第18話:上陸戦
昭和二十年十一月一日、米軍を始めとする連合軍は遂に無数の艦砲射撃から三方向同時に上陸開始したのである。
だが、スムーズとはいかなく、上陸はかなり難攻で行えなかったのである。
上陸海岸地点沖に接近すると共に神風特攻隊の数と頻度が増すばかりであったからである。
大船団上空では各空母から飛びだった艦載機の大編隊が大きな円を描きながら旋回していた。
それはカミカゼから船団を護る守護神である。
また、船団の周囲にはハリネズミのように対空兵器を満載した無数の駆逐艦や巡洋艦が走り回っていたが夜になるとカミカゼが襲ってきて敵味方とも阿鼻叫喚の地獄絵図が出来上がっていたのである。
「クソッタレのジャップ! やはり猿の脳みそしかないから野蛮な事をする!」
エセックス級空母“イントレピット”の右舷機銃座にて『ボブ』一等水兵は対空砲火に突っ込んでくる特攻機を見て叫ぶ。
連日連夜、特攻機が突っ込んでくるのでその度、精神と神経をすり減らしていて寝不足が祟っていたが日を重ねるごとに空母の傍まで接近してくる気配は少なくなってきたが今度は海中からの特攻によって精神がすり減らされていたのである。
先日、巡洋艦一隻が海中からの特攻兵器によって撃沈されていて海上行動中の駆逐艦隊は半分、狂った勢いで無数の爆雷を投下していた。
海底に密かに停止していた特殊潜航艇が真上を通過しようとしている時に急浮上で体当たりを敢行したりするので突然、何の前触れもなく爆発音が響き渡る。
「今夜もカミカゼが襲ってくるのだろうね?」
空母“イントレピット”艦橋で『ブライト』艦長が葉巻を咥えながら真っ暗になった海上を眺めていた。
彼は、真珠湾から現在まで空母一筋で艦長になった叩き上げの人物である。
「最近は彼らの行動が鈍くなりましたが遂に特攻兵器がなくなったのでしょうか?」
副官の『ブライダル』中佐が出来立てのコーヒーを入れたカップをブライトに渡すと艦橋内から飛行甲板を眺める。
甲板上では艦載機がビッシリと並んでいた。
「いや、奴らは我々が上陸を開始し始めたら再び来るだろうね? 最も標的は我々ではなく上陸用舟艇等だろう」
このブライトの予想は的中しており上陸を開始する為に無数の上陸用舟艇が兵士を満載して宮崎海岸へ向かうときに再びカミカゼが襲ってきたのである。
宮崎海岸付近の岸壁に巧妙に隠されていた洞窟から二十隻の“震洋”が今まさに出撃しようとしていた。
「七生報国、死して護国の鬼となる!」
“震洋”乗員『古代収蔵』二等水兵は精神が高揚していた。
彼の実家は鹿児島県の桜島が見える場所であったが一月前に軍部による特攻志願兵の募集が出されたときに迷わず応募したのである。
年齢は基準に満たされていなかったが誤魔化して採用されたのである。
最も担当官はそれを知っていたようだが一人でも勇敢な者が欲しいので黙っていたのである。
「父上・母上、弟や妹よ、兄は立派にお国の為に戦ってきます!」
出撃前の基地司令官の演説が終わると司令官の音頭で乾杯して岸壁をくり抜いた発進台まで駆け足で移動する。
「靖国で待つ!」
「そうだな、どっちが先に靖国に行くのかな?」
親友の『高杉啓介』二等水兵と握手する。
整備兵が格納していた“震洋”をトロッコに乗せて引き出して発進台に乗せる。
「古代、出撃します!」
「高杉、出撃します!」
その他、次々と戦士たちが“震洋”に乗り込むとエンジンを始動する。
第一陣である十隻の“震洋”が次々と出撃して沖合の上陸用舟艇に向かって最大速度二十五ノットに増速する。
その時の米軍はまさかカミカゼが襲ってくるとは思わなかったので完全に不意をつかれてしまう。
上陸用舟艇が目の前に迫ってくると共に古代は笑みを浮かべる。
「お父さん、お母さん、今まで有難うございます! 天皇陛下万歳!!」
彼達が目前まで迫ってきたときに気がついて照明弾を上げて周囲に知らせるが時すでに遅く次々と体当たりしていくと同時に搭載していた爆薬が爆発して上陸用舟艇が吹き飛んでいく。
この初戦で数百人の死傷者を出したが直ぐに体制を整えると多数の魚雷艇が出撃してくると同時に照明弾を打ち上げて第二波に備える。
そのお陰で第二波の十隻の“震洋”は遥か目前で海の藻屑となる。
「……奴らは何者だ? 気が狂っている!」
上陸用舟艇に乗っていた『ザク』少尉は突っ込んでくるボートみたいなのを見て心の底から震え上がる。
「ノルマンディーよりもましだとわざわざ異動してきたがそれ以上の酷さじゃないか」
彼は、ノルマンディー上陸作戦に参加した兵士で最大の激戦と言われたオマハ・ビーチを生き延びた猛者であったがこの海域で死神の鎌に魅入られる。
彼の乗っていた舟艇は海底から侵入した銛の先に爆薬を付けた特攻潜水夫によって爆破されたのである。
海上・海中・空から続々と襲撃してくるカミカゼを何とか撃退しながらようやく十一月三日、宮崎海岸に上陸して陣地を構築する。
だが、海岸から内部に進撃しようと進んだ時に何処からともなく砲撃が開始されると共に海岸の砂浜を掘って蛸壺に潜んでいた数千の挺身隊や軍人が飛び出してきて胸に抱いた爆弾で戦車等に突撃する。
「天皇陛下、万歳!」
この一斉特攻による攻撃で数百台の戦車や数千人の兵士を失ったのである。




