第37話:リヴァイアサン、出撃!
伊400がウルシー環礁へ出撃した同時刻、太平洋上に散らばっている米国潜水艦七十五隻が正体不明の敵を探査する為に南九州及び太平洋岸沖を調査していた。
だが、オリンピック作戦を頓挫させたリヴァイアサン若しくはモビーディックと言った怪物の一片たりとも発見されなかった。
「艦長、“おおわし”から送られてきた米国潜水艦の配置状況を示す情報を基に奴らに見つからずにウルシーへ行く航路を設定しました」
航海科所属の『安永智弘』准尉がタッチパネルを操作して航路図をモニターに示すとかなりいびつな形の航路が示されていた。
「ふむ、かなりジグザグというか他の艦から見れば千鳥足で進んでいると思われるな! だが、それでいい。この針路をコンピューターに打ち込んでくれ」
日下の命令に安永は敬礼すると発令所を出て行く。
「艦長、敵さんの潜水艦は放置ですか? 魚雷がもったいなければ体当たりして沈めればいいのでは?」
操縦士の新見が物騒なことを言うが吉田技術長は伊400の装甲ならば五十ノットの全速力でぶつけても傷一つつかないと太鼓判を押す。
日下はそれを聞いて先程の命令を撤回すると敵の潜水艦をことごとく破壊する事を伝えると艦内の皆が賛成した。
「奴らにリヴァイアサンが本当にいると思いこませてやるか」
日下はこの事を“さがみ”の有泉艦長に伝えると有泉も又、手を叩いて大笑いしながら了承する。
柳本が各潜水艦の位置を示した図に番号が振られている図面を有泉に渡す。
「有泉艦長、“おおわし”からの情報では全部で七十五隻の潜水艦が日本近海で活動しています。効率がいい順番にて体当たりすればばっちりです」
良い仕事をする副長に満足すると有泉はそれを日下艦長の元に送る。
それを見た日下は満足そうに頷く。
「よし、それではウルシー環礁攻撃の前に敵潜水艦狩りを実施する! 番号順に体当たりを仕掛ける」
♦♦
室戸岬沖五十キロ地点、深度九十五メートルに米国海軍潜水艦四隻が停止していた。
ただ単に止まっているだけではなく噂のリヴァイアサンかモビーディックの正体を突き止める為に全方位にアクティブソナーを放っていた。
「艦長、本当にリヴァイアサンとかいるのですかね? 所詮、あれは作り話では? 海底二万マイルは面白いですがね?」
ガトー級“アルゴ”の航海長が艦長に言うと艦長は頷きながらも任務は任務なので真剣に任務に励むように言う。
航海長が頷いた時にソナー室から大声が伝声管を通じて聞こえてくる。
「四時の方向に速度五十ノットの高速で本艦に向かう物体を探知しました! 衝突まで二分!!」
艦長が瞬時に針路変更を命じると“アルゴ”のスクリューがゆっくりと回り始めて三ノットの速度でゆるゆる進むと同時にソナー室から絶叫が聞こえる。
「衝突七秒前です!!」
「衝撃に備えろ!!!」
艦長の怒声に皆が何かに捕まる。
後部船体に謎の物体が衝突したようで凄まじい振動が艦全体を包み込む。
その衝撃で次々とパイプ管が破裂して水蒸気が噴出したりネジが弾き飛んで熱水が噴き出して騒然となる。
「被害を知らせろ!!」
艦長の叫び声に乗員が悲鳴の声をあげながら叫び返す。
「後部船体が引き裂かれたようです! 浸水が酷く扉も閉鎖不可能です!!」
海水が濁流の如く流れ込み浮力を喪失してぐんぐんと海底に向かって沈降していく。
「圧壊するぞ!? 嫌だ、まだ死にたくない!!」
艦内の至る所で絶叫と悲鳴が発生するが無情にも“アルゴ”の船体は沈降していき限界耐圧を超えてグシャリと潰されて海底に沈んでいった。
艦長を始めとする乗員全員は地獄のような苦しみを得て苦悶の表情をしながら絶命していったのである。
他の潜水艦“アルフォー“ ”ベガー“ ”ツイッター“の三隻も”アルゴ“と同じく伊400の体当たりを食らって最後は圧壊して全員が絶命する。
伊400艦内では四隻の潜水艦が圧壊する音や乗員達の悲鳴や絶叫が鮮明に入って来たのを聞いて数名が青ざめていた。
「……潜水艦の圧壊の音、いつ聞いても不快ですね」
高倉先任将校の言葉に日下も無言で頷く。
日下は暫く目を瞑って瞑想していたが直ぐに次の命令を出す。
「よし、次の目標まで十三分だ! 二隻がまとまって行動しているな、好都合だ」
伊400は再び次の獲物を求めて最大戦速で進んでいく。
先程の四隻の潜水艦から西の方角三十キロ地点にガトー級潜水艦“バンクシー”と
“バター”の二隻が水深九十メートルを二ノットで進んでいた。
「いいな、魚のエラ呼吸の音でも聞き逃すなよ!」
艦長『サモーナ・アレク』中佐が真剣な表情で発令所でソナー室に繋がっている伝声管に喋るとソナー室から了解との返答が来る。
「リヴァイアサンかモビーディックを仕留めれば英雄間違いなしだな、副長」
艦長の言葉に副長も頷く。
「青函連絡船や疎開する民間人を載せた船ばかりを撃沈するのは飽きたからな!」
この“バンクシー”は非武装船専門のみを選んで攻撃するという卑怯者の代名詞で他の潜水艦乗りからも馬鹿にされていたが本人を始めとする乗員達は平気であった。
「最終的に生き残れば勝なのだよ。何故、危険な駆逐艦を始めとする軍艦を狙うのが不思議で仕方がない」
サモーナ中佐が発令所で副長と会話終了と同時にソナー室から大声で伝える。
「正体不明の物体が五十ノットでこちらに突き進んできます!!」




