第64話 ドレスコードは魔導機で
「エイミー、この機体はすぐに動かせるのかしら!?」
「問題ないですレイナ様、乗り込んで起動してください」
「わかったわ」
私は返事を返して魔導機へと乗り込み、エイミーは私が魔導機を出すのに必要な準備を急ぐ。リオは仮面の襲撃者の格納庫への侵入を防いでいるわ。
操縦席へとまたがりグリップを握ると、一年以上前に初めて魔導機へと乗った時と同じように、汗がタラりと頬を伝って落ちた。今から行くのは命の取り合いの戦場だ。緊張、しますわね……。
『聞こえますかレイナ様?』
「うわっ、ビックリした! これは……、風魔法かしら?」
『その通りですレイナ様。コアの魔力反応を利用しています。敵の数が多いのでこちらでサポートさせていただきます』
突然操縦席の中にエイミーの声が響いてびっくりする。
これって声を遠くに伝える風属性の魔法の応用よね? こんな通信機みたいな使い方もできるんだ。
でもありがたい。魔導機ってレーダーがついているわけでもないし。
「出撃するわよ。まずはライナスとルークが足止めしている敵を叩く。そしてシリウス先生の救援でいいかしら?」
『はい。でもあの漆黒の機体には気をつけてください。何か異様な感じでした』
「わかったわ!」
こういう時「レイナ行きまーす!」みたいな掛け声でも上げたらいいんでしょうか?
でも残念ながら、私は前世であの手のアニメはまるで見たことはないのよね。まるで興味なかったですし。
だから代わりに心の中で誓う。
私は必ず、私の大好きな人たちを助けてみせる。
☆☆☆☆☆
「――見えましたわ!」
正面。まだライナスとルークは何とか粘っているみたい。
二人がこちらに気づいて進路をあける。このまま突っ込むわ!
「よくも先輩方の卒業パーティーを!」
増加している出力に任せた、体当たりで体勢を崩させる。上に乗って取り押さえつつ、周りに人がいるから魔法ではなくて剣を引きぬく。そしてそれをガンガンと何度も思いっきり叩きつける。
お嬢様らしくない野蛮な戦い方でしょうか?
いいえ、楽しいパーティーを襲撃する方がよっぽど野蛮ですわ。
「まずは一機!」
べこりとフレームがひしゃげて動かなくなったのを確認し、次の敵へと向かう。
襲撃してきた敵の総数はわからない。油断はできないわ。
『レイナ様、こちらに気が付いたのか二機が向かってきます。周辺に人影無し』
「了解したわ、エイミー」
周りに人がいないのなら……!
私は剣から手を放し、杖をグリップさせる。
「ビームをたっぷりと召し上がりなさい! 《火球》!」
さっきは弾かれた、でも今度は違う。
魔導機によって高出力化された私の魔法が、一筋の熱線となって迫りくる敵を焼き払う。
『一機撃破確認。もう一機も戦闘不能です』
まだ敵は多いわ。それにあの漆黒の機体もいる。
なんとか持ちこたえてください、シリウス先生。
☆☆☆☆☆
――いた! なんとか持ちこたえているみたい。
「シリウス先生、助けにきました!」
「その声、レンドーンか!?」
「はい! 一緒に戦いましょう!」
「――くっ、すまない。無茶はするなよ」
シリウス先生の乗る〈トレーニングイーグル〉はもうボロボロだ。
対する敵は漆黒の機体を含めた六機。
それに伏兵もいるかもしれない。多勢に無勢ね……。
「撃ってきた!? 《光の壁》よ!」
数の利を得ているのは相手も当然承知している。
セオリー通り、距離をとっての魔法攻撃だ。
けれど私の魔力を舐めてもらっては困るわ。
私は巨大な魔力の壁を展開し、敵の攻撃魔法を防ぎきる。
でも護るだけではジリ貧ね……。このまま援軍まで時間を稼ごうかしら?
いや、さすがに無理だ。何か攻めに転じる手段は――。
「――! 先生、次弾幕が緩んだら壁を解除しますわ。攻撃の準備を!」
「了解だ!」
「行きますわ! 沈め《泥沼》!」
相手が立っている場所。
そこは学院内の色々な地質を調べていたライナスによると、水はけが悪い地質だ。
実際雨が降るとあの場所は長々と水たまりが残っている。
相手が数の利ならこちらは地の利よ。私の発動した泥沼は広範囲に広がり、敵機の内四機を飲み込む。
「さすがだなレンドーン! 《双嵐砲》!」
「ありがとうございます! 《炎の矢》よ!」
シリウス先生の放った二本の竜巻が、そして私が放った多数の炎の矢が、泥沼にはまり動けない敵を襲い撃滅する。
『レイナ様、残りの敵は二手に分かれました』
「わかったわ! シリウス先生、私は黒い方を追います」
技量はともかく、損傷の度合いからして私が相手をするのが妥当でしょうね。
「そうか。だが気をつけろ、奴の動きは他とは違うぞ」
「心得ておきますわ。先生もお気をつけて」
☆☆☆☆☆
漆黒の魔導機は、まるで私が追いかけてくるのを待つかのようにたたずんでいた。
他の敵――〈シュトルム〉のフォルムとはまるで違うわね。
〈シュトルム〉は重装鎧の様な、はいかにも工業製品然とした武骨なフォルムだ。
けれど目の前の敵は獣の様なしなやかを感じられるバランスで、まるで美術目的の甲冑の様。
確かハルバードとか言うのだった、長柄の大斧を担いでいる。
一見アンバランスな武装に見えるけれど、シリウス先生との戦いでは器用にその大斧を操って、高速の接近戦をしかけていた。油断はできないわ。
「――来る!」
右――いや左からだ。
敵は獣のように低い姿勢で右側に突っ込んできたと思ったら、大斧を腰からぐるりと回した反動を利用して左側に切り込んでくる。
私はすんでのところで剣を出して受け、出力の差にまかせた強引な方法で初撃を流し切る。
敵はあれだけの大きな得物を使っているのにまったく隙を見せず、今度は手刀を叩き込んでくる。
「避けられる……! って、目眩し!?」
魔法か機械的な仕掛けかわからないけれど、閃光が私の視界を奪う。
手刀に見えた攻撃はこれを放つためのものだったのね……!
「くっ――! 《風よ吹きすさべ》、そして《水の壁》よ!」
烈風を発生させて回避を誘発し、水の柱で牽制する。
狙いは大斧が届かない距離を保つことだ。
ここまでの攻防ではっきりとわかる。敵の力量、もしくは魔導機の性能は私より遥かに上よ。
「敵は……あそこね!」
私の視界が元に戻った時、敵は距離を置いてたたずんでいた。
こちらを観察しているような余裕すら感じる。
「エイミー、聞こえる? シリウス先生の方はどうなっているのかしら?」
『聞こえますレイナ様。先生は押しているようです。あと、敵の予備戦力が出てくる気配はありませんわ』
さすがはシリウス先生。ボロボロでも一機相手なら負けることはないみたいね。
後はどうにかこいつを……!
「この距離なら! 《火球》!」
杖の先から発生した一筋の閃光が敵に目掛けて直進し――、
「――避けられた!? この速度の魔法を!?」
魔導機によってビーム化された魔法は、すさまじい速度を持つ。
防御系の魔法で受け止めるならともかく、避けられるのは想定外だった。
私の魔法を避けた敵機は、その勢いのままに突っ込んでくる。
「何よこいつ速すぎるわ……!」
防御魔法……だめ、間に合わない。
剣を……だめだ、さっきの攻撃でダメになっている。
視界には迫る大斧。
――避けられない!
「きゃあっ!」
なんとか直撃をかわす。
痛い……、頭をぶつけて血が出てる。
タラりと目のところまで垂れてきて、視界が半分赤く染まる。
――返しのもう一撃がくる!
「《闇の加護》よ動きを遅滞せよ!」
敵の動きが遅くなった!?
これは闇魔法――アリシア!
足元を見れば、黄色のパーティードレスのまま飛び出してきたアリシアが、生身で敵魔導機に手を向けていた。そうか。直接的な攻撃魔法は効かなくても、ルークがやってみせたように補助魔法なら少しは効くんだ。そしてアリシアの得意属性の闇魔法は、相手の妨害が十八番。おまけにこの位置取り、魔導機の影を利用して魔法の威力を高めて……!
「今ですレイナ様!」
「ええ! 左腕を貰いますわ! 必殺《魔法式ミキサー》!」
私は渾身の魔力を込めて、右手で《旋風》の魔法を発動する。
絞り込んで圧縮された魔力が、風の螺旋となって右腕を覆い、それを叩き込む。
それは敵機の左腕をぎゅるんと粉砕し、大斧を振り回し切れなくなった右腕にもダメージを与える。
「さあ、次はとどめですわよ――逃げる!?」
状況不利と判断したか、漆黒の敵機はこちらには目もくれず逃げ出した。
「追わないと!」
『レイナ様お待ちください。援軍です。到着した魔導機部隊が残敵の追撃は我々に任せてほしいと。シリウス先生が相手をしていた敵も撤退したようです』
「……やっと来たのね。わかりましたわ」
通信が切れたのを確認して、私はホッと安堵の溜息をつく。
正直やられてもおかしくはなかった。アリシアの魔法のおかげだ。
「あっ、そうだアリシア! アリシアー!」
「こちらですレイナ様! レ、レイナ様頭から血が!?」
笑顔で手を振るアリシアに応えるため、私はハッチをあけて魔導機から降りた。すると私の頭から流れ出る血を見たのか、とたんに彼女の顔は蒼白になる。
「ああ、頭からの出血は派手さのわりに大したことないのよ……たぶん」
「そ、そうなのですか……? でもすぐに治療を」
「それよりさっきはありがとう。でも生身でなんて無茶しちゃだめよ」
「レイナ様はみんなのために戦ってくれました。少しでもそのお手伝いがしたくて……」
そう言って私の手をギュッと握る彼女は、まさしく物語のヒロインだった。
これ激戦を終えた熱血系主人公が、ヒロインから労われるやーつ。
ま、ロボットバトルを望んでしたわけではありませんけれど、これで私の大好きなマギキンの世界を少しは護れたかしらね?
読んでいただきありがとうございます!




