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公爵家の娘【長編版】  作者: なヲ
お嬢様との日々 五歳編
3/35

嵐の夜

 「あなたが侍女になるのね」


 夜なので寝てる可能性を考えつつ部屋に向かったら、お嬢様は起きていた。

 

 「明日からお世話させていただきます」

 「そう…」


 時刻は夜中。

 無表情な顔はどことなく旦那様に似ていた。

 これ以上いても用はないだろうし、何よりお嬢様の睡眠時間を削ってしまう。彼女はまだ幼いのだから睡眠は成長にかかせない。

 さっさと退出した方がいいだろうな。


 「ぁ…」

 「どうか」


 されましたか?


 そう聞こうとしたら、窓の外がピカッと光った。ほんの少し遅れて轟音が聞こえる。

 公爵邸に直撃してないようだが、恐らく近くに落ちたのだろう。一瞬、肝が冷えるような感じがした。

 なんだ、雷か。

 これでも雷には怯えない方なのだが、どうしてもあの大きな音と光ってから鳴るまでの独特な間が苦手だ。


 「あの、お嬢様。それで、」


 気を取り直して用件を聞こうとした私はまた言葉を失う。

 光ったわけでもないし、音がなったわけでもない。

 私の目の前には、耳を押さえ蹲るお嬢の姿があった。


 「お、お嬢様…?」


 戸惑いながら近づく。

 どうやら目も瞑っているようで、その姿はさながら雷を怖がる幼な子のようであった。


 触れていいのか分からず、両手をあたふたする。

 これでも下に三人の弟がいる長女なので落ち着ける方法は知ってるけど、相手が相手で躊躇ってしまう。

 失礼な気もするけど怖がってらっしゃるし…


 私があわあわしてる間もお嬢様は耳を押さえてしゃがみ込んでいる。

 ええい、仕方ない!


 「お嬢様、失礼しますね」


 念の為、一言言っておいた。聞こえてるかは分からないけれど、礼儀は払ったということで。

 小さな体を抱え込み、優しく背中をさする。

 自分が怯えてた時はお母さんがしてくれてたな、とふと懐かしいと思った。温かくて自分よりも大きい手でさすられると、不思議と落ち着いたのをよく覚えてる。

 お嬢様が安心するかは分からないけれど、少しでも恐怖が薄れたらいい。



 さすること十数分。

 お嬢様は相変わらず私に抱えられた状態でいる。気分は落ち着いたようで、震えもおさまった。


 「もう、大丈夫よ。ありがと」


 不意にお嬢様がそう言った。

 顔を上げた彼女にはさっきまでの怯えた様子はなく、最初の憮然とした顔をしていた。

 その変わりように一瞬、今までのことが嘘のようだと思った。


 「失礼いたしました」


 立ち上がってからお辞儀をする。

 再度彼女を見て違和感を感じたい。

 なんだろうか、隔たりがある。主人とその従者という壁とは違った距離がある気がする。

 公爵家に仕えているため、上から下まで様々な身分の人に会うがなんとなく彼女の違和感に心当たりがあった。確か……貧民街。


 思い出した。

 以前、用事で訪れた貧民街にいた少年だ。声をかけたら、彼はこちらを鋭い眼つきで睨み、終始硬い態度を取り続けた。まるで自分以外の全ては信用できないと言ってるかのようだった。

 お嬢様の雰囲気は彼に近いものを感じる。

 それは公爵令嬢だからなのか。でもなんだか違う気もする。


 「では、失礼いたします」


 とりあえず退出しよう。あまり長居するのは良くない。

 

 「あ、」


 小さな音が聞こえた。

 掠れていてどことなく縋るような音だった。

 お嬢様を見たら、手をこちらに引き留めるように差し出していた。


 意図したわけではなかったらしく、驚いた顔をしている。その顔を見てなんとなく分かった。

 恐らくお嬢様は甘え下手。

 大人に頼ってこなかったのか頼り方を知らない子供。なら、対応は長女としてちゃんと心得ている。


 「お嬢様、よろしければお眠りになられるまでお側にいても?」


 ただし、問題は失礼にならないかどうか。さて、お嬢様の反応はと思ったら意外と良かった。

 さっきの驚きとはまた違った驚いた顔で、そうしていると年相応の子供らしさも感じる。


 「い、いいの?」

 「ええ、勿論です」


 長年鍛えられてきた姉の力、ここで発揮せずにどうしますか。

 まだ驚いている様子のお嬢様をベッドに促し、私はやる気をみなぎらせた。といってもこれで終わりではない。側にいるだけでは、効果が少しだけだからだ。

 安心させるには気を紛らわせる必要がある。例えば物語を読むとか。雷の後で寝付けない弟に使った常套手段なので、幅は豊富にある。


 「お嬢様、物語はお聞きになられますか?」

 「え、えっと、物語?」

 「はい、物語です」


 物語と言われてもピンときてない様子のお嬢様に柔らかく微笑む。この時点で私のお嬢様に対する母性は見事に誕生していた。

 大人びているとは言ってもやはり子供。年上として存分に甘やかして差し上げましょう!


 「それは、あなたが読んでくれるの?」

 「勿論です。さ、どんな物語がよいですか」

 「え、ええ…」


 部屋に入ってから少し、早速お嬢様の本当の顔を知れた気がする。

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