第94話 お父様からの手紙
正直、禁断の魔導書オプスクーリタースに気を取られすぎていたわ。
この世界には魔導機なんてものがある。移動手段は徒歩か馬かの時代に、いろいろすっとばして世界を闊歩する鉄の巨人が。
思い返せばレイナとなった私の人生の節目では、いつも魔導機が襲撃してきた。となるとクライマックスイベントが改変されて、魔導機による襲撃が起きても不思議ではないのよね。
アレクサンドラの襲撃が普通の刃物によるもので、ディランが防いでくれたのは幸運だと言えるわ。あの日、私はビームで吹き飛ばされていた可能性もあったのだ。
それにもう慣れてしまってきているけれど、去年の卒業式の戦闘や行軍訓練での戦闘、そしてこの前の敵アジト襲撃戦はマギキンでは元ネタになりそうなイベントがないのよね。
存在しないはずのイベントには存在しないはずのキャラクターが関係していると考えると、やはりあの人物――ルシアが関わっているのではないかと勘繰ってしまう。
けれどルシアの魔力はマギキンでのレイナに準じたのか雀の涙ほど。とても魔導機をあんなに機敏に操作したり、ましてや飛行もこなすなんてことできないはずだわ。厄介ごとを避けるという意味では、思い過ごしだと良いのだけれど……。
☆☆☆☆☆
「先が思いやられますわね……」
運命の卒業式――青春に彩られた学園生活の終わりまであと一年と少し。
けれど悪役令嬢四天王、魔導機、禁断の魔導書、時季外れのクライマックスイベント、そしてドルドゲルスの暗躍とハインリッヒ。キャッキャウフフの乙女ゲーとはかけ離れたような問題が山積みよ。嗚呼、私も三角関係に悩んだりしてみたい……。
高い塔から景色を見ると、少しだけ気がまぎれる。そう言えば前世でも仕事の気晴らしに、よくビルの屋上で景色を眺めていたっけ。溜まった疲労で顔に悲壮感があり過ぎて、二度ほど身投げする人と間違えられて取り押さえられたけど……。
「どうしたんだいレイナ、また落ちちゃうよ?」
「うわっ!? パトリックじゃない、神出鬼没ね……」
「レイナの姿が見えたから、強化魔法で壁を上ってきたのさ」
「それはまた……、何とも豪快な。ところで“また”って?」
「覚えていないのかい? 君は月下の舞踏会の時に転落したじゃないか」
あー、そう言えば落ちたわねえ。なんかその後もいろいろあり過ぎてちょっと忘れていたわ。普通転落し未遂なんて忘れませんけれど、本当にそれどころじゃない事が色々ありましたし。
「僕はいまだに城の管理者に憤りを感じるよ」
「古いお城ですから……」
「そうは言ってもあんな事故前代未聞さ」
あの後、城の関係者全員処罰するくらいの勢いで怒っていたお父様を止めるのには苦労したわ。不用意に柵に寄りかかり過ぎた私も悪かったし。いえ、それは一度目だけね。二度目は確か――、
「――バルコニーごと崩落した」
「そうだよ。客を入れるにふさわしくない杜撰な管理だ!」
「あの時はアリシアを探していて……、確か見つけてバルコニーに出たけれどいなくて」
あの後アリシアはサリアと一緒に別方向から助けに来てくれた。だとするとあのアリシアは幻影……。あの時季節は冬だったけれど、室内には大勢の人が居て暑いくらいだった。だから《陽炎》を生成できたし、外に出ると消えた。
バルコニーは地属性の魔法でもあれば破壊できるでしょうね。後はアリシアの魔法を打ち消したのでもう一人。魔法の使えないルシアを除いても数は合うわね。
そう言えばルシア達はあの場にいたはずなのに私は見かけていない。悪役令嬢四天王が私に宣戦布告をしてきたのは冬休み明けだったけれど、あの時点で私を狙っていたとしたら……。
――辻褄あっちゃったわね。〈シャッテンパンター〉との関係は疑惑だけれど、これはかなり高い確率でギルティだと思うわ。
「ありがとうパトリック、おかげでいろいろ思い出せたわ」
「どういたしまして。元気が出たようで何よりだよ」
「元気と言うよりやる気? ……ですわね」
これを理由にルシア達を取り押さえてもらえば、禁断の魔導書を心配するまでもなくクライマックスイベントは起きないはず。後は問題を起こさないように気をつけつつ、ディラン達と友好関係を維持しながら卒業すれば良いだけだわ!
☆☆☆☆☆
「ただいまクラリス、お父様にお手紙を……ってギャリソン、どうしてここに?」
「ご無沙汰しておりますお嬢様」
部屋に帰った私を出迎えたのはクラリスと、普段はレンドーンのお屋敷にいる執事長のギャリソンだ。白髪にモノクルが似合う、物静かで仕事のできる激渋ナイスミドル。
「今日は旦那様からお手紙を預かってまいりました」
「……手紙?」
いつもは単なる使用人に持ってこさせるのに、わざわざギャリソンを使って? 私は疑問に思いながらも彼から手紙を受け取り、ペーパーナイフで封蝋を開けた。
『レイナ元気でやっているかい? 単刀直入に伝える。ルーノウ公爵とその一派に反乱の兆候がある』
反乱!? 単なる嫉妬心で娘が大暴れしているだけかと思っていたけれど、まさか反乱だなんて。マギキンにはそんな要素一切なかったわよ。
『レイナが調べさせていた人物――どうやら赤鼻のジョンと言うらしいが、奴を追うことで多くの疑惑が発見された』
多くの不正、汚職と共に、お父様に協力したウィンフィールドさんが探し当てたのは魔導機の不正輸入だ。もちろん輸入元はドルドゲルス。つまり、三年前の式典襲撃事件以降に続いた、不明魔導機の襲撃の黒幕はルーノウ派閥ということだ。
『フォーダーフェルト侯爵、ひいてはドルドゲルスが裏で糸を引いていることも大いに考えられる』
先日ハインリッヒを王都から離れさせたのは、ルーノウ派閥とのつながりの調査の為だった。結果、彼の付き人がルーノウ派閥の人間と頻繁に接触していたことが判明した。
『すでにこの反乱疑惑は国王陛下の知るところになっている。だが、一斉摘発を行うためにしばしの時間が必要になる』
ルーノウ派閥は王国を二分するような巨大派閥。その反乱となれば大きな混乱を招く。それを最小限にするためにも、やり方は考えないといけないということだ。
『最後にルシア・ルーノウに関してだけど、彼女はもう少し泳がしておいてくれ』
そんな、それでは間に合わないわ!
ルシア達は今すぐ取り押さえてくれないと、クライマックスイベントは進行してしまう。
お父様はオプスクーリタースのことは当然知らない。私が疑惑を抱いている〈シャッテンパンター〉の操縦士の事も。お伝えして対策を行ってもらわないと!
「《火球》!」
手紙の最後に読んだら燃やすように書かれていたので、私は魔法を使って燃やす。火力のコントロールも今ではお手の物よ。
「ギャリソン、今からお父様にお手紙を書くから――」
「だめです。承れません」
「どうして!? これは命令よ!」
普段使用人の方――それも年上に向かってこんな口はきかないけれど、もうなりふり構ってはいられない。早くお父様へ伝えないと。
「旦那様からこの手紙についてお嬢様が意見を言うと思うが、それは取り次ぐなと仰せつかっております」
「――っ!」
「それからもう一つ。お嬢様ならいかなる困難も超えられるだろう、とも」
その言葉が意味することは一つ。お父様はルシアが何らかの事件を起こすことを承知の上で私の意見を聞き流すということだ。王国の未来の為に。
そしてエンゼリアで起こるであろう何らかの事件は、私が解決しろと。それもルシア達を泳がせたうえでだ。
「……わかったわギャリソン。高圧的な物言いをしてごめんなさいね」
「いえ、お嬢様」
これはお父様の賭けだ。私という最愛の娘をチップに王国の未来を護るという。
お父様はこのグッドウィン王国で起きる反乱を、そして娘の私がエンゼリアで起こる可能性のある事件を防ぐ。この手紙はそうしろと言っている。
まあ私も大貴族の反乱でマギキン地獄の内戦編に突入なんて御免よ。どうやら目指す平穏のためには、大貴族には大貴族を悪役令嬢には悪役令嬢をで、私がやるしかないようね!
読んでいただきありがとうございます!
お嬢様は流され体質かつ巻き込まれ体質




