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第36話:未来への光明?

 クーデター政権を逆クーデターによって政権奪取した石原莞爾達にもソ連が満州に侵攻してきたことを知る。


「やはり来たか、松岡外相もこの事態は予想外だった模様だね?」


 石原が陸軍省に松岡外相を呼びつけてその件を尋ねると彼は冷汗を掻きながら弁明するが傍にいた小沢が冷ややかな表情で彼に詰問する。


「聞けば貴公はソ連を仲介役として米国を始めとする連合軍との講和を図ろうと思っていたようだが私達はソ連をそこまで信用していなかったのだよ。結果的にはその通りになってしまったがね?」


 小沢の言葉に松岡外相が何か反論しようとしたとき、石原が手を制して答える。


「貴方を直ちに解任する! 後任は『杉原千畝』さんに任せる事に決定した」

 その言葉を聞いた時に松岡は激しく抗議する。


「杉原? 何の実績もない男に日本の未来を任せるのですか? 狂っていますよ」

 松岡の講義に石原は冷ややかに言う。


「いや、彼は北方軍管区の樋口君と共にユダヤ人たちの間では英雄のように慕われているとの事。私はね杉原さんがした事は日本民族の誇りだと思っている。それに比べて貴方達外務省の体たらくはいったいなんかね? 宣戦布告にしてもそうだ」


 松岡が何か言いたそうであったが石原は首を横に振って退出を命じると共に樋口中将に北方軍管区における全権を委ねる命令を出すと共に小沢に対処方法を聞く。


「前もって大湊基地に稼働可能な潜水艦全隻を配備していますので何かあれば直ちに出港命令を出すことが出来ます。ソ連と我が海軍では性能の差が開けすぎていますのでもし、そのまま船団を組んで北海道に侵攻しようとしたとしても兵員を積んだ輸送船等を撃沈できると確信しています」


 小沢の言葉に石原は頷くと数日後に発動される新内閣の準備に取り掛かるが翌日、意味不明な報告が入ったのである。


「何? もう一度言ってくれないかね?」


 半壊状態の海軍省敷地内にある防空壕内地下室司令部の中で小沢は参謀の柿谷中佐の言葉に再度言うように命ずる。


 柿谷の話はつい一時間前、正体不明の戦闘機を撃ち落としたとの事だがそこには搭乗員が乗っていた形跡がなく無線誘導で飛行していたのではないかという結論に達したのだがその航空機は“晴嵐”と全く同じ形だが風防内は見たこともない機械で埋め尽くされていてしかもその風防を開けることは出来ないばかりかどんな方法を使っても機体に傷一つつけられない事である。


「機体には全く損傷はありません、あれだけの高度から錐揉み状態に墜落した筈なのに……」


「それで? どうやって傷一つついていない戦闘機を撃ち落としたのかね?」

「はい、プロペラを狙って撃ったら命中してそのまま墜落したとの事です」


 小沢は、直ぐにその戦闘機が落ちた周囲数キロを立ち入り禁止にする事と共に石原大将に一部隊を急行させて欲しいとの連絡をするように命じると共にその場所に行くと言い司令部から出る。


「(あの時、天照様が仰られた言葉で……日下敏夫と言う人物と出会うときと言っていたがもしかするとだ!)」


 小沢は逸る心をおさえながら部下が用意してくれた車に乗り込む。


♦♦


 一方、小沢から報告を受けた石原も直ちに軍を動かして墜落現場から六キロを封鎖すると共に何か落ちていないか綿密に探すように厳命する。


「(ま、空襲であの一帯は更地になっているし都民は全て疎開させているから無人状態なのだがな)」


 小沢と石原が例の墜落地点に急行すると既に囲いによって機体が覆われていた。


 二人の姿を見た陸戦隊の一人が敬礼をするとそれに気づいた他の者も一斉に敬礼する。


 敬礼を返しながら二人は天幕の中に入るとそこには“晴嵐”が横になっていた。

 確かに機体には傷一つついていなかったがプロペラは吹き飛んでいた。


「ほう、これが例の……」

「確かに“晴嵐”ですね、しかし何ですかね? 何かこの時代の物ではないかというより元々の物からそれ以上に洗練されているといった感じかな? ここを見てください、機体には生産番号が刻印されているのですが年号は昭和二十年になっていますね」


 小沢が機体の後方部に刻印されている生産番号を見ると確かに昭和二十年と記されている。


「取り敢えず、これは厳重に保管しておきましょう。いずれ返還要請がくるかもしれませんのでね?」


「……で? この素晴らしい技術を我が軍に提供してもらうのだね?」


 石原の言葉に小沢は笑みを浮かべて頷く。

 風防内の機器を見ながら石原に言う。


「彼らもそれが目的だと思いますね? それと墜落寸前前に何か投下したとの報告がありましたので徹底的に捜索しています」


 石原と小沢が天幕から出てきたとき、小柳参謀が息を、切らせて駆けつけてきた。

「閣下、国会議事堂から西二キロの地点で円筒型の筒を確保しました。地下司令部に運搬中です」


 その報告を聞いた石原と小沢は顔を見合わすと小柳に「でかした!」と誉めて車に乗り込むと速攻に司令部へ戻っていく。


 その姿を見ながら小柳は久しぶりに見た二人の笑顔に救われた気がする。

「何か進展があるのかもしれないな」


♦♦


 石原と小沢が急いで司令部に戻ってきたとき、回収した円筒型の筒を厳重に陸戦隊が護っていた。


 礼を言った二人は早速、それを運び込み少しだけ苦労して中身を回収する。

 そこには円盤型の小さなレコードみたいなのとそれを再生する機械? みたいなのが入っておりそして桐の箱に入れられた二通の手紙が入っていた。


 それぞれ差出人が『日下敏夫』海軍中佐と『有泉龍之介』一等海佐(海軍大佐に準じる)で二人は交互にそれを読む。


「……信じられないが未来の世界か、それも本土決戦が回避された以降の日本ね……。それに彼が乗る改造された伊400だがすさまじい性能だな。熱核融合? 聞いたことがない物だし」


「ふむ、この『有泉龍之介』一等海佐だがこの世界の日本を救う為に元の世界を捨ててこの時代に来たとの事だ」


 二人は自然と目から涙が流れ落ちていた。


 絶望状態で勝てるまでもないが負ける戦をしない策は沢山あるがそれを実行して全てが終わるまでどれだけの犠牲が出るか? それを回避できる存在が出現したことに感激したのである。


「天照様のお導きだな、小沢さん! 光明が見えてきたよ」


 二人は力強く頷くと一緒に同封されていたDVDの映像を見た。

 司令部の会議室を利用して上級幹部十数名が寿司詰め状態で鑑賞する。

 それを見続けている全員は絶句状態であった。


 あまりにもの未来の技術、イギリスが誇る機動部隊の空母や戦艦が真二つに折れて轟沈する映像やMOAB弾による上陸部隊への攻撃映像及びその後の敵の惨状等が映し出されていた。


「イギリス自慢の装甲空母が折り紙のように……」


 そして最後の映像に日下と有泉が出て現在、ウルシー環礁の米艦隊を葬る目的で航行しておりそれが終われば日本へ向かうとの事であった。


 それを見終わった二人は頷くと日下中佐を始めとする乗員全員に二階級昇進を決定する。


「巌窟王の話ではないが“待て、そして希望せよ”正にその気分だ」

 二人は頷く。


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