第80話 お嬢様は遊びこそ本気で楽しむ派
今回の前半部分はエイミー視点です。
「エイミー! どういうことか教えていただけましょうか!?」
「これはディラン殿下、ごきげんよう。……どういうこと、とは?」
格納庫の一画。魔導機研究会の部室にいた私――エイミー・キャニングの元に、ディラン殿下がルーク様を連れて参られた。そしていきなりこの剣幕でのご質問。
しかし私にはどういうことについて心当たりはない。王族所有地で無許可の実験を行うとか、殿下のお墨付きを得ているという体で取引をしたりはしていない……最近は。
「僕が尋ねたいのはアレです。ア! レ!」
殿下がまくし立てながら指を指した先には、レイナ様専用の真紅の魔導機〈ブレイズホーク〉が駐機している。私が信奉する方の為に造り上げた最高傑作だ。
「〈ブレイズホーク〉がどうかされましたか?」
「そうです、その〈ブレイズホーク〉です! 先日の戦闘の時は急いでいたので聞き損ないましたが、僕はあんな物造っていたなんて聞いていませんよ!?」
まあ言っていませんし。
私がどう返答したものかと迷っていると、殿下の隣に居られるルーク様が口を挟まれた。
「俺は知っていたぞ」
「ええっ!? 聞いていませんよルーク! いつ知ったのですか?」
「いつも何も俺は開発に協力したからな。ちなみにパトリックのやつも知っていると思うぞ」
「パ……パトリックまで……!」
「衝撃を受けているところ申し訳ないですが、ライナス様もご存じですわ。王都でお会いした時にいくつかアイデアを貰いましたもの」
昔からレイナ様をめぐって色々あって、ライナス様からは苦手に思われているみたいだけれど不仲ではない。たまたま王都で彼に会った際に聞いたアイデアは、さすが芸術の道を行く者であって独創的だった。
「ライナスまで!? しかも王都で!? 王都なら当然僕は居ましたよ!」
そんな遊びに誘ってくれたらよかったのに、みたいなノリで言われましても……。王都に寄ったからといって、ふらりと王宮に遊びに行けるほど私は偉くはない。というかある程度の地位があってもそれができるのは、レイナ様などごく一部の方だけだ。
「というわけで〈ブレイズホーク〉は王国騎士団の登録にもある正式な魔導機ですわ。殿下のお耳に入らなかったのはたまたまでしょう」
まあリオも知っていたんですけどね。なお、お披露目した直後のアリシアさんは驚いていたけれど、すぐにレイナ様に相応しい機体ということを理解して賛辞を送ってくれた。
「ならば僕も王国王子として、そして友人として頼みがあります。レイナを一人危ない目に合わせるわけにはいきません。そこで僕にも――」
「ストップです、殿下」
「ストップ? 何故?」
「その件は先約がございます」
「先約!? いったいどこの誰が!?」
驚くのも無理はないけれど、こういう時目的の人物は意外と近くにいるものだ。
例えばそう、殿下のお隣でニヤついている方とか。
「悪いなディラン。先に俺のだ」
「ルーク!?」
王族が関わるとなれば予算はより潤沢に使えるはず。私は思わず心の中でほくそ笑む。
試したい計画は山ほどありますわ。さて、どれから試そうかしら……?
☆☆☆☆☆
例の戦闘から一週間と少し。
セリーナたちコンラッド隊のみんなの大半は完治し、無事に学園生活へと復帰したわ。
季節は冬。
もうじき冬休みだ。
ごたついていて全然できてないお料理研究会の活動が心配ね。
一応何度か集まって簡単なクッキーなんかは作ったけれど、人数も増えたことだしやっぱり何か大きなことをしたいわ。冬休み明けに何か企画しないと。
でもその前には期末テストがある。良い点を取っておかないとね。
エイミーとリオは部活が忙しいみたいなので、今日はアリシアと二人でお勉強だ。成績優秀者様にいっぱい教えてもらおーっと。アリシアは教え方も上手なのよね。
「はっくしょんっ!」
「大丈夫ですか、レイナ様?」
「ううっ、ありがとうアリシア。風邪気味かもしれないわ」
戦闘中に雨に打たれ過ぎたからか、どうも最近風邪気味みたい。
テストもあることだし、悪化はさけたいわね……。
「そうだ、私が何か元気になる物を作りますよ」
「ウヒヒ、ありがとうアリシア。ん? あそこにいるのは……?」
視線の先、庭園の隅で何やら数人の女子が言い争っている。
そのうちの赤髪の一人に見覚えがあるわ。
あれは悪役令嬢A子ことアレクサンドラ・アルトゥーベさんだ。
苛烈な性格がマギキンでのレイナを彷彿とさせるわね。
何かトラブルかしら?
マギキンだとレイナ絡みのこんなイベントはなかったと思うけれど。
「さあ、行きましょうレイナ様」
「え? ええ、アリシア」
アリシアはここから早く立ち去りたいみたいだ。
まあ何があったかは知らないけれど、触らぬ悪役令嬢に祟りなしよね。
☆☆☆☆☆
アリシア特製手料理を食べて体調万端!
勉強を一緒にして筆記テストも順調!
そして当然実技テストも完璧!
「やったー! テスト終わったー!」
ここしばらくの鬱屈した気分から解放されて、思わず前世のように叫んでしまう。クラリスが見ていたらはしたないって注意されるところだ。
「あっ、雪が積もっているわ!」
テスト中降っているなとは思っていたけれど、綺麗に積もった。
テストの終わった解放感、そして積もった雪。
やるべきことは一つだわ。
「雪合戦をしましょう!」
「雪合戦……ですか?」
「ウヒヒ、そうですわディラン。小さいころの様に雪合戦をしましょう」
こういう時はパーッとお外で遊ぶに限るわ。
インドア派な私だけれど、そういうストレス発散は重要よね。
「レイナ様がなさるなら当然私も参加しますわ!」
「私もです!」
早速エイミーとアリシアが参戦の声を上げる。
良いわよ、かかって来なさい。チャンピョンは勇敢なチャレンジャーを拒まないわ。
「おーい、早くしようぜお嬢!」
「リオったらもう先に外に出たのね。さあみんな、行きましょうか」
☆☆☆☆☆
攻略対象者たち、そして私とエイミー、リオ、アリシア、サリアの女子組。
雪の中のサバイバルデスマッチこと雪合戦。
情け容赦無用の戦いが始まった。
「女性相手とはいえこういう時は手加減しませんよ!」
「望むところですパトリック様! 《影の壁》!」
強化魔法《光の加護》で増強した身体能力で、デタラメな高さから奇襲を仕掛けるパトリックの攻撃を魔法で防ぐアリシア。
「おっしゃー! イケメン王子覚悟!」
「なんの、当たりませんよ! 何、ライナスが伏兵!?」
「悪いなディラン。魔法で地中に隠れさせてもらっていた。覚悟!」
声だけ聞いたら完全にテロリストそのもののリオの攻撃をしのぐも、突如地中から襲撃してきたライナスに慌てるディラン。
中でも一番張り切っているのは――、
「ははははは! 俺が“氷の貴公子”と呼ばれている所以を教えてやるぜ! おりゃー! 食らいやがれ雪玉!」
“氷の貴公子”ことこの国で有数の水属性氷雪系統魔法の使い手ルークだ。
でもルーク、あなたのその異名は雪合戦でついたものではないし、あなたを“氷の貴公子”と呼んでいる子たちは「おりゃー!」とか叫んでいるあなたを見たら恋が覚めると思うわ。
「レイナ様、皆さまその……すごい力を遊びに使い過ぎでは?」
「違うわサリア。遊びだからこそ全力でやるのよ。見ていなさい、私も一つ大技を見せるわ《旋風》!」
私も負けていられないわね。
私は魔法で風を操り、雪を頭上に集めていく。
大きな雪玉を作ってみんなをビックリさせてやるんだから!
「よーし、いいわよ。このままこのまま……」
魔法によって集まっていく雪はだんだん大きな雪玉になる。
サリアは距離をとって心配そうに見つめるけれど、大丈夫よ大丈夫。
ウヒヒ、実技一位を信用しなさい。
「さあ、もう少しで完成――ああっ!?」
「わあっ! レイナ様が雪に埋もれて!? 皆さん、レイナ様がー!」
あまりにも大きくなり過ぎた雪玉は私のコントロールから外れ、私の頭上から膨大な雪の塊となって降り注いだ。セルフ雪崩だ。
大量の雪は凶器ね。
身動きがとれない。
幸いにも、すぐに救出されたので大事にはならなかった。
貰ったチートで調子に乗るなってことね。戒め系の童話かしら?
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