仲良くなれました、多分。
「で、最近お嬢様との関係はどうなの?」
使用人の食堂で夕飯を食べていたら同僚のサラに話し掛けられた。
彼女は私より先に食べていたらしく、手元に料理はない。ちなみに今日のご飯はミートスパゲッティで、じっくり煮込まれたトマトとお肉が麺によく絡まっていて美味しい。
「多分順調だよ」
もぐもぐ。
正直、順調と言い切ってもよかった、というか言い切りたかった。だけど私がいい関係を築けていると感じているだけでお嬢様本人がどう思ってらっしゃるか分からないので多分になった。
謙遜ではなく本心とサラにはちゃんと伝わったらしい。
「多分って…お嬢様のピーマン嫌いを改善しようと必死になってたけど仲はそれ程です、なんてあるわけないでしょ」
いや、思い上がりというか勘違いはよくないかと…
不服、とフォークを口に咥えたまま黙ってサラをじーっと見る。
そりゃ私だって仲良くなったよと嬉しそうに報告したいが、人間関係ってそんなトントン拍子に進むものじゃないと思う。それが主人と主人付きの侍女だったら尚更じゃないか。もしも、ただの勘違いだったら舞い上がった分悲しくなると思うんだ。
まあ、人によってはそもそも主人と仲良くなろうなんて考えずに主人はあくまで主人、仕事上の相手という人もいるんだけどね。でも私はおこがましいとは思いつつも、お嬢様とせめてでもいいから恋バナが出来るぐらいの関係にはなりたいと望んでいる。
取り入る為でもなく彼女の傍で支えていきたい、と思った。この思いが姉としてだからなのか、彼女と同じ時間を過ごしたからなのかは分からないけどね。
例えどちらにせよ、私はお嬢様といい関係になりたい思いは本当である。だから、慎重になっているわけでして…
「はあ。もうちょっと自信もっていいと思うよ」
「そうかなぁ」
そうは思えないんだよね…
雰囲気も私視点では柔らかくなったような気もするんだけど、元々表情をあまり動かされない方だし私のことをどう思ってらっしゃるのか確信がもてない。
一応、毎晩の物語を楽しみにしてるのは確実だと思ってる。初めは目で今日は何かと訴えるだけだったけど、この間は服の袖をくいくいっとして急かしてきたので楽しみにしてるのは確か…うん、確かだろう。
フォークをクルクルと回して麺を巻き取る。
ダメだ、考えれば考えるほど出口が見つからない迷路になってる気がする。
人間関係でこんなに悩んだのっていつぶりなんだ。もしかしたら、今までで一番悩んでるかも。
声もしりすぼみになるし、視線もだんだんと下がってきて、自信のなさを体全体で表現している。そして、サラの私を見る目が残念なものを見るような目になってる気がする。
「いや、その。あの…」
なんとなく視線に居た堪れなくなってきて、ごにょごにょと反論しようとしたけれど声量はないし、なんなら何も言えてない。
私ってこんなに情けなかったか?
「まだ、寝る前に物語を話すぐらいだよ…」
「え?なにそれ、聞いてない!」
サラの目が一瞬、キラッと光った。
面白いものを見つけたとウキウキしているのがよく分かる。これは、全て話すまで離さないな。
よし、逃げよう。
「じゃあ、私はお嬢様のところに行くから」
「あ、コラ!詳しく聞かせて!」
残りのスパゲッティを口に入れて、部屋をそそくさと出ようとしたが、腕を掴まれて強制的に座らされる。スパゲッティが詰まってちょっと息苦しい。
胸のあたりをトントン叩いていたら、背中を優しく摩られたけどその優しさがあるなら私を解放してくれないかな。
「まあまあ、落ち着きなって。休憩が終わるにはまだ時間があるでしょ」
ニコニコ笑顔の彼女に押されて何も言えなくなってしまった。聞いても面白くないと思うんだけど、ここまで期待されると話さないのも野暮だし…減るものでもないし話すか。
「つまらないと思うよ?」
「いいの、いいの。物語が聞きたいの」
「…昔、小さな森に老人が住んでおりました」
話すのはよくある昔話で、ありきたりな設定。
でも彼女は喜んでくれた。