第32話:決断
横須賀軍港に記念艦として岸壁に固定されている戦艦“三笠“は米軍機の空襲により上部構造物は破壊されていた。
その“三笠”の艦内で六人の人物が椅子に座っている。
「私の提案事項に同意して頂いた方々にこの小沢、感謝の極み」
『小沢治三郎』大将、一時予備役に編入されたが残存日本艦船を導くために再び艦隊司令官に任命されたのである。
「お互い初めての人物もいる事と思う故、自己紹介といこう」
小沢の言葉に座っていた人物が次々と立ち上がり自己紹介する。
「初めまして、『工藤俊作』と言います」
「初めまして、『一ノ瀬志朗』と言います」
「初めまして、『寺内正道』と言います」
「初めまして、『木村昌福』と言います」
「初めまして、『田中頼三』と言います」
五人の自己紹介が終わった時、将官クラスが二名いる事に他の三名は緊張するが小沢は笑みを浮かべながら我々は同志故、階級関係なしに腹を割って話そうという事になって頷く。
「工藤さん、貴方の事は良く知っていますよ! イギリス兵約四百名を救った英雄だと」
「それを言うなら一ノ瀬さんもそうではありませんか」
「不死身の“雪風”艦長を務められた寺内さんとお会いできるとは長生きするものだ」
「それを言うならキスカから無血撤退を成し遂げた木村閣下は名将です」
「知っていますか? 陸の牛島閣下、海の田中閣下と敵から賛美されている事を」
お互い、知っていることを自己紹介しながら会話していた。
暫くして小沢は手をパンと叩くとを他の五人が小沢の方を向く。
「見たところ、緊張も程よく溶けたようですので本題に入りたいと思います」
小沢の言葉に他の五人は真剣な表情になり再び椅子に座ると小沢はこれから予定されているクーデター政府の行動を彼らに伝える。
「成程、現存している艦船全てを特攻に使うとの事ですか……最早、常識を失っていると見たほうがいいですね」
木村が呆れた表情をしながら呟くと田中も頷き持っていた資料をパンと叩く。
「話にならない、間違いなくこのまま放置すれば日本国は滅亡する。最も彼らは最後の一人なってでも戦うだろうがね」
「しかし、噂に聞いたが南九州に上陸した連合軍が潰滅したと聞いたが本当か?」
木村中将が信じられない表情で小沢に問うと彼も信じられない様子の表情を見せながら本当の事だと言う。
「しかし、小沢さんが言われた事についてだが本当に連合軍を壊滅させたのですか? 全く信じられないです」
一之瀬の言葉に小沢は申し訳なさそうな表情をして謝る。
一之瀬はそう言ったつもりはないと謝るが小沢は気にしていないと笑みを浮かべる。
木村が話を続ける。
「特攻隊による攻撃で一隻程度なら話は分かる。空母でも弱点はあるからな。しかしそれが立て続けに起きるとは信じられない。クーデター政権は何かとんでもない秘密兵器というか新兵器を持っているのかもしれないのでは?」
木村の言葉に今まで黙っていた工藤が口を開く。
「もしそれが本当なら特攻という愚行を侵さないと思うがね? それよりもこの狂気に支配された国を元に戻す事が大事だと思う」
小沢は工藤の言葉に頷くと陸軍の“石原莞爾”を中心とした部隊が松代大本営に監禁されている陛下を始めとする皇族を救出する事を説明して、我々海軍は東京の軍令部や海軍省を押さえることが任務だと言う。
それを聞いた五人は目を開いて驚愕するが小沢はこの作戦は我ら日本を見守る高天原の神々の頂点である天照様からの命令だと言うと皆は無言になる。
「……信じられないですがそれなら納得できる事がある。いくら混乱しているクーデター政権でも憲兵隊や特高警察を掌握している彼らの網の目を潜り抜けて今ここにいる我々を見つけることは出来ない。正に神の御加護というべきか」
寺内の言葉に他の五人は頷く。
「詳細な計画は“雪風”で話そう。大西次長に言って“雪風”を旗艦にするという願いを受け入れてくれたのでね。艦長は寺内さん、貴方にして頂こうと思っています」
寺内は少し驚いた表情であったが直ぐに小沢からの命令を受諾する。
「一刻も早くこの狂った戦争を終わらせないといけない! 決行時期は十一月下旬を予定している」
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さて、連合軍を潰滅させた伊400は一路、針路を“さがみ”がいる秘密基地へ向かっていたのである。
その島については米軍も把握していたがその島は全てが断崖絶壁やデコボコとした地面が広がっているだけで緑が一つもなく平野部分も全くない島だったので路傍の石みたいな感じであった。
その何もない島の南に断崖絶壁の岩の壁が聳え立っていて水上艦は近づく事も出来ない場所だが例外的に海中は全く違う存在だったのである。
「……海底トンネルと言うか何というか……まあ確かなことは凄いと言う事か」
水深三百五十メートル地点の目の前にポッカリと開いている巨大な穴を水中カメラが捉えた映像を日下達は見ていた。
「この当時の世界では深度三百五十メートルも潜れる潜水艦は存在しないからね? 見つからないわけだ」
伊400はそのまま速度を五ノットに落してゆっくりとトンネルに入る。
十分間、進んだ時に有泉からTV電話が来てそれをスクリーンに繋げると有泉からこの地点で浮上すればいいと言われる。
言われるまま、日下艦長の号令の元、伊400はゆっくりと浮上していく。
海面に出るとそこは巨大な鍾乳洞であったのである。




