そのに
「コーは何が好きなのかわからないのだ~」
クロサイ獣人が白いオオカミ獣人に話し掛ける。
頼もしい大型肉食獣人に囲まれて、ざわめく町中を歩く二人。視線の先には黒いオオカミ獣人に抱えられた人間の女の子がいる。
今日はなわばりである大型肉食獣人の街を出て、人間がたくさんいる通称「中央」にやって来ていた。
街と違い人と物に溢れた地。感覚に押し寄せる情報量に、クロサイ獣人はいつも圧倒される。体のどこかがざわざわする。しかし、視線の先にいる女の子からは、平べったい感情しか感じ取ることができない。
「食べ物か。分からないな。コーは大概の物は食べる。小麦粉の菓子とドライフルーツは日持ちがするから好きらしい」
進む道の両側には様々な飲食物も並べられている。
甘い、辛い、香ばしい。
まわりには香りが溢れているのに、どの香りにも、人間の女の子は同じ反応しかしていないようだった。
「その好きとは違うのだ。味が好きとか、香りが好きとか、そういう好きなのだ~」
「分からないな」
むう。
小さく唸ったクロサイは、隣を歩いていた人間の青年を見上げた。
一緒に歩く人間の男性三人は物心ついたときにはもう馴染みの匂いだった。
クロサイは彼らを自分達の群れの一員と認識していた。
「ルーフェスおじさんから見て、人間の感じだと、コーは何が好きなのだ~?」
大型肉食獣人に驚く旅行者を笑顔で誤魔化していた人間が横を向く。
「難しい質問ですね。多分私よりアレクサンドルさんの方がわかると思いますよ」
洒落た装いの黒髪の青年はくすんだ金髪商人に話をふる。
たっぷりとした服地を揺らし、顎に手をあてた金髪商人は首をかしげる。
「どうでしょうね。本気の好き嫌いは表に出さないと思いますよ。状況に応じてフリはするでしょうけれど」
なおも回答を求めるクロサイの顔に促され、人間は言葉を継ぐ。
「繁華街であの目、あの顔。見てくださいよ。食べたいなとか、着たいなとか、欲しいなとか、そんな純粋なものじゃないですよ。皆さんにはフリをしても意味がないとわかっているからでしょう」
足音の小さな銀髪の人間が付け加える。
「今の関係がなけりゃ、やりづらい相手だったろうな」
むう。
もう一度唸ったクロサイ獣人は、別の話題に発展してしまった人間達の会話から撤退した。




