第25話:溜息と憂鬱
草木も野原も全て焼き尽くされてただただ無人の荒野があるだけだがそれでも巧妙に隠れていた日本軍や挺身隊が飛びだしてきて爆弾を抱えて特攻してくる。
この攻撃でここまで至るに数千の死傷者を出していたが空母艦載機の連日による無差別攻撃をしている。
今回の上陸作戦に参加しているのは新兵が沢山いて今まで味わったことがない常識外れの事が自分の身に降りかかって大部分の新兵の精神が狂っていたのである。
「軍医殿、今夜も奇声を発する兵士百十人が救命テントに収容されました」
毎日毎日、精神異常を発生した兵士が救命テントに送り込まれてきて軍医を始めとする救護兵は疲労の極みに達していた。
「勘弁してくれ! 上陸してまだ三日も経っていないのに既に数千人が精神状態がおかしくなっている」
軍医歴十年のミドル大尉は欧州戦線よりも激しい戦いがこんな極東の島で起こっているのがわからなかった。
流石にこの状況を何の対策も施さないで放置しておくのは危険だと司令部へ直訴するがカミカゼの事を過小評価していた為に厳重な警戒をしていても何処からかともなく自爆特攻してくるカミカゼの対応に追われていた為、満足に現場の意見を組み入ることが出来なかったのである。
正規空母“エンタープライズ”に乗艦しているスプルアーンスは横にいるマッカーサーと会話をしていた。
「ホワイトハウスから連絡が来たが欧州戦線から新たに二十個師団が送られる事になりそうだが……それまで南九州を平定できるのかね? アイゼンハワーの顔は見たくないのだ」
マッカーサーは不満そうに艦橋から甲板上に並んでいる艦載機を見る。
「パナマ運河が潰滅的状況を踏まえればここまでくるのに半年はかかるのでは? まあコルネット作戦に間に合うかと言うタイミングだな」
「彼ら日本人は私達とは考え方が全く違う。このままいけば内陸部に行くほど、我が上陸部隊の被害は増すばかり。聞けば女性・子供等構わず爆弾を抱いて特攻をかけているとの事だ。上陸から既に彼らは百万の人員を失っているみたいだが戦意は高揚で手がつけられないという」
二人の司令官は溜息をつくと甲板から出撃する艦載機を眺める。
その時、伝令員が通信文を持ってきてスプルアーンスに渡す。
彼がその中身を見て頷くとそれをマッカーサーに見せる。
マッカーサーがそれを読み終わると何も言わずに紙を渡す。
「……サイパン・テニアン島の基地能力は零だという事だ! 全てが無に帰して更地状態で元に戻すまで数か月かかるとの事だ、コルネット作戦実施頃かな?」
二人が昼ご飯を食べる為に食堂へ向かおうとしたときに血相を変えた伝令が飛び込んでくる。
この伝令員の報告を聞いた二人は絶句と同時に叫ぶ。
「英国機動部隊が潰滅!? 空母と戦艦が全て轟沈して喪失だと!? ロドニー提督は空母イラストリアスと共に? 潜水艦の仕業か!? 分離艦隊を壊滅させた?」
スプルアーンスの怒声に伝令はビクックとするがそれにお構いなく全艦隊に指示を出すように命令する。
「潜水艦対策を厳として各空母からは対潜装備を満載した機を飛ばしてこの近海を探索操作すると共に何か不審な物体を感知すれば直ぐに連絡せよ! 鯨だとしてもだ」
スプルアーンスの命令に敬礼をして艦橋から出て行く伝令員を見ながら力なく呟くがそれはマッカーサーも同じことだった。
「何で日本の陸軍は馬鹿なことをしたのだ?」
♦♦
ここはフィリピン・マニラ空軍基地でサイパン・テニアン空軍基地が潰滅して這う這うの体で逃げて来たカーチス・ルメイ大将率いる僅かな爆撃隊が翼を休めていた。
司令棟の空軍基地司令官用の執務室内にて基地司令官『アドル・クリスファー』大将と『カーチス・ルメイ』が額を合わせて話し込んでいた。
「太平洋上に存在する基地航空隊の全てをこのマニラ空軍基地に集結させるのですか? 小官は異議ありませんが大統領の許可がいるのでは?」
アドルの問いにカーチスは頷くとそれは既に申請して間も無く答えが来ると言うが何故、今の時期に航空基地を壊滅させるだけの新兵器をこの段階で使用するのか全く分からないと言う。
それはアドルも一緒で使用するのならば本土決戦前か沖縄攻略戦の時に上陸部隊に使えば沖縄は護れたのにと言う。
「とにかく太平洋上の機数を合わせれば数千機は集まるからそれで一気にジャップの本土を徹底的に、全てを更地にしてやる」
その時、真っ青な表情で駆けこんできた通信士が叫ぶ。
「い、一大事です!!! 英国機動部隊が……潰滅! 戦艦・空母及び三十隻を喪失してロドニー提督は壮絶な戦死を遂げました! 尚、生存者は数人だとの事です」
カートス・ルメイを始めとする基地司令達が絶句する。
まるで時が停まったかのように。
この凶報はフィリピンばかりか沖縄やインド方面の英軍を始めとして連合軍全軍に知らされて一部の提督からは一旦、全ての作戦を中止して撤退してはどうかと言う意見も出たがそれはほんの一部であった為、引き続き続行となった。
「最早、賽は投げられたのだ! 今更引くことは出来ないか……」
マッカーサーは暗くなる海を見つめながら呟く。




