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公爵家の娘【長編版】  作者: なヲ
お嬢様との日々 五歳編
7/35

風邪は引いた方がいい

 アニーはあんまり表情変わらないよね。


 昔、友達にそう言われたことがある。

 その友達曰く、「言動は面白いんだけど顔がほとんど変わっていない」とのこと。言動が面白いに色々言いたかったけど、顔が変わらないことに関しては確かにと思ったので反論しなかった。

 そして今、そんな私の表情が驚愕に満ちている。


 サラがうっかり小説の内容を暴露したときや、弟が食器を割ったときよりも驚いてるし、焦ってる。

 お嬢様付きの侍女になるよう言われたときと同じか、それ以上に焦ってる。


「お、お嬢様?!」


 なんと、目の前でお嬢様が倒れた。



 驚きの余り固まりかけたが、倒れてくるお嬢様を支えないわけにはいかない。幸いにも距離は殆どないので、足を数歩だすだけでいい。

 体がギクシャクして自分のとは思えない。私の手がお嬢様の背に届くのが、ゆっくりと見える。間違いなく間に合うが、それでも怖い。

 永く感じた時間は終わり、トンっと音を立てて小さな体を受け止めた。


 あ、危なかった…

 冷や汗が止まらず、背中がじっとりとしてきた。

 手も緊張で汗をかいてしまったのか少し湿っているような…あれ?

 お嬢様に触れたことで気付いたが、彼女の背中が汗ばんでいる。それに、なんだか体も熱い気がする。

 もしかしてと思い、額に触れてみたら案の定熱があった。考えられるのは、ただの風邪が流行り病。だが流行り病の話は聞かないし、恐らく風邪だろう。


 庶民だと風邪なら栄養のあるものを食べてから、寝るだけで医者は呼ばないことが多い。理由はお金がかかるからと単純なのだが、お嬢様は公爵令嬢。万が一のこともあるし、医者に診せた方が治りが早いのは確実だ。


 とりあえずお嬢様を寝台に寝かせ、私は手の空いている使用人に訳を話して医者を呼んできてもらうことにした。



 「風邪ですね」


 医者の答えは私の予想通りだった。


 「風邪薬を処方しておきますので、一日三回飲ませてください」

 「わかりました」


 お付きの方が薬を渡し、医者は帰っていった。

 お嬢様の容態は安定していて、数日安静にすればすぐ治るとのこと。まだ学院に通う年齢でもないので、きっとお嬢様は気兼ねなく休めるだろう。


 「げほっ…ごめんなさい、アニー」

 「お嬢様、大丈夫ですよ」


 無理に起き上がろうとしているお嬢様を宥めて、また横に寝かせる。顔は赤く、汗もたくさんかいている。濡れたタオルで拭かなければ汗疹になってしまうし、べっとりとしていて気持ち悪いはずだ。


 「後でお体を拭きますね」

 「え…ええ…ほんとうに、ごめんなさい」


 こちらは全く気にしてないし、むしろ子供のうちに風邪を引く方がいいと思っているのだが、お嬢様は謝罪をやめようとしない。いいんですよ、と言っても申し訳なさそうな顔をしている。

 大人に迷惑をかけたくないと必死な様子に少し疑問を感じた。


 「風邪は子供のうちに引いておくものですよ」


 実際、大人になってから初めて風邪を引くと子供でなるより何倍もしんどいし最悪死ぬことがある。もちろん、子供だって酷過ぎたり治療しなければ死んでしまうが、歳をとるとただの風邪でも危うい。それに、多分これは気分的なものだけど、小さい時に程よくひいとけば体が慣れて少し楽になる気がする。気のせいだとは思ってるけど…


 「料理長が美味しいお粥を作ってくれるそうですし、薬を飲んでちゃんと寝ればよくなりますよ」

 「そういう、もの…?」

 「ええ、そういうものです。私だってよく引いてましたから」


 子供は風邪をひくものと聞いて落ち着いたのか、お嬢様はそのまま寝てしまわれた。部屋にはお嬢様の小さな寝息の音だけが聞こえる。


 寝顔はあどけなく、心なしか赤かった顔がいつもの顔色に戻ってきたように見えるのだが…私はなんとなく先程のお嬢様の態度が引っかかった。

 迷惑をかけていることよりも、その先の何かを恐れていたような。その何かは分からないし、自分の勘違いかもしれないけど妙に心に残った。


 「う、うう…」


 お嬢様の声で意識が現実に戻される。

 いけないいけない、タオルを持ってくるんだった。


 考えをやめ、タオルを取りに私は部屋を出た。

 だけど、どうしても何かを見落としてる気がしてならなかった。

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