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公爵家の娘【長編版】  作者: なヲ
はじまりはじまり 六歳編
14/35

マナーは武器らしいです


 「ひゃっ」


 情けない声とともに頭にのっけていた本が床に落ちた。


 「お嬢様、左に重心が傾いていましたよ」

 「はい…」


 まっすぐ歩いていたつもりなのにどうやら、少し頭が左を向いていたらしい。

 落ちた本は中途半端に開いてページが折れてる。お気に入りの本じゃないけど、レッスンの勉強で読む本だから折れすぎると困るのはわたしだ。


 アイボリー夫人が教えてくれる今日のレッスンは歩き方だった。

本を頭にのせて部屋の端から端まで歩いたり、ぐるぐる回ったりすると聞いて楽しそうだなと思った。まあ、全然かんたんじゃなかったんだけどね。

 歩いた長さは部屋の半分。本がちょっと重くて頭のあたりが痛くなってきた。背を伸ばして頭を動かさないように動くのが正しいと言っていたけど、正直本のせいで頭がふらふらする。もっと軽いのだったらできると思う。


 「お嬢様、それではスカートの中が見えてしまいますよ」

 「うぐっ…分かりました」


 ええっと、すとんと下にしゃがんで膝はつけないで……やりにくいなあ。

 なんで歩くだけなのにやり方があるんだろ。ずっと気にしてたら絶対どこかでこける気がする。それに誰も気にしないと思うんだけど。


 やりたくないって顔をしたらアイボリー夫人に溜息をつかれた。

 …だってやりたくないんだもん。わたしは部屋でベッドの上で本を読みたい。午後が全部これなんて嫌だよ。


 「マナーを何故学ぶのか、最初のレッスンでご説明しましたよね。今言えますか?」

 「…失礼なことをしないようにするため、です」

 「ええ、ですがそれ以外にもあります」


 いや、知らないよ。というかそれを言うんだったら最初に言えばいいのに。

 夫人がそのまま話し始めたのでわたしは部屋のまんなかで立ったままになった。さっきから歩いてるので座りたいけど、近くに椅子がないので無理っぽい。



 マナーとは誰かと付き合う上で大変重要になります。特に違う国の方とお会いするとき、こちらでは気にもされないような振る舞いが向こうでは失礼になるなんてことがあります。

 そのとき、私達貴族はそれぞれの領や国を代表しているわけですから知らないではすまされません。自分の一つの間違いがその後の付き合いに大きく影響するのです。


 そしてもう一つ。

 お嬢様はまだ社交界を経験されていないとは思いますが、社交界ではマナーができるのが当たり前です。できなければ即座に周りからの評価が落ちます。そしてできる方の中でもとりわけ優秀な方は色々な影響力を持ちます。流行りものから領の交易まで、その方が言っていたからと誰もが気にします。お嬢様は宰相様のご息女であり、公爵令嬢でもありますので、社交界においてトップになられるのは必然です。ですから、トップとして相応しい振る舞いをしなければなりません。


 ようは、マナーとは武器なのです。

 マナーが完璧である者が上に立つことができ、マナーを学んでいればどこへ行っても通じます。外交などではそうですね。習っておけばある程度の返しも出来ますし、自身にとって優位な条件を引き出せます。


 洗練されたものとはなんでも人を圧倒するものです。

 ですので、お嬢様。マナーを今学んでいるのはお嬢様の為ですので面倒くさがらずにやりますよ。



 言いたいことを言い終えたようで、夫人が伏せていた目をわたしにあわせてそう聞いてきた。元々キリっとした人なので正面からみられるとなんだか怖い。


 「よろしいですね?」

 「…分かりました」

 「では、もう一度。自然にできるようになるまでやりますからね」


 拾いなおした本を持って最初の位置に立つ。息を吐いて、背筋を伸ばして、正面を見る。


 アイボリー夫人の話を聞いて思い出したのは、いつか見たお母様の姿だった。

 彼女はただ歩いていただけだったけど、とてもキレイだった。服がすごかったわけでもなく、歩いているだけだった。なのに、見たら目が離せなくてかっこいいとも思った。ますぐ前を向いて堂々と歩くあの姿が、夫人の言うとりわけ優秀な人なのだろうか。

 そうだとしたら、わたしもあんな女性になりたいな。


 てくてくてく、どさっ。


 「あ、」

 「途中で気を抜かれましたね。後もう少しですから頑張りましょう」


 ちょっとは進んだけどやっぱり直ぐにできるわけではないらしい。




 「いたい…」


 けっきょく、午後の時間は全部マナーのレッスンだった。

 歩き方も大変だったけど、その後のお茶の作法もめんどうだった。練習で出されたお菓子は夫人の注意事項を聞いてる間に冷たくなっていって、食べたときには焼き菓子なのにひんやりしていた。直ぐだったらもっと美味しかったのに。


 レッスンが終わり部屋に戻ったわたしは今、ベッドに寝っ転がっている。

 疲れたのもあるけど、首がいたい。本をずっと落とさないようにしていたら首がいたくなっていた。うーんっと手足を伸ばすとちょっとよくなったけど、なんだかすっきりしない。


 「お嬢様、明日のご予定です」


 クッションを抱いたままごろごろ転がっていたら、侍女が部屋の外まで来ていた。

 さすがにこの状態は恥ずかしいのでさっと起き上がって髪を少し直す。


 「どうぞ」

 「失礼します」


 ごろごろしていたのはバレていないらしい。

 入って来たときと変わらない無表情で侍女はわたしの傍まで来て口を開いた。


 「明日、ご令嬢同士のお茶会があるのでご当主様より参加しろとのことです」


 お茶の作法習っといてよかった…


ちょっと用事が立て込んでいたので今回の更新は一話だけです。

書けたら次の二週間よりも前に投稿するかもしれません。


拙いですがいつも読んでくださり、ありがとうございます。

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