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公爵家の娘【長編版】  作者: なヲ
お嬢様との日々 五歳編
10/35

お別れ

 別れは半年も経たずにやって来た。


 今日で以前から仕えていた使用人は全員辞める。

 理由は屋敷の引っ越しによる総入れ替え。家が新しくなるから人も新しくするとかそんな変な理由を旦那様が言っているが、正直それどころじゃなかったので話を聞いてなかった。数か月前なら信じられない態度だけど、あと数時間で使用人じゃなくなると思うと憂鬱な気分になるので勘弁してほしい。退職金だってどうでもいい。ただお嬢様のことが心配だ。


 「今までご苦労だった」


 旦那様はそう言って屋敷に戻っていった。後ろに新しい執事長が続く。

少し前に引継ぎのためにやって来た彼は、良く悪くも執事だった。事務仕事を卒なくこなし、指導も分かりやすいが主人の事情には踏み入らず仕事は仕事と割り切るタイプ。そこに情はなく旦那様が主であるなら動く、良い駒。勿論、そういう人材だって必要なのは分かるが現状の公爵家を改善するのは彼のようなタイプではないだろう。


 新しい屋敷は前と比べて気高さは変わらず感じられるが、古くずっしりとした重い雰囲気は見当たらなかった。

 慣れ親しんだ場所はなくなり、私達の立場はただの他人になる。かつての職場に余所者扱いされるのは少し堪えた。


 「じゃあね、アニー」

 「元気でな」


 サラもジャックも荷物を持って出て行った。

 気付けば皆いなくなっていた。何人かは飲みに行くらしいけど大半は家に帰るか次の仕事の準備に行く。彼らはもう一緒に忙しく働いた仲間ではないことに寂しさを感じた。


 「…アニー」


 はっと前を見ればお嬢様が静かに立っていた。その顔には悲しみが見える。

お仕えした期間は一年もないけど、心を開いてくれていたのだけは分かっていた。外にいるときは動かない表情も使用人達の前ではちょっと動いていた。物語に驚いて目を丸くしたり、ケーキが出てきてソワソワしたり、冬は寒くて布団から出るのが遅かったり。

他愛ない思い出が次から次へと溢れてくる。


 「お嬢様、そう悲しまないでください」


 本当は謝りたいしお別れしたくないと叫びたいけど、必死にこらえる。

 私には彼女を連れだすことも守り通すことも幸せにすることも出来ない。自分に権力があって自分の養子にして楽しく暮らすことができればどんなにいいだろうか、と何度も考えた。でも、それは荒唐無稽な話だ。


 「貴女はこれから沢山出会って、そして別れます。それは避けれません。だけど、会ったことに変わりはないし過去がなくなることはありません」


 お嬢様、貴女はまだ若い。

私だってまだまだ青二才だけどそれなりに別れは経験してきた。二度と会えなくなる別れも中にはあった。あったけど、その分出会いもあった。


 「だから、悲しまないでください」


 貴女を待っているのは過去じゃない。明るい未来だ。

 例え道中にどんな障害があったり傷つこうとも、貴女にはそれを乗り越えるだけの力があるはず。


 「生きてれば、どこかで会えますよ」


 今、私はうまく笑えてるのかな。

 お嬢様に教えたことは間違ってないのかな。もしかしたら、人の温かい心なんて教えない方がよかったのかな。

 だって、そしたらこれからどれだけ冷たくされようとも受け流すことが出来る。温暖な気候で育った生き物は過酷な環境で生きられない。

私達ができたことは少しの間、人が来るまで寒さをしのぐ方法であって温まることじゃない。お嬢様にはもう少ししたら凍え死ぬような冬が待っている。暖を取って温めてくれる人がそこにはいるかもしれない。…いてほしい。私達にはできないことを、どうか、どうかしてほしい。


 「アニー、またね」


 私の後悔なんて余所にお嬢様は笑ってまた会おうと言う。花が咲き誇る程じゃないけど、それでも人の心を明るくするには十分すぎる笑顔を見たら、教えてよかったなって思った。


 「ええ、またどこかで」


 貴女が寒さに耐えきれなくなった時、願わくば私達と過ごした日々が温かさとなって守ってくれますように。


 とびっきりの笑顔を見せて私は公爵家を去った。

やっと更新できた…お待たせしてたらすみません。


これにて五歳編は終わりです。

次はお嬢様視点になります。

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