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最終話:伊400よ、永遠に!

遂に最終話を投稿します!


最期は大団円を迎えますので最後まで読んで頂ければ幸いです。


 夢を見ていた……。

 その夢は、美しい景色の中で全身を温かい日光の光を浴びながら……寝転ぶ。

 そして……その夢は終わり一人の男が布団の中で目を醒ます。


「……ここは……?」

 布団で寝ていた男性が体を起こすと見慣れた景色というか数年ぶりに見たような景色であった。

「……夢だったのか? 今までの事は?」


 男性が床の間に飾られているカレンダーを見ると1999年8月を示していた。

 そう、別世界に旅立ったあの日であった。


「……リアルな夢だったがもう一度、伊400に乗艦出来てよかった。これで本当に靖国にいけるのか」


 そう、その男性は『日下敏夫』で天寿を全うしようとしていた時に別次元の日本に飛ばされた……と思っていたが全て夢だったのかと思うと少しだけ寂しかった。


 その時、背後に誰かが出現した気配がして後ろを振り向くと巫女装束を着た綺麗な女性が笑みを浮かべて立っていた。


「日下敏夫、よくぞ別世界の日本を救って頂いて有難うございます。私は天照、日本国を守護する女神。貴方が見たと思っている夢は全て現実です、もう少しで寿命が尽きようとした瞬間に魂を取り出して新たに造った肉体に魂を入れて転生させたのです」


 天照の説明に唖然とする日下だったがあの数年間、色々と常識を覆すような出来事を沢山、経験したので天照と名乗る女性の説明を全て受け入れる。


「……天照様、全て信じますが結局、あの世界はどうなったのでしょうか?」


 やはり日下にとって途中でリタイアした世界の行く末は気になるのは当たり前で日下の問いに天照はにっこりと微笑むと質問の代わりにある提案をしてくる。


「まあ、それは後にして……日下敏夫よ、これからどうするつもりですか? 貴方に選択肢を二つ示しますが好きに選んでください」


 天照は先ず、第一案としてこの世界で再び魂を転生して赤ん坊から再び別の人生を歩むか? ちなみにそれを選べばあの世界を救った褒賞として国ガチャ・親ガチャ等といった人生を楽に生きられる道と第二案として永遠の命を手に入れてまだまだ沢山ある未知の次元世界を旅する道を選ぶか? それを選べば再びあの伊400に戻れるようになれると。


 日下は第二案の内容を聞き終わった時に間を置かずに第二案を選んだのである。


「やはり……貴方はそれを選びましたね? それでよろしいですね?」


 笑みを浮かぶ天照に日下が頷くと天照は再度、念を押してこの平成の世界に未練はないのですね? と聞くと日下はしっかりとした返事で答える。


「もう間もなくこの世界で命が尽きようとしていたのです、私が思うにこれから先のこの日本はもっともっと大変な目に合うと断言できます。その世界で楽な人生を生きたとしてもあの世界で過ごした時の事と比べれば絶対に物足りないと思います」


 日下の答えにしっかり頷いた天照は何か呪文を唱えると右手に天沼の矛が出現すると目を閉じて神の祝福の文言を唱える。


 日下の身体が光に包まれると信じられない事に体全体がみるみる若い時の身体になり最終的に四十代の時に、伊400に乗船した時と同じ容姿迄若返ったのである。


「では、参りましょう! 再び伊400に戻るまで時間が沢山ありますので平行世界をジャンプしながらあの世界の……日下敏夫が殉職したあの時から数十年後の未来と人物たちのその後を……見て語りましょう」


♦♦


凶弾に倒れた日下の亡骸を抱えたまま、橋本は日下の身体を揺すりながら起きて下さい、艦長! 起きて下さいと叫ぶが最早、ただの屍だった。


 転げるように甲板に出て来た救護班が直ぐに脈を見たが勿論、駄目であった。


「橋本先任将校、日下艦長の命令を先に果たしましょう!」

 西島航海長が震える声で橋本に言うと彼は頷くが己に対して怒りが沸いていた。


 まだ講和条約もしていない商船をわざわざ助けに行かなければこんな悲劇が起こらなかったのに……。


 もっと止めておきましょうと強く言うべきだったと頭の中でそれがグルグルと回っていたが再度、西島航海長の言葉に我に返って引き続き船員の救助を一人も欠けることなく助けるのだと厳命して作業を再開する。


 冷たくなった日下の遺体は四人の乗員達が即席のタンカで船内に運び込むと同時に医療班によって防腐剤で腐敗させないように処置して今まで使う事が無かった安置室に運び込む。


 作業はそれから二時間にも及び伊400は反転して港に帰り、船員たちを領事館に引き渡すが悲劇を聞いた朝倉一等書記官は持っていた書類を落としたがそれに気が付かない程、ショックを受けたのである。


「言わなければよかったですね、本当に申し訳ありません! 祖国を救った英雄を殉職させてしまった事を」


 深々とお辞儀をしながら詫びる朝倉に橋本は頸を横に振りながら日下艦長ご自身で救助に行くことを決定したのですから朝倉さんが責任を感じる事はありませんと言う。


 一連の手続きが終わった時、やっと本国の有泉とTV通信が繋がり今までの報告をすると有泉は手に持っていたコーヒーカップを落とすがそれに気が付かず茫然とした表情をする。


 思考が停止したようで橋本の言葉に暫く反応しなかったがやっと我に返ると血相を変えながらその話は本当か? エイプリルフールはまだまだだぞ? と聞くが橋本は事実ですと言うと崩れ落ちるように艦長席に座って頭を抱える。


「……何という事だ! そんな馬鹿なことが……起こるわけがないではないか! 今からこの日本を皆で復興させていこうと宴会の時に誓った筈なのに」


 その言葉を発して数分後、弱弱しく顔を上げるとその件は了承したので石原莞爾や小沢治三郎に連絡すると言い、取り敢えず呉軍港まで至急に帰投して欲しいと言う。


 橋本は頷いて生前、もしかの時に記していた遺書の内容を有泉に伝えると彼は頷いてその通りに実施しようと答えてTV通信を切る。


 橋本が力なく通信室で立ち竦んでいた時に吉田技術長が眼を真っ赤にして泣き晴らしながら最後のお別れを済ませたので残りは橋本先任将校だけですと伝える。


 その言葉に頷いた橋本はゆっくりと歩きながら安置室まで行く。


 その途中、大泣きしている乗員や力なく狭い通路の端の方で座り込んでいた乗員がいたが橋本もそれに注意する気も起らず安置室の前に来てゆっくりと扉を開けて中に入る。


 防腐剤で処理された遺体は透明な冷凍棺桶に寝かされていた。

 その遺体をじっと橋本は立ち竦んでいたがやっと口を開けて呟く。


「艦長、戻りましょうか。私達の祖国である日本に……」


 知らず知らずのうちに涙が途切れることなく流れ落ちていくが拭う事も無く暫く立っていたが二番手の任務を果たす為に、踵を翻して安置室を出て発令所に向かう。


 士気が激減した艦内全体は正にお通夜の状態であったが橋本は大声で力強い声で怒鳴る。


「お前達、いつまで呆けておるか! これより当艦は呉軍港に針路を取って帰投するがそんな腑抜けた状態で祖国で待っている仲間達に顔を合わせられると思っているのか? 今から嘆くのを辞めろ! 帰るまでが任務だ、これより1100時、日本に向けて出港する故、準備急げ!」


 今まで二番手の位置であった橋本は日下の陰に隠れて表に出ていなかったがこの伊400に乗る前はれっきとした一等潜水艦“伊58”の艦長であったので命令と指示は的確であった。


 橋本の気合の入った怒声に乗員達は一瞬で気を引き締めて持ち場に飛んで行く。

 十分後には各部署から次々と異常なしとの連絡が入り橋本は頷く。


 1100時、伊400は出港して沖合で潜航開始する。

 その姿を朝倉一等書記官は最後まで見送ったのである。


 伊400の航行は順調に順調すぎて半月後、豊後水道手前まで到達すると無線が入り呉軍港から二十キロ手前で浮上して洋上航行で呉に入港しろとの連絡を受ける。


 それに従ってその地点に到達すると伊400は浮上する。

 海面に出た伊400を待っていたのは何と無数の艦船で呉軍港まで左右に展開していたのである。


各艦船の甲板には船員たちがずらりと並んでいて敬礼する。

 伊400の前方には駆逐艦“雪風”が停止していて当艦が呉軍港まで案内しますと無線が送られてくる。


 手が空いている伊400の乗員達が甲板上に出て整列する。

 そして雪風の先導で左右に展開している大小艦船の間をゆっくりと進んでいく。


 呉軍港に近づく程、艦船が大きくなっていく。

 呉軍港の手前まで来た時に戦艦“長門” “榛名” “伊勢” “日向”が弔砲を合計十五発を撃つ。


 その様子を見ながら甲板上に並んでいた乗員達が敬礼をして戦艦の間を進んでいき呉軍港第一桟橋に到達するとそこには何と石原莞爾や小沢治三郎と言った日本の最高指導部の面々が彼らを迎える。


 海軍と陸軍の高級軍人がずらりと並んでいる所を四人の乗員が日下艦長の遺体が入っている棺を担ぎながら伊400から降りる。


 そのまま棺は呉基地に急遽作られた霊安室に運び込まれる。


♦♦


 日下の遺言は自分の葬式は派手に行わないで欲しいとあったので葬式自体は特に彼と生前、関りがあった者達で質素に厳かに執り行われる。


 かつて山本五十六元帥が戦死した時にした大パレードみたいな事は一切、しなかったがそれでも数百人が集まり故人を偲ぶ。


「しかし、計画と言う物はうまくいかないものだな……。私はね、これから続々と建造される伊400型潜水艦で構成される潜水艦隊の司令官として彼を就任させるつもりで命令書も作成しておいたのだがそれも無駄になったよ、中将に昇任させて……ね」


 実際、現時点で伊404・405が海軍に引き渡されて現在も十隻が建造中であった。

 これからの日本海軍の進む道は潜水艦メインとすることが決定されたのであった。


 木村連合艦隊司令長官が寂しそうな表情で橋本に言うと彼ももし生きていれば喜んでその要請を受け入れたでしょうと答える。


 日下敏夫少将は二階級特進して大将になり、呉軍港が見渡せる丘の上に埋葬されてそこに小さな胸像が建てられる。


 遺言で立派な墓は不要であるとの事だったので普通の市井の人が埋葬されるぐらいの墓であったが綺麗に整備されてその管理は呉鎮守府の業務の一つとして組み込まれたのであった。


 それから数日後……

「国を救った大英雄にしては本当に質素だが彼の遺言だからね?」


 石原莞爾が東京の陸軍省で小沢治三郎と話している。

 そして誰もがいない部屋であったので小沢は先日、見た夢を石原に話すと石原も吃驚して小沢に確認する。


「天照様が夢の中に現れのか? 私の夢にも現れてここまでやってきたことを思いきり褒められたが?」


「ええ、私も褒められて労いの言葉を頂きましたが……天照様の次の言葉に信じられなかったですが」


 石原と小沢は、亡くなった日下敏夫が元の世界に戻り、永遠の命を手に入れて前の世界の肉体のまま無数にある平行世界の日本を救う為に時の漂流者となることを選んでその手段として伊400に戻ってくることを教えてくれたのであった。


「永遠の命……か、人それぞれだが私は……必要ないと思うがどうなのだろうか?」


 小沢はその話を遮ってこれからは何が起きるか分かりませんが皆で力を合わせてこの日本を建て直しましょうと言うと石原も大きく頷く。


「さあ、今日も忙しくなるな? 休む暇もないがやりがいがある」

 二人は顔を見合わせて笑いあうと立ち上がって部屋から出ていく。


♦♦


 今までの一連の様子を見た日下は満足そうに頷く。

 天照は最後にこの世界の行く末と彼らのその後について語りそれが終れば伊400に戻れることを話す。


「それでは、語りましょうか! この国の未来、そして世界を」


 昭和二十三年初頭、ソ連は遂にスペインとポルトガルに雪崩れ込んでこれを制圧するが得るものは何もなく焦土戦術として国民の大部分はイギリスや米国に亡命したのである。


 本当に国土は自分達の手で破壊されておりあまりにもの惨状にソ連兵自体が茫然自失したのであった。


 スターリンは激怒してその地に残っている者達を女子供老人構わず虐殺しろとの厳命を出して実際に数十万人が処刑される。


 そこから南に転進してイタリア方面へ向かおうとしたときにソ連を始めとした世界中が仰天するイベントが発生したのであった。


 それは極東の一角の都市である“ウラジオストック”が日本軍の手で占領されてそこを臨時首都とした“ロマノフ正統王朝”が再興されたのであった。


 その時の日本首相は石原莞爾が陸軍大臣と兼務する事になっていて東久邇宮総理は引退して後任を譲ったのである。


 ニコライ二世一家は虐殺されたのが定説であったので初めは偽物だろうと言っていたがニコライ二世自身による演説で一家は無事であり生き残ったカラクリを言うとこれもまた世界が吃驚する。


 それとかろうじて生き延びたニコライ二世一家は何と伊勢神宮に保護されていたのであった。


 クレムリン宮殿ではスターリンが真っ赤な顔になり激怒する。


「己!!! レーニンの売国奴めが! 今より大逆罪を適用してやる! 安置している奴の遺体を粉々に破壊して晒すのだ! 裏切り者めが」


 スターリンの激怒の元、レーニンの防腐された遺体は棺から出されて引き千切られて晒されたばかりか戦車の砲撃でレーニン廟を粉々に破壊する。


 しかし、この件でスターリンを恨んでいる者達は内心、激怒する。


 そして直ちに欧州侵攻軍を全て極東に差し向けてロマノフ正統王朝とかいう偽物を叩きつぶしてニコライ二世一家を捕らえてギロチンに処して人民に晒してやると喚く。


 直ちに欧州侵攻軍の殆どはスターリンの無茶な命令で輸送計画はナニコレ? という風にとにかく人員をシベリア鉄道で送り込んでいく。


 そして余計にスターリンを激怒した事はあのジューコフがロマノフ王朝の陸軍元帥に就任した事である。


 三月後、とにかく数だけ集めたソ連軍七十万、戦車を始めとする車両が八千両、その他に自走砲等といった補給関係車両全て合わせて百十万がノモンハン郊外でロマノフ王朝軍と激突する。


 ソ連が圧勝すると世界は確信していたが実際に蓋を開けてみると結果的にソ連軍は世界史上最大の大敗北を喫したのである。


 全軍の九割以上を失ったソ連軍は事実上、これ以上の侵攻は不可能になったのである。


 生存者は僅か数千名という信じられない有様でノモンハンの地はソ連兵の血で大地は真っ赤に染まったのである。


 この戦いに日本から供給された五式中戦車“チリ改”八百両、『池田末男』中将率いる二連砲塔超重戦車“オニ”百両を始めとする陸上自衛隊全軍が参加した結果であったのである。


 そして王朝軍や日本軍の戦死者は僅か数百名で文字通り完勝であった。

 この大敗北でスターリンは激怒して責任を取らせて粛清をしようとしたが粛清する人物が全て戦死したのでどうすることも出来なかった。


 圧勝したロマノフ王朝軍は次々と破竹の勢いで極東地域を制圧して満洲全土をも掌握する。


 ソ連軍の熾烈な統治でボロボロになっていた各地では大歓迎を以て迎えられる。


 そして再び満州は溥儀を頂点とする新満州国が建設されるが日本を後ろ盾として昔のやり方は放棄して対等に付き合う事を決定したのである。


 ソ連軍が消滅した欧州各地では続々と各国の復興が実現したが内情は最悪で欧州が戦前の勢いを取り戻すには一世紀の時が必要だったのである。


昭和二十四年五月九日、再び世界中が驚愕する事件が勃発したのである。


スターリン爆殺事件でその当日は、対独戦勝記念日で赤の広場で実施された軍事パレードにて突如戦車砲がスターリンを始めとする上層部席めがけて発砲した結果、後任と目されたフルシチョフやベリア等といったKGB高級将校も吹き飛ぶ。


それを皮切りにウクライナ、チェチェンといった衛星国が次々と独立宣言をして正にカオスな状況に陥る。


だが、完全に疲弊した欧州や、国土は無事だが日本との戦いの影響で国力が大幅に激減した英国は何もすることが出来なくて東欧はこれより数十年間の内戦を始めとする大混乱の時代が続く。


中国方面では蒋介石率いる国民党がソ連の後ろ盾で破竹勢いで進撃した毛沢東率いる共産党軍に本土を追われる一歩手前まで来たがソ連の崩壊と日本の軍事派遣で一気に巻き返して長安郊外の決戦で毛沢東は大敗北して彼の行方は永久に分からなくなったのである。


日本と国民党との間で日中講和条約が締結されて蒋介石と石原莞爾が固い握手をした写真が世界中に発信されたのである。


日中講和条約時では領土の境界線についてはしつこい程、話し合って尖閣諸島は日本の統治下と言う不文律を作成して蒋介石と石原莞爾の署名を以て境界線の問題はこれ以降も発生しなくなった。


忘れてはならないが米国の方は国力の復興をメインとして他の国に構う事が無く独自に動いていたがやはり日本との戦いで若者を始めとする働き手を失ったので困難な道を歩んでいた。


偶然であったが日米とも、潜水艦戦力の充実を図る事となり巨大空母を始めとする水上艦艇の建造は最低限になったのである。


昭和二十五年にマッカーサーは大統領職を退いて後任にアイゼンハワーが第三十五代大統領に就任する。


しかし四年後の昭和三十年に引退して第三十六代大統領として『ジョン・F・ケネディー』が就任したのである。


彼は暗殺される事無く実に二十年間も大統領に選出されて、この時より再び米国は黄金の時代を取り戻すための時間が短縮されていくのだがそれは又、別の話である。


最期に日本であるが日米講和後、驚異的な疾風速度で復興が為されていき昭和二十五年には東京から新大阪まで一直線に走る新幹線が開通したのである。


時速二百キロ以上を超える夢の列車の登場は世界中の憧れとなり連日、海外から国賓が殺到したのである。


石原莞爾を始めとする政府首脳部での方針は自然と調和するというテーマで復興計画が建てられて日本の大都市を始めとする地方の都市でも道路が整備されて京都の町風な碁盤の目に土地区画が変更されていったのである。


新幹線と並行でアウトバーン並みの高速道路が建設されて増々、物流の循環がよくなっていくばかりであった。


そして政府機能も各地に分散されて海軍省は呉の地に陸軍省は大阪の地に移転になると共に大蔵省や厚生省といった各組織も日本全国に分散して東京には内務省と内閣や国会、法務省がそのまま置かれたのである。


この驚異的な復興の速さの秘訣はやはり有泉龍之介率いる“さがみ”の力の恩恵の結果であり有泉はその復興計画の最高責任者として内閣総理大臣に匹敵する権限を与えられて各地を奔走して復興を成し遂げていく。


一番の目玉は地下避難施設として全国民一億人以上が避難できる地下都市計画を百年単位で実行する事であった。


この方針は石原莞爾も大賛成で官民一体となり不眠不休で工事が続けられて百年経った時に初めて完成する。


 いわゆる核シェルターの役目を果たし全一億人以上の国民が地下都市で一年間は生活できる広さと食料や水が用意されるのだがそれは又、別の話である。


 最後に伊400の話に移るが呉に復帰後、本土復興の為に必要な物資の輸送任務に就いて東南アジアと本土を往復する単調な任務に就いていたのである。


 退役する予定であった橋本大佐以下の者達も引き続き伊400に残ったが奇妙なことに艦長不在のままであった。


 橋本は固く辞退して代わりの者を選出したが打診を受けた者達は全員が断ったのである。


 無理はなくあの常識外れた潜水艦の性能を自由自在に動かすと共に一癖二癖三癖もある歴戦の強者の乗員達を従える事が遥かな高難易度であったからである。


 一度は功名心溢れる大佐クラスの将官が臨時艦長として就任したが僅か数時間で逃げるように退艦して辞退する結果になったのである。


 有泉の要請で伊400は正式に日本海軍の組織に組み込まれることは無く除籍と言う言葉も無縁で幽霊として扱われたのであるが本人たちはそれで満足であった。


 昭和二十四年十二月中旬、伊400の乗員全てが奇妙な夢を見始めてほぼ毎日、同じ夢を見たのである。


 その夢は、亡くなったはずの日下敏夫艦長が天照の案内の元、蘇ってここに近づいているという夢で未だ見たこともない情景の世界を伊400で旅している内容である。


「なあ、お前も見たのか? 最近、同じ夢なのだが?」

「もしかして……蘇って再びこの艦に現れるのかな?」

「まあ、俺としては大歓迎だな! 心から命令を気持ちよく受け入れる事が出来るしな」

「はあ、こんな単調な任務、辟易するな……」


 艦内で急速にこの夢の話が広がっていき全員がその夢の話題に持ちきりとなったが橋本以下の幹部達も同じ夢を見ていて止める事はしなかったのである。


「……吉田技術長は……どうお考えですか?」

「私は元の世界にいた時から朝霧会長……いや、明智光秀であるという事を知ってからどんな超常現象も受け入れる事が出来ますのであの夢は正夢になると思います」


「そうですか、私も……それが正夢なら心から歓迎しますよ、この伊400全ての運命を背負うには私には無理ですよ、先任将校として補佐するのが性にあっています」


 橋本の言葉に吉田は熱い玄米茶をすすりながら力強く頷く。

 そう、やはりこの伊400は日下敏夫と言う人物が率いてこそ最大限以上の力を発揮できるという事である。


「もどかしいですね? とっとと早く戻ってきて欲しいのですがね?」


 橋本の言葉に吉田も苦笑しながら頷く。


 そして今年最後の任務が終り年内一週間の間、休暇が与えられた伊400は橋本先任将校の指示の元、伊勢神宮に参拝する事になり伊勢志摩港に入港して半数が伊勢神宮に向かって行ったのである。


 橋本達が伊勢神宮に参拝して外宮・内宮の順にお参りしていると伊勢神宮の最高位である“祭主”が橋本達の所に来て天照様の御神託が直々に貴方達に下されるので伊400の乗員全てを内宮まで集めて下さいとの言葉を頂く。


 橋本はもしかしてという気持ちが沸くと共に全乗員を内宮まで呼んで祭主の言葉を待つ。


 祭主が天照の神託内容を読み始めると内宮奥の神殿が光を帯びて輝く。

 皆が神秘的な現象に心を奪われていたが信託の内容は黙々と読まれていく。

 内宮神殿は増々輝きが強くなり祭主の最後の言葉が終わったと同時にその神殿扉がゆっくりと開いていく。


 そして……そこから出て来た人物に乗員全員が大歓声を上げて走ってくる。

 そう、天照の導きで再びこの世界に来た日下敏夫であった。


「お久しぶりです、艦長! 御帰りになるのかなり遅かったですよ?」

 乗員達が大喜びで日下を持ち上げて胴上げをする。


 その様子を見ていた祭主は微笑みながらそれを眺めていた。

 本来なら厳粛にしなければいけないのだが天照の特別許可が下りたので周囲に結界を張っていたので外には一切、漏れなかったのである。


「ただいま、皆! 遅くなってすまない、これからはずっと一緒にいる」


 日下の言葉に全員が喜んで頷くと共に日下はこれからの事を話す。


「私は天照様より永遠の命を与えられてこの艦と共に永遠に生きていく事になるが他の皆は基本的にこの艦にいる間はずっと年を取る事も無く生きていけるがこの艦を何かの理由でも乗員を辞めた場合はそこから不老不死にならないで年を取っていく事になるがそこは君達の自由だ。これから生きて行けば何かの理由で艦を降りる事もあるだろうだからな」


 日下の言葉に皆は真剣に聞いていて全員が納得する。

「艦長、それでは行きましょう! 新たな地に!」


 橋本の言葉に全員が歓声を上げて日下の方を見ると彼も笑みを浮かべて頷くと橋本に結局は残ったのだね? と言うと橋本も頷いてタイミングを永久に逃しましたといい戻る予定であった高倉少佐達は代わりに伊405艦長に就任して任務に励んでいると言う。


 静かに頷くと日下は祭主の方に向いて深くお辞儀をしてお礼を言うと共にこれより出発しますと言う。


 祭主はどの平行世界にいってもここだけは共通ですと衝撃な事を言ってくる。


「天照様は無数にある世界の一画を統治する女神様なのでこの伊勢神宮のここだけは共通ですので何か本当に困ったことあれば訪ねてきてください」


 祭主の言葉に日下は再度、深々とお辞儀をすると皆で伊400に帰っていく。

 その後姿を祭主と天照が優しい微笑みを浮かべながら見送る。


「直ぐにあの者達を必要としている平行世界へ旅立つことになるでしょう。私としてもとてもありがたい事です」


 日下達の姿が見えなくなるまで彼達を見送ると天照は内宮神殿の中へ帰り祭主は結界を解いて何事も無かったのようにふるまう。


 伊400に戻った日下は改めて再び伊400を眺める。

「帰って来たのだな……」


 ゆっくりと甲板に足を踏み入れると艦と一体化になった感じが身体全体に走る。

 そして発令所に入ると橋本以下の者達が敬礼して迎える。


「艦長、御命令をお願いします」

「了解した! これより伊400は別世界の日本を救うための旅に出撃する! 全員に告ぐ、1500時に出航だ」


 日下の命令に艦内中から力強い声が返ってくる。


「核融合炉、起動開始! バイパスを第二配備管に接続して艦内に電力を供給だ」

「こちらCIC! 戦闘管制制御システム機器オールグリーン! 異常なし」

「こちら航海科、潜舵・舵等の航行設備システム異常なし!」

「こちら航空班、晴嵐全機、異状なし!」

「武御雷神の矛システム異常なし、いつでも発射体制に移行できます」


 それから数十ある区画から異常なしとの連絡が入り、久しぶりに艦内は騒々しくなり元気溢れる気が充満していったのである。


 そして……1500時ジャスト、日下は艦橋甲板に橋本と立ちながら出港の命令を出すとゆっくりと伊400は動き出す。


「艦長、久しぶりの海はどうですか?」

「うん、最高だよ! さあ、行こうか、新たな旅立ちへ」


 二人は笑みをお互い浮かべると前方の海を眺める。

 そして数十分後、伊400は潜航開始して完全に海面から姿を消す。


 それから数時間後、東京湾に停泊している“さがみ”に緊急電が入りその内容についてだが、伊400の現地点を示すビーコンが消滅したのと同時に通信途絶状態になった事を有泉に報告するが特に驚くことなく一言だけ答える。


「そうか、御苦労であった」

 有泉は大きく息を吐き出すとコツコツと艦橋から甲板に出て太平洋方面を見つめる。

 太陽が東の水平線から顔を出し始めると一気に周囲が明るくなる。

 笑みを浮かべながら有泉は空を見上げて誰にともなく聞こえるように声を出す。


「お元気で! いつまでも」


 その言葉に副官の柳本がやってきて不思議そうに誰に言ったのですか? と聞くが有泉は笑みを浮かべながらもうこの世界にいない友人にねと答える。


水平線に続く海はいつまでも綺麗であった……。


Fin


伊400は再び新たな平行世界に旅立っていきましたがこれからも色々な世界で活躍する事は間違いないでしょう。

最期に少しだけその後の彼達を紹介して終わります。


石原莞爾:昭和三十五年まで陸軍大臣の地位に就き退役後、郷里の山形県に戻り牧場を開いて晴

     耕雨読の生活を送るが色々な人物がひっきりなしに毎日毎日訪ねて来るので最後まで  

     楽が出来なかった。

     昭和四十五年五月十日、永眠する。


小沢治三郎:昭和三十五年まで海軍大臣を勤め上げて石原莞爾と共に退役する。

      残りの人生はのんびりと郷里の宮崎県で過ごして昭和四十一年に八十歳の天寿を全   

      うする。


有泉龍之介:日本復興再生総責任者として“さがみ”艦上から数々の指揮及び指示をして日本復

      興を驚異的な速さで復興させていく。

      平成五年十一月に大阪にて永眠する。


ルーデル :ドイツ時代に引き続いて人間離れの行動で戦果は右上天井知らずまで届き彼専用の 

      勲章が日本でも作られたがこれ以降、その勲章を授与された者は誰もいなかったと 

      いう。

      戦果数は途中で数えるのを放棄したので不明だが誰も彼の記録を塗り替える事はな 

      かったという。





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― 新着の感想 ―
[一言] 終わっちゃったか……。 面白かったです! 次回作楽しみにしていますので、健康に気をつけてくださいね!
2022/05/06 12:04 退会済み
管理
[一言] 因みに日下敏夫殿、ソナタを撃った英国人は自身が虐殺したアジア人の最後の一人が成仏するまで、この世を彷徨うことになりますよ!あの世に逝っても地獄行きですが!それはアメリカも欧州も同じですよ?バ…
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