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資産家令嬢に愛と執念の起死回生を  作者: 渡守うた
六章 ビビアン・ウォードの欲深き愛と幸福
37/44

37、披露宴②

 


 会場に居るのは周辺の貴族や親族たちである。儀式と違い、彼らの前で神への誓約は行わない。主に挨拶と、両家の婚姻を周知するのを目的とした会である。ダンスすら省略し、始まりの挨拶と立食を主にしている。


 中には、話が広がった割に簡潔であることを不思議に思うものもいた。

 そんな表情をしている者の傍で、招待されているジョンが「よっぽど早く結婚したかったんだなぁ」などと話せば、なるほどと納得したようである。


 そんな中、ビビアンとデューイが入場した。


 二人が会場に入ると、招待客たちは先程のビビアンのように、うっとりと溜息をつく。

 淑女たちの視線を集めるデューイはもちろんのこと、その隣に立つビビアンにも感心したような視線が向けられる。普段は主張の強い、自信に満ちた印象を与える彼女だが、今日は自信や余裕の他に、どこか柔和な雰囲気も醸し出していた。


 やはり大人になると丸くなるのだな、と周囲はしみじみと思う。

 隣に立つデューイも、そんな彼女を見つめる様子は気遣いに満ちており、良好な関係を伺わせた。


「本日はお集まり頂き──」


 デューイの父、アークライト家当主による形式的な挨拶が終わり、主役の2人が順に招待客を回り始める。

 先ほどまでヘラヘラとしていたジョンも、興奮と緊張を隠せずそわそわと順番を待っていた。


 そんなジョンのもとにデューイ達がやってきた。デューイ達が声をかける前にジョンが身を乗り出す。


「デューイ! お前マジで……お前なぁ~!」


 ほとんど言いたいことが言葉になっていない。デューイが呆れる前に、ジョンの隣に立っていた女性がジョンの袖を引いた。


「ジョン様、お行儀が悪いですよ」

「ああ、ごめぇん」


 ジョンの隣に立つ茶髪の女性。彼女こそ、ジョンが無謀な借金までして口説きたかった女性である。こうして社交の場でパートナーとして出席していると言うことは、首尾は上々ということだろう。

 ビビアンはにやにやとジョンに言う。


「絶対に後で詳しく聞かせてくださいませ」

「う、うん。いや、それよりさぁ。本当に大丈夫なわけぇ?」


 ジョンは2人にだけ聞こえるように声を落とす。

 デューイは小さく頷いた。


「ああ。それに、お前にも頑張ってもらうからな」

「後で彼女とお茶会ですからね! 詳しく教えてくださいませ!」


 ビビアンの場違いな返答にジョンは脱力し、ゆるく手を上げた。


「うん、じゃあ……またねぇ」


 そうしてジョンと別れ、ビビアンたちは次の席へ移動する。


「お越しいただきありがとうございます。──ボイド家の皆さま」


 そこにはボイド伯爵家の面々が招かれていた。もちろん、セラも。





「本日はおめでとうございます」


 セラはドレスの裾を摘んで一礼した。


「ありがとうございます」


 ビビアンたちも礼で返す。セラがふんわりと口を開いた。


「お二人の仲が大変よろしいのは、以前から存じていましたけれど……今日の仲睦まじいお姿には驚かされました。私どもの想像以上ですのね」


 セラの言葉を聞きながら、ビビアンは注意深く笑顔を作った。緊張が表に出ていないだろうか? 喉が渇く。

 と、丁度そこへ飲み物を運ぶ給仕が通りかかる。デューイが手を上げて彼を呼び寄せた。


「今日のよき日に両家の縁が結ばれたことは大変喜ばしい事です。セラ嬢も如何ですか?」


 葡萄酒を注がれたグラスをデューイに勧められ、セラは一瞬身を強張らせた。

 グラスをじっと見つめ、ややあって口角をあげた。

 ゆっくりとグラスを受け取る。


「ええ、それでは……結ばれた良縁を祝福いたします」




 デューイ、セラ、そしてビビアンがそれぞれ杯を受け取り、掲げようとした時だった。


「ギャ~~!」


 気の抜けたジョンの悲鳴が上がったのは。


 会場の視線がジョンの居る席に集まる。そこには葡萄酒を盛大にぶち撒け、テーブルや床に飛散している光景が広がっていた。


「ごめぇん! めちゃくちゃこぼしたぁ!」


 ジョンが空になった杯を持って青褪めている。


「全く、何してるんだ」

「もう、ジョン様ったら……」


 デューイとビビアンがテーブルに持っていたグラスを置いた。

 片付けの指示をするべくジョン達のテーブルへ駆け寄る。

 会場の参列者達は遠巻きにその光景を眺めていた。

 セラはその場に残されたグラスを見つめる。つ……とグラスに触れ、そして──。


「セラ嬢」


 セラの体が揺れた。

 顔を向けた先で、ビビアンが真っ直ぐ彼女を見据えていた。

 そして先ほどセラが触れていたグラスを取り、バートを呼び寄せる。


「これ、保管しておいて」


 バートはグラスを受け取り一歩下がる。

 困惑した表情でセラはビビアンを見た。


「セラ嬢、この後話があります」

「何を……」


 ビビアンはセラに近づいて耳打ちした。


「皆の前で話されて困るのはあなたじゃない?」


 身を離してちらりとバートに視線をやる。セラはビビアンの視線に釣られるようにバートを見る。

 恵まれた体躯。厳しく眉根を寄せ、光る眼鏡が鋭利な印象を与える。ジョン曰く明らかに堅気のものではない容貌の青年を前に、セラは反発する言葉をしまった。






 ◆


 ジョンが飲み物をこぼすというハプニングはあったものの、披露宴は恙なく終わった。

 バートによって控室に連れられたセラは、そこで待ち受けるビビアンとデューイを見た。


「ボイド伯爵には友人同士で話があると説明している」


 デューイはセラに言った。

 セラは怯えた表情で室内を見渡した。控室にはビビアンとデューイ。セラの背後にはバートがぴったりと付いており、その後ろにある扉の横にはマリーが控えている。


「単刀直入に言うわね」

 ビビアンが口を開いた。


「あなた、セラ嬢。孤児院の子供たちに毒を盛ったでしょう」





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