そのいち
「コーは何が好き~?」
壁にもたれるように座ったクロサイ獣人の男の子。
太め短めの手には、果実のついた枝がある。
チーター獣人が寝そべり、トラ獣人が歩き回り、クロコダイル獣人があくびをする街の寄合所。その片隅は、幼いクロサイ獣人にとって世界で一番安全で安心で、心穏やかに過ごせる場所だった。
「僕はね、これ、好きなのだ~。特にね、カイくんがくれるのは美味しいのだ~」
筒型の耳がくるくるしている。
明るい声をあげるクロサイ獣人の向かいには、うとうとする小さな人間がいる。
コーと呼ばれたその人間は、立ったとしても座るクロサイの肩までしかない。
幼子にあわせて座り込む女の子の手元では、ツボ押し用の石がにぎにぎされている。
クロサイ獣人は、本人が主張するのでこの女の子を仮に人間と考えるようにしている。しかし、気配に繊細なクロサイ獣人の本能は女の子を「人間に近い何か」と認識していた。
「カイくんはすごいよね。見て、匂いを試すとドミーくん好みかどうかわかるらしいよ。すごいよね。あんなところまで取りに行ける上に、感覚が鋭いんだよね」
小さな腕がわずかに上がる。
「それに、こんな風に石を吟味して加工しちゃうしね」
青い布ですっぽり身体を覆ったコーの目は閉じかけている。
喋り終えて閉じた口の代わりか、なんとか開けた目でクロサイの手元を見ている。
細い枝と小さな赤い果実は、いかにも硬そうなクロサイの両手で大事にされている。
オオカミ獣人が森の奥で取ってきたその果実は、収穫のタイミングで大きく味を変えることが知られていた。どのタイミングの味が好みかは人それぞれで、かつ、収穫時期の見極めが難しいことで有名だった。
「コーは何が好き~?」
まるっこい口元をもにゅもにゅさせて、クロサイが再び聞く。
「うーん。みんな好きだよ」
「え~」
「みんな好きだよ」
もぞもぞ、もぞもぞ。
青くて丈夫で暖かい布に包まれて眠ってしまったクロサイと女の子に、白いオオカミ獣人が歩みよる。
抱えあげるには大きく重くなってしまったクロサイと、出会った頃から変わらない女の子をしばし眺めた白いオオカミは一度立ち去る。
毛布を片手に戻ってきたオオカミは、眠る二人をすっぽり囲むように横たわると自分ごと毛布で覆った。




