かぞく
「お嬢様、人を傷つけてはなりませんよ」
「かといって傷つけられて黙ってるのも癪なので、やられたらやり返しましょう!」
侍女二人はそう言ってわたしに色々なお話を聞かせてくれた。
ばかにされてやり返したお話とか、いじわるしてきた子を驚かせて追い返したお話とか。
二人は「あんまりやっちゃダメなんですけどね」と言っていたけど楽しそうだった。
「お嬢様、本はいいですよ。自分の知らないことを教えてくれますから」
きょうの課題の本を渡しながら執事長はにこにこしながら言っていた。
「実際に見たり経験するのも大切ですけどね」とも言っていた。
「悪口を言う人は、所詮他人の戯言ですから聞き流しとけばいいんですよ」
羨ましいんですかね、と料理長はそう笑い飛ばしていた。
「お嬢様、家族には血のつながりなんて別にいらないんですよ」
わたしの世話をしている彼女が言っていた。
友達でも、知らない子でも、どんどん仲良くなっていけばやがて、“かぞく”になることができる、と。
“かぞく”がよく分からないと言えば、安心できる居場所ですよと言われた。
それはお家じゃダメなの?と聞いたら、家でも大嫌いな人がいる家では落ち着かないでしょうと言われてなんだか分かった。
「家族とは安心できて、何かあったときに頼れて、ずっと一緒に居たいと思えて、何があっても守りたいと思える場所ですよ」
それって友達じゃないのと尋ねれば、“かぞく”は友達よりも向こうにあるものだと言われた。
なら、今わたしの目の前にいるこの男の人はどうだろう。
わたしのお父様らしいその人はよくわからない顔をしてわたしを見ている。
安心できそうですか?
できなさそう。
なにかあったときに頼れそうですか?
無理そう。
一緒に居たいですか?
ううん、はやく帰りたい。
その人が大変な時に守りたいですか?
まもるがよく分からないけど、多分しない。
その人と、仲良くなりたいですか?
いいえ、絶対に嫌。
なら、無理しなくていいですよ。
少し前に居なくなった彼女がにっこりと笑った気がした。
“ケツエンジョウ”の父は、わたしのことが嫌いみたい。
だって、さっきから大嫌いなものを見る目で見てくるんだもん。なんでそんな目で見てくるのか分からない。わたしがいるのが嫌なのかな。
わたしだってこんな嫌なところいたくないし、お部屋に帰りたい。
でも、お話で読んだお父さんは“かぞく”で、頭をよしよししてくれて、あいしてくれるらしい。じゃあ、この人はわたしのお父さんじゃない。けど、お父さんらしい。
よく分からないな。
ちょっぴり、お父様だって聞いて楽しみにしたけど、違ったみたい。なんだか、なにかをぽっかりなくした気がしたんだけど、分かんなかった。本読まないとダメね。
……はやく帰りたいよ、アニー。
ちまちま書いてますが、読んでくれてる人がいるようで小躍りしてます。
いつもありがとうございます。