するがそれ以上の速さで竜骨が折れた“イントレピッド”は凄まじい轟音と共に真っ二つに折れて沈んでいった。
その他の空母も似たり寄ったりで真っ二つに折れて沈んでいく。
一番悲惨なのが護衛空母で爆発と共に船体が爆散して粉々になってしまう。
総指揮艦正規空母“エンタープライズ”ではスプルアーンスとダウンフォール作戦最高司令官マッカーサーが茫然と突っ立っていた。
トレードマークであるパイプを口から落としたのだがそれに気がつかない程、衝撃的な出来事が目の前で起きていたのである。
次々と三万トンクラスの大型正規空母がおもちゃの船みたいに次々と真っ二つに折れて火柱と共に轟沈していくとともに護衛空母と言われる小型空母も風船が破裂するみたいに爆散する。
「……これは夢か? 夢であってほしいのだが……」
スプルアーンスはあまりにものショックで膝から崩れ落ちてしまう。
直ぐ傍にいた者がスプルアーンスを支えるがその者達も目の前で起きている様相が信じられないのであった。
周囲にいた駆逐艦や巡洋艦が狂ったように救助活動を始めるのもいれば爆雷を手当たり次第に発射していた。
巨大な煙突がトレードマークである歴戦の生き残りの内の一隻である空母“サラトガ”にも死神の鎌が振り下ろされた。
船底を突き破った魚雷が爆発した時、すさまじい爆風が広大な格納庫を吹き飛ばすと同時に中央部の竜骨が破壊されたので水平を保てなくなりバキバキと凄まじい音と共に船体が二つに割れていく。
怒号と悲鳴が艦内に響くが無情にもその折れた個所から莫大な海水が雪崩れ込んできて脱出不能となり、もがき苦しみながら絶命していく乗員達であった。
一発目が命中して僅か五分で四十隻の空母は三分の二の艦載機と共に海底へ沈んでいったのである。
だが、彼らに襲いかかる災厄はまだまだ序の口である……




