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公爵家の娘【長編版】  作者: なヲ
はじまりはじまり 六歳編
12/35

思うのはじゆうなのです


 お父様と顔を合わせて十数分後、特に何もないまま時間は過ぎていた。

 会話はほとんどなかったし、お父様はずっと机の書類とにらめっこをしていた。はやく自分の部屋に帰りたかったけど、いいと言われるまではいないといけないなのでずっと座っている。


 暇、だな…

 姿勢よく、背中がぎりぎり当たらないように座っているのももうムリだ。ちょっと座ってる場所をずらして、ソファにもたれかかった。あー、のびーってするー…

 本当はベッドの上でごろごろしたいんだけど、お父様が出てっていいと言わないので集中力が切れてソファでだらける。執事がいるにはいるけど、どうせ見てないしまあいっかと思ってわたしはぼんやりすることにした。


 かりかり


 部屋には羽ペンが紙を擦る音しかない。

 相変わらずお父様はこちらを見ない。まさか見えてないとか…いや、部屋に入ったときに目がばっちりあってたのでそれはない。じゃあ、なんだろ。

 柱の模様を眺めながら考えてみたけど特に思いつかなかった。よく分からないまま、よく知らない人と同じ部屋にいる。用があるわけではなさそうだし、あったならさっさと終わらせてるよね。


 かりかり


 見たところ仕事らしい書類の山が机に出来ている。わたしから見て右が終わったもので、左が終わってないもののようだ。あ、今右に一枚置かれた。

 山は本を数冊のっけたのと同じぐらいの高さできちんと揃えられているのか崩れる心配はない。あ、また一枚。ちらっと見えたけど、文字がびっしり書かれていた。わたしがいつも課題として出される紙の方がまだ読みやすい。本ですらもう少し行と行の間に隙間があるのに……読みにくいと思うんだけどな。


 そんなことを考えている間にも目の前の人は左の山から紙を取って、少し見てから羽ペンを動かして右へ移していく。速さがだいたい同じだから、見ていて楽しい。あ、また一枚終わった。

 まあ、それでもずっと見ていたいわけじゃないんだけどね。はやく帰りたいな。


 かりかり


 眠い。

 背筋を伸ばしてるときよりは楽だけど、ずっと同じ姿勢だとやっぱり疲れてくる。今すぐ思いっきり腕を上に伸ばしたい。部屋に置いてきた読みかけの本の続きがものすごく気になる。

 はやく終われー帰らせろ―

 心の中でじたばた暴れてみる。ほったらかすぐらいなら部屋から出してほしいんだけど。肩がだんだん疲れてきた。腰のところもなんか痛くなってきた。


 かりかり、かり。


 森の中でうりゃーとか言って走るわたしを想像してたら、羽ペンの音が止んだ。終わったのかな。

 そう思い、柱から視線を戻す。左の山はまだ残ってるけど、最初よりは少なくなっていた。お父様がこちらを見る。部屋に入ったときと同じ、嫌いなものを見る目だった。なんでそんな目をするのか分からないけど、とりあえず目は逸らさなかった。


 「…部屋に帰っていい」


 書類とまたにらめっこを始めたお父様はようやくそう言ってくれた。


 「しつれいします」


 ほとんど動かさない口を動かして挨拶したけど、まったく見られなかった。

 監獄からでた主人公はこんな気分だったのかもしれないと思いながらわたしは読みかけの本がある自分の部屋へるんるんと帰っていった。

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