第35話:邂逅への始まり
翌朝、桟橋に接舷している伊400に乗員が続々と乗り込んでいく。
それを見守っている有泉に日下は甲板上から敬礼すると彼もまた、答礼で返してくれて頷く。
「艦長、ウルシー環礁攻撃に向かう前に晴嵐を射出するのですね?」
高倉先任将校が尋ねると日下は頷いてこれはどうしても必ず成功させないといけない事を言う。
「まあ、俺の勘だが先方さんは素直に信じてくれると思うよ?」
「出ましたね、艦長の勘だ! それなら大丈夫ですね」
二人が会話していると出港準備の放送が流れる。
日下と高倉が艦橋甲板に立ち、見送りに来ていた有泉達に敬礼する。
“さがみ”乗員に見送られて伊400はゆっくりと桟橋を離れて行き潜行ポイントに到達すると潜航を開始していく。
そして海底トンネルを潜り抜けて再浮上をかけてゆっくりと海面に巨大な船体が海面に出現する。
数十秒後、前部格納庫扉がゆっくりと開いて一機の無人戦闘機“晴嵐”が引き出されてきて射出レールに乗ると畳んでいた翼が展開する。
爆弾の代わりに、胴体下には円筒型の筒が取り付けられていてその中には有泉一等海佐と日下中佐の今までの事を詳細に語ったメッセージ付き映像が入っていると共に今まで人工衛星“おおわし”で撮影した映像が入った小型自動再生装置が厳重に保護されていた。
そうこう話をしている間、整備兵が最終チェックに入り全ての作業が完了する。
「準備完了です、いつでも射出可能です」
頷く日下は高倉の方を向くと彼も無言で頷く。
日下のGOサインでCICルームから遠隔で“晴嵐”が押し出されて轟音と共に上空に舞い踊る。
そしてそのまま高度を上げていき目視で確認する事が不可能になる。
その一連の映像を眺めていた“さがみ”艦橋で有泉が柳本に喋る。
「さて、それでは久々に“さがみ”を出動させるか、伊400の援護と補給を可及速やかに行う為にね?」
有泉の言葉に柳本も頷く。
「本日の0900時に“さがみ”は出港する!」
♦♦
横須賀港上空にて第二十三航空師団所属『坂井三郎』大尉と『岩本徹三』大尉がそれぞれ愛機に搭乗して上空警戒飛行を実施していた。
日本が誇る今は超UR級の撃墜王である二人は日本最強戦闘機“震電”を駆って大空を飛行していた。
二人はつい四日前に昇進して大尉になり今や日本で残存している二機のみの戦闘機“震電”を与えられていた。
「坂井さん、敵さんの日本観光はここ数週間殆どありませんね?」
岩本の言葉に坂井も頷く。
南九州で本土決戦が開始されたとき、鹿屋航空基地に応援勤務を命じられて四国上空まで来た時に横須賀防衛の為に新たに結成された第二十三航空師団への編入を命じられて現在に至っている。
「まあ恐らくは半年後? くらいに実施される関東侵攻戦の為に温存していると思うのだが一方、おかしい情報が流れている。既に南九州には敵さんがいないと」
「勝てると思うか?」
岩本の言葉に坂井は一言「無理だね」と言う。
「まあ、俺達は最後まで戦って戦い抜いて大空で死にたいね? 先に逝った奴らに馬鹿にされないように」
その時、二人は何かに気付く。
といっても周囲を見渡しても何もなかったが何かが傍を通りぬけた感じがした。
「……気のせいではないな?」
「ああ、確かに何かが通過したな」
「気になる、もしかして敵の秘密兵器かもしれないぞ?」
「よし、司令部に連絡すると共に引き返そう」
二機の“震電”は急旋回をして陸地に向っていく。
♦♦
伊400は海上を二十ノットで航行していた。
CICルームでは無線誘導で“晴嵐”を操作していた『陸奥悠人』三等海尉が日本戦闘機“震電”の真横を通過させる。
ちなみに伊400の乗員の内、海上自衛隊所属乗員が伊400勤務を望んで正式に配属されていた。
「凄いな、あれが震電か! 生で見れて最高だよ」
徳田少尉が自慢げに日本の技術の素晴らしさを自慢する。
笑みを浮かべながら日下がモニターを見ていたが急に険しい表情になりモニターを凝視すると二人が不思議そうに尋ねる。
「艦長? いかがしましたか? 後、五分後に海軍省前に投下しますが」
高倉の言葉に日下がポツリと口を開く。
「あの“震電”のパイロットは“晴嵐”を感知しているのか?」
“晴嵐”の全方位カメラが後方から追尾してきている“震電”を捉える。
正確ではないがきちんと追尾している感じがしている。
「まさか! ステルスと光学迷彩が発動しているのですよ?」
そう言った時、徳田が驚愕する。
「機関銃を撃ったぞ!」
“震電”二機の三十ミリ機銃が火を噴く。
「嘘だろ!? 命中したぞ!!」
CICルーム内にいた全員がモニターを凝視する。
命中した衝撃で光学迷彩シールドが故障したようで姿を現す。
レールガンの直撃でも破壊できない装甲を持っていたので撃墜こそされないが姿が現れたので地上は大騒ぎになるだろう。
「現在、半壊した国会議事堂上空に到達です! ここに投下しますか?」
高倉の言葉に日下が投下の命令を出すと徳田は投下の表示されているタッチパネルをタッチする。
胴下に吊り下げられている円筒が投下される。
“晴嵐”を急上昇させて“震電”から振り切ろうとするが何と二機の“震電”は信じられない運動で“晴嵐”を囲むように銃撃をしている。
「あの震電パイロットは凄腕だぞ、恐らく撃墜王クラスかも」
その時、“晴嵐”が突然、失速して錐揉み状態になって地上に激突したみたいでカメラが思いきり回転して映像と通信が途絶する。
「……」
「……」
「……」
「……何が起きた?」
「プロペラに三十ミリが命中したみたいです、そこには装甲を施していなかったので」
吉田所長が愕然とした表情で膝を折りながら床に座り込む。
「信じられない……」
日下以下発令所及びCICルームにいた乗員は暫く絶句状態であった。




