第21話:上陸戦②
昭和二十年十一月一日、米軍を始めとする連合軍は「ダウンフォール」作戦を開始して南九州の三ヶ所にて同時侵攻を開始する。
その中でも上陸地点の一つである鹿児島県“志布志湾”が連合軍の中でも最大規模を誇る主力部隊の目標でもある。
日本本土の陸軍兵力は、沖縄戦前は四十万未満であったが満州からの転用や、「根こそぎ動員」と呼ばれる昭和二十年春に実施した赤紙召集等により二百万人に達したのである。
日本陸軍は、米軍が昭和二十年十一月に宮崎市、志布志湾、薩摩半島西岸に上陸すると正確に予測してその準備として九州の陸軍兵力を九十万人に増やしたのである。
そしてその多くは、“志布志湾方面”を担当する部隊に配備された。
そのうえ、八月に阿南陸軍大将を始めとする徹底抗戦派による軍事クーデターにより日本政府内における降伏派の官僚の殆どが粛清されて政治組織は壊滅する。
その結果、計画性を以て備蓄されていた弾薬や食料等は根こそぎ軍に徴集されて一般家庭等に配られる配給物質は皆無状態になる。
陸軍を中心とする戦時内閣は祖国を護るために戦う決意をした者は年齢及び性別関係無しに防衛組織に入ることを奨励する。
その結果、数値上では九州方面だけでも二百万にも及んだのである。
その中には小学生や女学生といった十代前半の子供も多数参加していた。
クーデター政権は、「国民義勇戦闘隊」という民間人のみで組織された部隊を新設する。
武器は、隊員各自が竹槍、刃物、弓矢、猟銃などを用意した。
「気合があれば竹槍で戦闘機を撃墜できる」
彼らを訓練する陸軍士官は真剣な表情で力説する。
最早、正常な判断が出来る軍人・民間人の殆どがいない状態であった。
それと並行して新たに新設された「沿岸配備師団」は、海岸の横穴陣地やトーチカとその背後の丘陵から、米軍の上陸部隊を制圧射撃し、そこへ内陸から「機動打撃軍団」が前進して殲滅するという作戦構想を立てる。
いずれも兵器が不足していたが、まず現地の地形に習熟し、その間に兵器を生産するという理由で配備されて最後は、爆弾を抱えて一人一殺の精神を以て特攻することを教える。
日本軍は米軍の九州上陸部隊の半数を、特攻機・特攻艇で撃沈することを計画していて全国各地から飛び上がるだけの航空機等を集めて約一万機を確保したがその中でも新型機は対象外とされた。
それと同時に未だ健在している超ベテランパイロットは特攻を禁止する命令を出していて特攻実施者は未熟搭乗員が主である意味、喜劇のようである。
大型艦を始めとする主力艦艇を失った海軍は、水上・水中からの特攻が主な攻撃手段となった。十月下旬には、特殊潜航艇・蛟龍・海龍・人間魚雷・回天・特攻艇・震洋が配備され、生産が続いていた。
特殊潜航艇は生還不可能ではないが、魚雷不足のため、爆薬を積んで特攻することが前提となっていた。
九州方面に新たに赴任した『神重徳』大佐は、あまりにもの無秩序で無計画の行動に唖然としたのである。
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正規空母“エンタープライズ”に将官旗を掲げる『スプルアーンス』大将は全艦船に砲撃命令を下す。
「全艦、艦砲射撃開始!! 弾は無限に用意しているから撃って撃って撃ちまくれ」
戦艦“ミズーリー”を始めとする連合軍戦艦等が志布志湾岸に向けて砲撃を開始する。
「提督、カミカゼは出て来るでしょうか?」
参謀である『スミス』大佐が尋ねるとスプルアーンスは頷く。
「彼らは必ず来るよ。今回、参加する殆どの艦船の乗員や上陸部隊は日本のカミカゼの恐ろしさを経験していないからね? 精神が壊れる者が無数に現れるだろう」
彼がそう言った時に伝声管から大声で連絡が入る。
「レーダー管制から連絡! 約百機の大編隊を確認しました!」
スプルアーンスは頷くと直ぐに命令する。
「輪形陣外の防空巡洋艦及び防空駆逐艦はVT信管の装填を急げ! 直掩機は直ちに迎撃しろ」
機動部隊を援護している直掩機二百機は直ちに迎撃態勢に入る。
鹿屋航空基地から飛びだった特攻機五十機と護衛している戦闘機十機は敵機動部隊に向かっていた。
「山崎兵曹長、俺達はここまでだ。ここから真っすぐ進めば敵機動部隊に到達できる! 幸運を祈る」
護衛機隊長の『堤秀隆』少尉が特攻機隊を率いる山崎兵曹長に無線で伝えると山崎はキャノピー内から敬礼する。
十機の護衛機は翼を翻して鹿屋基地に帰投していった。
戻る途中、堤は唇を噛みながら苦々しく呟く。
「この戦いは狂ってやがる! まだあいつらは十五歳なのだぞ、これからの青春を楽しむべきの彼達なのに」
堤は特攻に成功するのは僅か数機程度だろうと思う。
中国戦線から空一筋で戦ってきた彼は敵機を撃墜した実績は十機にも満たないが生存能力は人一倍優れていて真珠湾から始まり数々の激戦を生き抜いてきた。
堤達は鹿屋に戻り次第、次の特攻隊の護衛の為に出撃することが決まっていた。
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堤達と別れた山崎率いる特攻隊五十機は堤に教えられた通り低空飛行にうつる。
これはレーダーに映らないようにする飛行であったが離陸するだけの技量を持つ彼達には到底無理でこの行動で八機が海面に激突してしまう。
しかし、残りの機は何とか突き進み遂に水平線に機動部隊を捉える。
だが既に彼らの位置は確認されていて上空から直掩機の大群が雲霞の如く襲い掛かってくる。
あらかじめその時の対応を教えられていた山崎は信号弾を撃つ。
その合図で二十機の航空機が上空にあがり直掩機の編隊に突っ込んでいく。
この行動に直掩機は動揺する。
しかも全機がこのまま直掩機に自ら突っ込んでいき激突する。
この突然な異様な行動に直掩機群が慌てて散開する。
「何やっているのだ!? あいつらは! 狂ってやがる」
直掩機隊長の『スミス』大佐は突然の敵の行動に動揺する。
その混乱の隙をついて残りの特攻機が機動部隊に突き進むが既にVT信管を搭載した高角砲が火を噴きたちまち数十機が火達磨となって海面に落ちる。
しかし、それでも悪魔のような弾幕を超えて突き進む機もあった。
防空艦を超えた七機の特攻機はエセックス級空母を黙視する。
山崎はそのまま直進していく。
横を見れば僚機が火を噴いて海面に激突する。
残り三機になった航空機の内、二機が甲板上に激突しようと機首を上げた瞬間に対空砲火に撃墜される。
山崎はそのまま空母の側面にスピードを上げて突入準備に入る。
側面に備え付けられている機銃が彼の機にバシバシと命中して遂に風防ガラスを突き破り眉間に命中する。
走馬灯が彼の頭を駆け巡る。
可愛い幼馴染みと野山を駆け巡った事や誕生日に両親から祝ってくれた事。
「お父さん、お母さん!」
彼の執念は実って空母の舷側に激突する。




