そのよん
「コーは何が好きなのだ~?」
クロサイ獣人は銀行家の家の中庭をとっとこ走りながら悩む。
大型肉食獣人達が出入りするこの家の敷地は、クロサイにとってなわばり同然だった。
多忙なはずの銀行家が気分転換に水やりに出てくる。
「おや。ドミーくんはコーお嬢さんにサプライズでもしたいのかな」
庭の大きさに対して明らかに小さなじょうろを抱えた人間は、ゆったりと水をまく。
目をしぱしぱさせて足元を濡らしていく。
「フランクおじさん、それ、水やりできてる・・・?」
足を止めたクロサイ獣人の男の子も、目をしぱしぱさせた。
「なんだろうね。多分できていないんだろうね。それでも、少しは土をつたっていくかなと思ってね」
早々にじょうろを空にした銀行家は満足そうに笑う。
後ろに控えた家人が、濡れた服と革靴を心配そうに見ている。
いつも良くしてくれる人間の感情を読み取ったクロサイは、会話を切り上げにかかる。
「コーはいつも僕とドライフルーツを食べるけど、あれは好物じゃなかったのだ。僕が好きなものを食べるとき、コーにも好きなものを食べて欲しいのだ~」
にっこりした人間が、とことこ近付いてきたクロサイの頭を撫でる。
縦に並んだ二本の角に、立派になって、と呟く。
クロサイの男の子の体長は、二人の人間ともうほぼ同じだった。
「コーお嬢さんは、ドミーくんと一緒ならなんでも好きだと言うと思うよ」
「おたずねになれば、そうおっしゃいますよ」
ん~。
「ず~っと前に言われたのだ~」
クロサイの男の子は、あたたかなまどろみの記憶を思い出した。
「キッチンを借りて、お菓子を作って、コーとカイくんのところに戻るのだ~」
調理場に向かうクロサイの男の子を見送ったあと。
「アレクサンドル、聞いていたかい。コーお嬢さんに散々儲けさせてもらっているのだから、たまにはお返ししないとバチがあたるよ」
サンルームで勝手にくつろいでいた金髪商人に、銀行家が声を掛ける。
「そうですね。ところがですね、もうコーさんとカイさんが手配済みなんですよ」
くすんだ金髪を振った商人が、心底残念というフリをした。
銀行家の家から離れた辺境の地、通称「英雄達の街」。
かつての大戦で味方を勝利に導いた大型獣人達、その末裔が心豊かに過ごす街。
その地に不思議なフォルムのキッチンカートが納入されたのは、ピクニックに最適な、ある晴れた日のことだった。




