第89話 滴水成氷ブリザードファルコン
今回はルーク視点です。
――七年越しだ。
俺――ルーク・トラウトがレイナ・レンドーンという女に初めて出会った時、魔法での勝負を挑んだ……が、その時は上手い事誘導されて料理対決になっちまった。そして負けた。
それからあいつと仲良くなってしまって、自然と勝負を挑むことを忘れていたように思える。もちろん今ではそれが良い人生の糧となっていると思うが、やっぱり俺の心の奥底には魔法での勝負をしたい気持ちが残っていた。
そしてレイナに出会って七年が経過した今日、ついにその日が訪れた。相手はおそらくこの国で最強であろう真紅の魔導機〈ブレイズホーク〉を駆る、“紅蓮の公爵令嬢”レイナ・レンドーン。最高の対決だ。
「両者、準備は良いか? それでは模擬戦……、始め!」
開始の合図とともに先手を打とうとしているのか、レイナの〈ブレイズホーク〉の両肩合わせて四門の砲塔が展開する。その動きを読んでいた俺も、〈ブリザードファルコン〉の特殊兵装を展開する。
「一気にいきますわよ! 《火球》六連!」
肩の砲塔と両腕から合計六発、一発一発に必殺の威力がある魔法が放たれた。俺は機体を操作して半分をかわすと、残りを受けるべく魔法を展開する。
「護れ《氷壁》!」
迫る三条の熱戦を、現れた氷の盾が受け止める。盾の数は一枚ではない。五枚だ。
これが俺の〈ブリザードファルコン〉に備えられた特殊兵装、多連魔法発生器の力だ。
ただ同じ魔法を発生させるわけではない。多連魔法発生器はその魔法の強弱や発生位置を操り、そして複数の魔法を同時に操ることが可能だ。
例えば今の攻防では発生した《氷壁》は、一枚ごとに厚みや形が違う。最初の二枚は撃ち抜かれる前提で次の二枚で二本を止め、最後に一枚で直撃コースから逸らす。
まあレイナの馬鹿火力を活かすのが〈ブレイズホーク〉の性能なら、俺の器用さを活かすのが〈ブリザードファルコン〉の性能というわけだ。
「あらま、ずいぶんとちまちました魔法ですのね」
「細やかと言ってくれ。次はこっちから行くぜ。接近戦だ!」
レイナのアホみたいな魔力量に付き合っていたら、当然俺の方が先に魔力が尽きちまう。俺もこの国で――いや世界でもかなりの魔力量を持つと自負しているが、レイナのそれはゆうに倍以上。桁が違うという表現がぴったりなほどだ。
俺は接近しながら腰の鞘から剣を引き抜く。――いや、正確には剣じゃない。その柄の先には刀身ではなく一本の紐が伸びている。しかし鞭と言うわけでもない。
「現れろ《氷刃》!」
呪文を唱えると、紐を軸に氷の剣が形作られた。
「くらえ!」
「――ッ!」
俺が振り下ろそうとした剣を、〈ブレイズホーク〉はその手に持つ〈フレイムピアース〉で受けようとするがその時は来ない。俺の剣が鞭のように姿を変えて、受けようとする剣をかいくぐって〈ブレイズホーク〉にダメージを与えたからだ。
俺の剣〈アヴァランチブレイド〉はいくつもの細かい刃に分かれて、まるで鞭のような形状になっている。その一枚一枚が魔法《氷刃》によって形成された氷の刃だ。
「隙あり《炎熱斬》! ――ええっ!?」
俺の鞭による連撃の隙を突こうとしたレイナは、〈フレイムピアース〉を突き出す。だがその攻撃は、今度は長剣の形となった〈アヴァランチブレイド〉によって受け止められる。
「甘いなレイナ、そしてこうだ!」
そして再び〈アヴァランチブレイド〉は鞭として、あるいは剣として、その名の通り雪崩のような連撃を浴びせる。
時折〈フレイムピアース〉によって剣撃を受けられ、その炎熱によって氷の刃が破損するが、俺の魔法によってすぐに刃は再生する。刀剣の扱いに長じたパトリックならなんとか剣で返すだろうが、いかに戦い慣れていると言ってもレイナには無理だろう。となるとお前の次の一手は必ず――、
「――飛行して上に逃げる! だがもう伏線は貼ってある!」
たまらず飛翔して上空に逃げた〈ブレイズホーク〉を待ち受けるのは、俺が連撃を浴びせている隙に多連魔法発生器を利用して放っていた魔法だ。
「《氷弾》《氷弾》そして《氷嵐》!」
「《炎のマント》!」
レイナはとっさに防御魔法を展開したな。――だが甘い。二方向から降り注ぐ《氷弾》、そして広範囲を巻き込む《氷嵐》を避けるすべはない!
俺は追撃を与えるべく、〈ブリザードファルコン〉を飛翔させる。空を飛ぶというのは何度も訓練を繰り返した今も慣れない。シモンズ教諭に相談したところ、人間は元々空を飛ぶようにできていないから忌避感があるのだと教えられた。納得だ。
だが、レイナは違った。あいつは〈ブレイズホーク〉に初めて乗ったその日の実戦で、軽々と空を飛んで見せた。そしてその後ろくに訓練を積まずにこうして飛行している。まるで、今までの人生で空を飛ぶ機械に乗り慣れているように。
「だが今は身動きがとれないだろう! もらった!」
「来るとわかれば迎え撃てるわ! 必殺《魔法式ミキサー》ダブル!」
――剣を捨てて拳で!?
だがそれがレイナにとって正解だったようだ。
そして俺にとっての失敗だった。
〈ブレイズホーク〉の腕に発生した強力な《旋風》は、俺の〈アヴァランチブレイド〉を巻き取るように粉砕し、もう片方の拳は〈ブリザードファルコン〉の胴体を的確にとらえる。
「くそっ! 一度距離を!」
「逃がしませんわよルーク、《火球》四連! そして連打!」
必死で距離を取ろうとする俺を、レイナの魔法が打ち抜きにくる。あいつの魔力に底はない。俺に当たるまで何発でも撃つつもりだろう。今の〈ブレイズホーク〉は炎のドレスをまとって踊っているようだ。
“紅蓮の公爵令嬢”とはよく言ったものだな。確か名付け親はパトリックの父であるアデル候だったか。燃え盛る炎を操るレイナを評してこう言ったらしい。
さすが、と言うべきか。普段は料理が好きなご令嬢というのが、質の悪い冗談かと思えるくらい強い敵だ。だが俺だってこのまま負けるつもりはないッ!
「反撃の一手だ! 《氷弾》!」
俺が放った《氷弾》は、レイナの《火球》によって溶かされさらに蒸発する。だがそれで良い。俺が得意とする水属性の魔法は、その水蒸気すら利用する。
「《幻影霧》!」
水属性魔法《幻影霧》は、その名の通り霧によって相手を惑わす幻影を作る魔法だ。
本来はデコイとして用いるこの魔法だが、俺が〈ブリザードファルコン〉に乗って使うと一味違う。多連魔法発生器によって、本来単なる幻である霧の位置から攻撃魔法を放てる。
つまり疑似的に多対一の状況を作り出し、大きく隙をつくることができる。そしてその隙に準備するのは、いかにレイナと言えども防ぎづらい大技の上級魔法《絶対零度》だ。炎熱を操ろうと凍り付かせてやる!
「必殺《魔法式綿菓子製造機》!」
「――何!? あれだけの数の幻影が一瞬で!?」
レイナが放った魔法――恐らく火属性と風属性の魔法を組み合わせた、熱風を発生させる魔法によって一瞬で幻影が掻き消えた。この闘技場全体を熱した風でかき回したか!
「クソっ! 上級魔法《絶対零度》!」
「それなら《大火球》!」
俺の魔法とレイナの魔法がぶつかり合い相殺される。準備不足の上級魔法じゃ、あいつのバカみたいな威力の中級魔法には勝てねえか……!
「とどめえっー!」
「護れ《氷壁》!」
迫る〈ブレイズホーク〉に向かって、やけくそ気味に《氷壁》を発動させるが易々と叩き壊される。
やっぱりレイナはすげえ。どんな壁があっても、どんなことに巻き込まれても、最後は必ず乗り越えて高笑いの一つでもしてやがる。
才能だけの話じゃない。俺も最初は正直変な奴だと思った。だがあいつは少々抜けたところがありながらも、努力で周囲の信頼を勝ち取ってきた。あいつの人柄が、諦めない心が、みんなを――そして俺をもひきつけるんだろう。
そんなお前と一緒に過ごしてきたから、俺は自分だけでは気がつけなかったことにも気がつけたし、より高みに上れている気がする。七年越しに思う。そんなお前だから――、
「必殺《魔法式ミキサー》!」
――俺は恋しているんだ。
読んでいただきありがとうございます!
みんな大好きガ〇アンソード。




