二百年後の世界で運命の恋に出会いました〜恋することのないはずの世界であなたを見つける〜
連載版の予告です!
感想・評価が連載版への力となりますのでお待ちしております!
「初花ー!ランチいこ!」
「えっ、もう12時なの?」
本から目をあげると私の机の前に友人で同僚の中野美波がいて、呆れた目で私を見下ろしていた。
「もう13時になるわ。ずっと声掛けてるのに気づかないんだもの」
時計を見ると短い針は1を指し示していた。
「ごめんごめん。この本がなかなか難しくて」
「まあ研究熱心なのはいいことだけど、私とのランチは約束なんだから守ってよね」
「もちろん!」
両手を合わせて謝罪ポーズをすると、美波は溜息をつきながらも許してくれた。美波とのランチは私の楽しみでもあったので、自然と笑みが浮かんだ。
二人並んで外に出ると空は曇っていて冷たい風が吹いていた。今は12月。もうそろそろ雪が降る頃だ。私達は足早にお店に向かった。
「いらっしゃいませ。2名様ですか」
「「はい」」
「お席にご案内致します」
お店に着くと、柔らかい微笑みを浮かべた女性の店員さんが席に案内してくれた。
店内は女性客も男性客もいて賑わっている。おしゃれなカフェで前世だったら男性だけだと入りずらいお店だなぁと思った。
私は天音初花。20歳。植物研究所の研究員で、根っからのリケジョである。いや、もうこの言い方は古い。リケジョなんて100年以上前に滅んだ死語なのだから。
どういうことか。それは、この世界が私が前世で死んだ2020年から200年近く経った2219年であるということだ。この200年で、この世界は思いもよらぬ方向に進んでいた。
ーー世界から恋が消えた。
こう言われても首を傾げるだろう。恋は、人間の本能であり、子孫を残すために必要な感情だ。しかし、事実、この世界には結婚という概念がない。いや、正確には概念はあるのだが、結婚する人が皆無なのだ。
それはなぜか?答えは至極簡単だ。人々が欲情することがなくなったからである。
事の発端は人工的に人間を造れるようになった事だった。それはAIということではなく、ただの人工授精ということでもない。人工的に卵子と精子を造り、人工授精させ、育生器で育てるというものだ。親は存在しない。この技術は増え続けるセクハラやDVなどにより、女性の男性に対する姿勢が徐々に厳しいものになり出生率が低下した21世紀半ばにおいて救世主だったと言えよう。また、彼らは同じ遺伝子を持っていながら、皆違う顔を持ち、違う性格で、能力も違った。そして人工で造られた人間同士では欲情しないことも明らかになった。これらの理由はまだ明らかになっていないが、この技術がより一層世間に認められる一因になったことは明らかだ。人工で造られた人間は普通の人間として認められた。その結果、人々は結婚せず、子供が欲しい人は人工的に造られた子供を引き取り、その他の子供は学校の機能も備えている未成年生育施設で育てられるようになったのだ。
そう、それが100年以上も続いた結果、2219年の現代では全ての人間が人工的に作られた個体であり、誰もが恋することのない世界が出来上がったのである。
さて、なぜ私がこんなにも詳しいかというと、先ほども少し言ったが前世の記憶があるからだ。前世の私は婚約者に裏切られて失意の果てに自殺した哀れな女だった。その時最後に願ったことを今でもよく覚えている。
『来世は恋することのない人生でありますように』
この願いは無事に聞き届けられたのだろう。今世の私は恋することもなければ、裏切られることもない。前世の感覚からすると少し寂しい気もするが私にとって最良の世界だと、今の今まで思っていた。
今の今まで、だ。
ガッシャーン!
大きな音がしてそちらを見ると、茶髪で同い年くらいの男性店員が落とした食器を拾い上げるところだった。慌てて先ほどの女性が奥から出てきて周りの席に謝りながら男性を手伝って食器の欠片を拾い集め始めた。男性が欠片を拾う手は白くほっそりとしていて、妙にどきっとする。
(あ、あれ?なんで私今ドキッとしたんだろう?)
前世の記憶があっても私は造られた人間だ。男性を見て何かを感じることなんてあるわけがない。それなのに、心臓の音は鳴り止まない。鳴り止まないどころかどんどん大きく速くなっている気がする。
その時、男性が片手で目にかかった前髪をかきあげた。
「えっ……?」
小さな呟きが漏れる。彼の目を見たことがあるような気がして必死に記憶の糸を手繰り寄せるが、結局途中でその糸は切れてしまった。
一瞬彼がこちらを見た気がしたが、すぐに視線がずれたのできっと思い違いだろう。
「……か、…つか、初花!」
「は、はひ!?どうしたの?」
大きな声で呼びかけられてようやく美波の存在を思い出したが、動揺して思わず声が裏返った。
「大丈夫?全然反応なかったけど」
「ご、ごめん。ちょっとぼーっとしてた」
男性にドキドキしていたなんて言えず、咄嗟に嘘をついた。ごめん、美波。
「最近ちゃんと寝れてる?疲れるんじゃない?」
「大丈夫だよ。ちゃんと寝てる」
「それならいいけど。なんかあったらすぐ言うんだよ?」
「うん、ありがとう!」
美波がまるで母親のようなことを言うから笑いそうになるのを必死にこらえた。本人はいたって真面目に心配してくれてるしね。それに、母親って言ってもわからないだろう。だって私達は未成年生育施設の先生方に集団で育てられたのだから。
その後は和やかにお昼が過ぎていった。ただ一つ、初花の心に大きなさざ波を立てて。
この出会いが初花の人生を大きく変えることをまだ誰も知らなかった。
読んでくださりありがとうございました!
連載版の開始まで今しばらくお待ちください!




