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資産家令嬢に愛と執念の起死回生を  作者: 渡守うた
六章 ビビアン・ウォードの欲深き愛と幸福
40/44

40、ボイド伯爵家の四女③

 



 妖精のごとき雰囲気の青年が足を踏み入れると、混乱を極めていた室内は静まり返った。

 突然のフレデリクの登場にセラは目を見開いた。


「どうしてあなたがここに」


 フレデリクはセラに視線を寄越す。そして温度のない声で言い放った。


「君に説明する必要はない。セラ・ボイドの身柄はこちらで預かるよ、良いね?」


 フレデリクはデューイに確認する。デューイが頷いたのを見てセラが叫んだ。


「お待ちください! どうしてあなたが彼の味方を!?」

「……セラ嬢。君が領民に対して行ったことは調査していたんだ。決定的な証拠が無いから手をこまねいていたけど、彼らが協力を名乗り出てくれた」


 セラはフレデリクの言葉に唇を戦慄かせた。目を真っ赤にさせてビビアンを睨む。


「最初から私を嵌めるつもりで……!」

「今日成功しなくても、いずれあなたを追い詰めてやるつもりだったわ。必ず」


 ビビアンはセラを睨み返した。人を追い詰めることについては実績がある。

 フレデリクは言葉を失ったセラに手を差し伸べる。


「さあ、セラ嬢。こちらへ」


 開けられた扉から、廊下には騎士たちが控えているのが窺える。このままフレデリクの手をとれば彼らに連行されるのだろう。


「……っ」

「!」





 セラは走り出した。床に散らばったグラスの破片を掴む。その鋭利な切先をビビアンへ突き出す。

 ビビアンは視界の端で迫り来るセラを捉え、……デューイを庇うように迎え入れた。

 セラの身体がビビアンにぶつかり、そのまま重なるように押し倒した。





「ビビアン!!」



 デューイが二人に駆け寄りセラの身体を押しのけようとした時、ビビアンのくぐもった声が上がった。





「いったぁ〜〜い!!」

「なっ……!」


 セラがもがくように上体を揺らす。セラが突き出したグラスの破片は、セラの両手ごとビビアンに掴まれていた。


 セラはビビアンの身体を凝視した。確実に腹に当たったはずだ。だが彼女からは血も出ていない。刺繍に覆われたドレスに傷すらついていない、と辿っていくうちにセラは固まった。


「お気付きになって?」


 ビビアンは口角を上げる。

 押し倒された姿勢のまま胸を逸らし、金糸の刺繍を示した。


「わたしのドレスとデューイ様のタキシード、その刺繍やレースは金属を織り込んだ特注品……もはや鎖帷子を纏っていると言っても過言ではないわ!」


 セラは開いた口が塞がらなかった。

 思わずビビアンの頭から下まで見直してしまう。

 わざわざ鎧のようなドレスを作り上げ、身に纏ったというのだろうか? セラの行動を予測して。


「そう何度も刺されると思って!? あなたが逆上したら暴力に走ることなんてお見通しなのよ!」


『前回』デューイの死の真相を探っていたビビアンは、今から振り返ってみるとほとんど真相に近づいていた。デューイを殺害したセラがそんなビビアンを放っておくはずもない。 『前回』ビビアンは凶刃に倒れ、一度その生涯を終えた。だからこそ、最後の最後、追い詰められたセラがどのような行動に出るか──身をもって知っているのである。

 呆然とするセラをフレデリクが冷たく見下ろす。待機していた騎士たちに号を掛ける。


「彼女を連行しろ」


 騎士たちは短く返事すると、ビビアンを押し倒したまま脱力したセラを引き上げる。

 セラは抵抗する様子もなく従った。

 ほう、とようやっと息を吐く。


「ビビアン! 馬鹿!」


 デューイがビビアンに駆け寄り、膝をついた。そのまま抱きしめられる。ビビアンは得意げに笑った。


「事前に打ち合わせしたでしょう?」

「ああ、お前の計画通りだった。でも、いざ目の前にすると……駄目だった」


 その声の心細げな響きにビビアンは胸がいっぱいになった。デューイの背中に腕を回してさすってやる。

 そんな二人に、騎士たちへの指示を終えたフレデリクが近付く。


「二人とも。念のため医者に見てもらいなさい」


 デューイはセラが毒草を混ぜたワインを浴びたし、ビビアンも鋭利なグラスの破片で斬りかかられている。検査は必要だろう。

 デューイは立ち上がり、改めてフレデリクの前に跪いた。胸に手を当てて敬意を表する。


「はい。改めて、公子、ご協力に感謝いたします」


 ビビアンもそれに倣おうと腰を浮かせようとして、止まった。不自然な動きにデューイとフレデリクの視線が集まる。ビビアンは恥ずかしそうに頬に手を添える。


「ど、どうやら腰が抜けてしまったようですわ。こ、この姿勢から失礼いたしますね。おほほ!」


 デューイが顔を背ける。笑いをこらえている時の癖である。

 フレデリクは一拍置いて深い深いため息をついた。


「はあ……。セラ嬢の処分とかで僕は気落ちしているというのに、良い気なものだね。なるほど、これほど神経が図太くなければ、僕に取り引きを持ち掛けるなんてしないか」


 これには返す言葉もなく、ビビアンは引き攣った笑いを浮かべるしかないのだった。




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