第23話:困惑、そして
連合軍艦隊総旗艦“エンタープライズ”にて司令官である『スプルアーンス』大将と英国艦隊司令官『ロドニー』大将が苦虫を噛んだ表情で太平洋全体の地図を見て唸っていた。
「一体、何が起きているのだ!? サイパンとテニアン島の飛行場が全滅して四千機が一瞬で失っただと?」
先刻、日本本土に向けて大編隊を汲んで飛行している筈のカーチス・ルメイ大将から事の経緯を聞いて絶句する。
「取り敢えず、残存機はフィリピンのマニラ飛行場に降り立ったが先の水準まで戻るのに数か月はかかるとの事だ! B-29の爆撃の恩恵を受けいれない今は機動部隊の航空機で対処するしかないといえる」
スプルアーンスの言葉にロドニーも頷きながら現在の艦載機なら十分、間に合う事でしょうと言いスプルアーンスも頷く。
それから一時間程、話してロドニーはエンタープライズを後にして旗艦“イラストリアス”に帰っていった。
既にサイパン・テニアン島の壊滅と分離艦隊の大損害の事は一気に広がっていて一部の者は軽いパニックになっていた。
「こんな所で死にたくない!」
「ジャップの頭の中身はどうなっているのだ? 爆弾抱えて突っ込んでくる!」
「女子供老人問わず万歳突撃してくる! 狂ってやがる!」
「トルーマンを始めとする閣僚もこれを経験してみろ!」
この上陸戦の兵員の半分が新兵や経験年数が浅い者達であり開戦以来からのベテランは休息や精神がおかしくなって入院したりしていた。
この事態を打開する為に連合軍はマスタードガスや毒ガス等といった非人道兵器の使用を推奨する。
南九州に連合軍が上陸してから四日後、遂に伊400は鹿児島から南東方面三百キロ手前まで戻ってきたのである。
既に人工衛星“おおわし”は南九州に焦点を合わしていて鹿児島や宮崎での悲惨な現地が鮮明にモニターに映し出される。
“さがみ”や伊400では目を背けたくなる地獄絵図が展開されていて免疫がない者はトイレに駆け込んで吐く乗員もいた。
「……これは……酷すぎる!」
「奴らの所業……まともな人間がすることではない」
連合軍兵や日本軍に混じって沢山の非軍人の人々が折り重なって絶命していて体が千切れている死体や頭半分が吹き飛んで亡くなった者達が無数に転がっている。
その者達の亡骸を戦車や装甲車が踏みつぶして進撃する。
やっとこの無残な姿に何とか耐えられた乗員が激怒して報復を叫ぶ者が続出したがそれは普通の感情であった。
日下は高倉の方を振り向いて頷くと命令を出す。
「残存魚雷全弾を発射して先ずは英国機動部隊を壊滅させて荷電粒子砲を以て連合軍艦船を消滅させる! この戦闘で全ての兵器を使い果たす故、そう心得よ。MOAB弾も全弾発射し尽くす!」
この日下の命令に乗員全員が雄叫び声をあげて戦意が上昇する。
“おおわし”から送られてくる英国機動部隊の位置を徳田が入力していきそれを魚雷管制室に転送して魚雷にインストールする。
「英国機動部隊の戦力だが……空母七隻、戦艦四隻が存在しているな。これを全て沈めよう! “イラストリアス” “フォーミダブル” “ヴィクトリアス” “ユニコーン” “インドミタブル” “インプラカブル” “インディファティガブル”の空母か、全て装甲空母だな。戦艦は“キング・ジョージ五世” “デューク・オブ・ヨーク” “アンソン” “ハウ”だな」
“おおわし”から送られてくる鮮明な映像を見ながら確認する。
ジョイスティックを動かして色々な方角で確かめていく。
「一番から八番、同時に発射後再装填だ! 空母と戦艦を沈めれば後は巡洋艦・駆逐艦の順番に沈めていくぞ!」
五分後、魚雷管制室から準備完了との連絡が入りCICの徳田からも魚雷管制システムも正常との報告を受けると日下は頷いて命令する。
「発射!!」
日下の言葉が終わると同時に徳田がタッチパネルに表示されている魚雷発射を意味する赤いボタンを八回押す。
艦首魚雷発射管八門から必殺の魚雷が同時に放たれると直ぐに次弾の魚雷が装填されて再び発射する。
それを四回実施した時、艦内の備蓄魚雷が尽きたことが報告される。
「よろしい! 魚雷全弾が命中して戦果を確認した後、浮上してMOAB弾を使用する」
♦♦
装甲空母“イラストリアス”艦橋ではスプルアーンス提督と会談を終えたロドニーが艦長席に座って副官と会話していた。
「話を聞けば米国は相当、焦っているようだが本当の事なのかな? どうみても大袈裟な感じがしないでもないのだが?」
「しかし、スプルアーンス提督は冗談を言うタイプではありませんし上陸部隊もかなりの抵抗を受けて未だ海岸線から内陸部に入った所だと聞きましたが?」
艦長と副長の会話に通信参謀の『ダニエル』中佐が入ってきて本国から現在の状況を送れとの連絡が来たことを伝える。
「……そうだな、何も問題なしと打電してくれ。最早、連合軍を脅かす者は日本には最早無とね?」
ダニエル中佐が敬礼して艦橋を出て行くのを見届けた後、溜息をついたロドニーが呟く。
「全く、チャーチルの爺はせっかちだな」
この瞬間、英国機動部隊に迫る死神の鎌が振り落とされた瞬間であった。




