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公爵家の娘【長編版】  作者: なヲ
はじまりはじまり 六歳編
16/35

おともだちができました


 「こっちだよ」


 驚きしかなかった出会いの後、わたしはセレナに手を引かれて屋敷の中を歩いていた。

 歩く速さはわたしにあわせてくれているものの、なんでこうなったのか分からなくて足が思うように動かない。嬉しいとかそれよりも戸惑いの方が大きすぎる。

 なにがどうなったのか思い出してみるけどやっぱりなにも分からない。




 名前を言うだけだった自己紹介の次に、彼女はわたしと握手をしてくれた。


「アイリス?」


 彼女の手を凝視していたわたしはその声にハッとする。視線を上げると心配そうな彼女の目とあったので大丈夫だと笑ってみると、伝わったらしく笑い返された。


 彼女とわたしは握手をしている。そのことが信じられなくてかちこちになっている私とは正反対に彼女は落ち着いているからきっと慣れているのだろう。

 正直なところ今の状況もよく分かってないし、この後どうすればいいのかも知らないし、何を言えばいいのか分かってない。握手とは挨拶の一つで、これからよろしくねという意味なのは知っているけど、なんでそれをわたしにされているのかが全く分からない。よろしく、よろしく…なにをよろしくされたんだ、わたしは。さっきのセレナって誰だろうという疑問よりもこっちの方がもっと訳が分からない。


 「アイリスは今日のお茶会にきてたんだよね?」

 「あ、うん」


 変な声になった気がするけどなんとか返せた。

 聞き方からしてなにかを気にしている…もしかして、戻らなくて大丈夫かということなのだろうか。庭にきてからそこまで経ってないし、まだ終わる時間ではないからたぶん戻らなくてもいいと言った方がいいのか。それとも庭に入ってよかったのかを聞いてるのかな。いや、庭は自由に見ていいですよとお茶会の最初に大人の誰かが言っていたからその心配はない。

 なにを言えばいいのか分からなくなったわたしは会ったときから思ってたことをそのまま聞いていた。


 「…あなたは、いかなくていいの?」


 聞こえるかわからないような声で言ったけどどうやらちゃんと伝わったらしく、セレナはきょとんとこちらを見ていた。話せたのはよかったけど、その視線になにかしてしまったかとどきどきして落ち着かなくなる。


 「うん、だってべつにあの子たちとなかよくしたいわけじゃないし」

 「…え?」


 行きたくないのはわかったけど、それをさらに上回って彼女の言葉に目を丸くする。

 じゃあ、なんで今わたしと握手してるんだろ。あの子たちがどの子のことかは分からないけど、お茶会に参加している子なのは分かる。あの場にいた誰か、それはわたしも入ってるのでは。ならこの握手はなかよくしようねっていう意味じゃないのかな。わ、わかんない、もしかしてわたしは何かを間違ったんじゃ。

 心がぎゅうっと痛くなってわたしが握手に喜んでいたのに遅れて気付く。そっか違ったのか。


「それに、わたしはあの子たちと話すよりもアイリスと話したい」

「え、今なんて…?」


 彼女の一言に痛みがきれいさっぱり消えたけどそれどころじゃない。

 聞き間違いじゃなければわたしと話したいと言っていた。なぜ、の文字が頭の中をぐるぐる回る。わたしとよろしくしたくないのが間違いで、お茶会で話している子たちとは話したくなくて、それよりもわたしの方がいいと。彼女と会ったのは今日が初めてで、知らない子にそこまで話したいことなんてあるのかと困惑する。今日は驚いてばっかりだな、わたし。

 固まってばかりのわたしをおいて彼女は口を開く。


 「アイリスとともだちになりたいの」


 ともだち、できたらいいなとは思ってたけどまさかともだちになろうと言われるとは思ってなかった。


 「い、いいの?」

 「わたしはなりたいから、いいんだけど…アイリスはイヤ?」

 「いやじゃないよ」


 頭の中はなんでとか色々ごちゃごちゃしていたけど、いやじゃないのははっきりしていたのでそれだけはすぐ返せた。ただ、思ってたよりもうれしかったのか前のめりになってしまった。もしかしたらいやがるかもと気付き離れようとするけど、彼女が握手していた手を離さないので無理だった。


 「ならよかった。それと、わたしのことはセレナでいいからね」

 「わ、わかった。よろしく、セレナ」


 うまく笑えたかは分からないけど、今度はわたしからセレナによろしくと言ってみたらさっきと同じようにきょとんとした後によろしくねと返ってきた。


 「あ、そうだ屋敷案内するよ」

 「え、分かるの?」

 「うん、だってここ私の家だし」


 なるほど、セレナは主催者ってことか。参加者のリストに載ってないわけだ。あれ、じゃあここにいるのってダメなのでは?

考えたらよけい分からなくなってきたので、考えるのをやめた。




「はい、ついた」

「…ひろい」


 セレナに行った方がいいんじゃないのと聞いたら、やだの一言で返してきた。いいのかなとそれでも悩むわたしにセレナはいいのいいのと言って、今こうして屋敷を案内してくれている。歩いてるときには屋敷のこと以外にも好きなことの話をして、本が好きだというのを言ったら図書室に行こうと言ってくれた。

 さっきまでは玄関にいてここはその図書室。大きさは家のと同じぐらいだけど、窓が大きい分もっと広いように見える。知らない本ばかりが並んでいて見ているだけでも楽しそう。


 「これ読んだことある?」

 「ないよ。どんな本なの?」


 見せてくれた本は綺麗な表紙がある本で、中をぱらぱら見たら絵が描いてあったりしてどんな話なのか気になる。


 「女の子が幼馴染といっしょに色んな人の困りごとを解決してく話。女の子がすごく元気でびっくりするような方法でやってくのがおもしろいよ」

 「びっくり…?」

 「ねこを探してるって話を聞いて、ねこにそのねこのこと知らない?って話しかけて見つけたりとか」

 

 ねこって話しかけたら返事してくれるんだっけ…?

 でもねこはしゃべってくれないはずだからきっとその女の子だけなんだろう。ただびっくりするような方法なのは変わらない。


 「よかったら、読んでみる?」

 「いいの?」

 「いいよ。ほら、ここ座って」


 日がちょうどよく当たる場所にクッションが置かれていて、そこにセレナと座る。

 読んだことない本を初めてできたともだちと読むのはいつもよりもずっとわくわくしていて楽しい。朝は不安だったけど今日来てよかったと心の底から思った。




 「お嬢様、アイリス様を見かけませんでした…って、お嬢様とアイリス様?!」

 「どうしたの?」

 「あ、時間!」


 今度セレナがわたしの家に来るということで今日はお開きになった。

 時間を忘れて本を読んだことはアイボリー夫人に伝わり、楽しいのは分かるけど時間は守るようにと注意された。

 次会ったときはもっといろんな話をしよう。


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