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資産家令嬢に愛と執念の起死回生を  作者: 渡守うた
六章 ビビアン・ウォードの欲深き愛と幸福
38/44

38、ボイド伯爵家の四女①

 


 孤児院の子供に毒を盛った。



 グラスについて話すと身構えていたセラは虚をつかれた。

 一瞬呆けていた彼女だったが、言葉を理解して口元に手を当てる。その頬を一筋涙が伝った。


「どうして突然そんなことを? 私は子供たちの看病に行ってはいますが、手を尽くしこそすれど、毒なんて。恐ろしい……!」


 言葉を震わせ、涙を拭う。そして赤くなった瞳をデューイに向けた。


「デューイ様もそんな風に思っていらっしゃるのですね」

「そうだ」


 デューイはその視線を真正面から受け止め、はっきりと言い切った。セラの反応を見落とさないように。


「……」


 黙り込むセラにビビアンは話を続ける。


「孤児院や救貧院で、子供や高齢者の急死が多発しているでしょう。死の直前の症状は、めまい、ふらつき、嘔吐。それから特徴的なのは興奮状態に陥ること。そうよね?」


 ビビアンに問われ、セラは戸惑いを表しつつも頷いた。


「そうですね。目の前で手の施しようのない子供たちに、とても悔しい思いをしました」

「これはある植物の中毒症状と共通しているの。それがボイド伯爵邸の庭にも栽培されていたわ。夏の頃わたしたちを招いてくれたのを覚えているでしょう?」


 セラは眉根を寄せた。ビビアンの口調が不快だったようだ。


「……それがどうしたんですか? 確かに珍しい花ですけれど、手に入れようと思えば誰にでも入手できますわ」

「わたしが話している花が珍しい花だとよく分かりましたね」


 ビビアンはニッコリと笑った。


「確かに珍しい花よね。東方で栽培されている白い花よ。わたしは東の国の商品をよく目にしていたから、珍しいと言うことに気付くのが遅くなってしまったわ」

「……自分の庭で栽培されている花ですもの。特性について詳しくもなるというもの」

「そのわりには子供たちの症状が中毒症状と同じだと気付かなかったんだな」


 それまで黙っていたデューイが口を開いた。その声の硬質さに、隣にいたビビアンがびくりと体を震わせた。

 相対するセラは目線を落とす。


「それは確かに、……私の落ち度です。私が気付いていれば対処できたかもしれないのに……」

「最近孤児院に出入りした人物や業者の家でこの花を栽培している家は他になかった」


 デューイの言葉にセラは目を丸くした。


「それでは……」

 セラの口元を抑えていた手が震える。

 花を栽培している家がボイド家のみということから、セラが毒草を孤児院に持ち込んだことは明白である。

 セラはゆっくりと口を開いた。


「私、看護をしているつもりで……有毒な花粉を運んでしまっていたのでしょうか……!」

「花粉を運んだ?」


 セラはデューイに頷く。


「ええ。はしたない話ですが、私は園芸が趣味で孤児院に行く前も、よく庭に出ていたので服に花粉が付着してしまったのでしょう。それが子供たちの口に入ってしまったとしたら……! 確かに、恐ろしい事ですが、私が子供たちの命を奪っていたことになります……!」


 セラの話は一応筋は通っていた。ボイド邸の植物が原因で、本人の意図せぬところで植物が衣服に付着し、訪問先で中毒を引き起こす事故が起きてしまった。

 確かに事故と言い張れるだろう。


「確かに、慰問の直前に庭園に出ることはあるかもしれない。しかし……他家の結婚披露宴に行く直前で、身支度を終えた後に庭に出るなど。ましてや植物に触れることなど普通は考えられない。だからあなたが敢えて植物の花粉や種子を採取しない限りは」


 デューイはグラスを取り、ゆっくりとセラに近付いた。

 そしてセラの顔を片手で固定すると、手にしたグラスをセラの唇に近付ける。


「直前まで我々が持っていたグラスに混入するなんて起こり得ないはずだ。──あなたが飲み干して証明しろ」


 デューイは努めて、ほとんど全身の神経を持って怒気を押し殺した。しかしその横顔には青筋が立ち、グラスを持つ手は震えている。


「あなたがどうなるか──我々の領民に行った仕打ちと同じか」


 セラから全ての表情が抜け落ちた。


 デューイを見上げる。


 一拍ののち、グラスを持つ手を下から振り払った。


「デューイ様ッ!」


 ビビアンが悲鳴を上げた。


 グラスの中身がデューイに降りかかる。咄嗟に腕で庇うが、葡萄酒がデューイの顔や衣服を赤く汚した。

 ビビアンが駆け寄り慌てて拭う。目や口には入っていないか確認する。


 その隙に、セラは2人から距離を取った。

 扉の横にはマリーが控えているが、非力な女性である。

 室内に緊張が走る。


 セラが能面のような顔をデューイに向けた。


「本当に、気持ち悪いわ。あなた、大嫌いよ」





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