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紅蓮の公爵令嬢  作者: 青木のう
第2章 Heroine~入学~
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第63話 私にしかできない事

「それで、何のお話しでしょうかフォーダーフェルト侯爵」

「ハハハ、そう身構えないでくれたまえ。私はただ君に興味があるだけだよ」


 ハインリッヒ・フォーダーフェルトは良い声だ。顔も良い。

 ここに歩いてくるまでの周りの反応を見る限り、きっとモテるんだろうと思う。


 けれど、なぜか私は嫌悪感(けんおかん)を抱いてしまう。

 良い声はねっとりとしたいやらしい声に聞こえてしまうし、顔はどこか爬虫類のイメージ。まとった雰囲気は詐欺師(さぎし)の様に胡散(うさん)臭く思えてしまう。


 この男は私のマギキン知識に存在しない。というかドルドゲルス――正確には大ドルドゲルス帝国とかいう国の名前も、マギキンゲーム中では聞いたことない。


「君の事は噂でよく耳にしているよ。すさまじいまでの魔力を持つそうだね?」

「まあ、私の噂はドルドゲルスまで広まっておりますの?」

「ああそうさ。なんて言ったってこの世界では魔力の才能は重要だからね。もしかして()()神に愛されたのかな?」


 ……()()

 この言葉の言い回しに、私の中で一つの予感が(ざわ)めく。

 馬鹿馬鹿しい妄想かもしれない。けれどその考えが頭をよぎった。


 ――もしかしてこの男も転生者……?


 でもあのおとぼけ女神に会ったのなら、女神と言うはずよね。ここは探りをいれてみましょうか。


()()とはどういった意味でとらえればよろしいのでしょうか?」

「言葉のままの意味さ。私は他の凡愚とは違い神に愛されて生まれてきた。君もそうだろう?」

「いいえ。私は生まれてこの方、神に愛されたなどと思ったことは一度もありませんわ」


 なんだ、貴族のお坊ちゃんにありがちなただの選民意識か。

 ということは、この会話の目的はただのナンパ?


「そうかい? でも君は初めて乗った魔導機で敵を殲滅したのだろう?」

「……家族や友人を護るために無我夢中だっただけです。何より、実際の命のやりとりは恐ろしいものです。軽々しく誇るものでもありませんわ」

「なるほど。()で聞いていたよりは、ずっと慎重で思慮深いお嬢様のようだ。臆病と言ってもいい」


 ……挑発、かしら?

 本当にただの興味本位で話しかけて、反応を試しているの?


「話がつかめませんね。私を批評したいのか何なのか」

「失礼。不快に思ったのなら謝ろう」


 この男、さっきから失礼と口で言ってはいるけれど、内心そうは全く思っていませんわね。

 プライド高く、批評家気取りのナルシスト。それがここまでの会話での印象だ。


「言っただろう、君に興味があると。どうだい、私の妻にならないか?」

「……妻? はあ!?」


 唐突な発言に、思わず声が裏返る。

 何言ってんのよこいつ。


「正確に言えば私の()()()()()()()だがね。しかし、きっと大事にしよう」

「……それって最低の口説き文句だとご理解していらっしゃるかしら?」

「最低かどうかは人の受け取り方によるがね。事実、下層民から私の妻になって救われた女性もいるのだよ」

「我が国の貴族にも(めかけ)がいる方は大勢いますし、宗教的歴史的な文化にお説教する気はありませんが、私はお断りします」

「おや、振られてしまったようだね」


 ハインリッヒはその言葉とは裏腹に、にやけた表情を崩さない。欠片も残念そうじゃない。

 いい加減この男との会話にイラついてきた時、いかにも魔法使い然としたローブ姿の男がハインリッヒへと歩み寄った。


「閣下、そろそろお時間です」

「おや、もうかい? 楽しい時間はすぐに過ぎ去るね。というわけでレイナ嬢、ごきげんよう。生き残ったらまた会おう」

「――! ちょっと待って、それってどういう意味!?」


 ハインリッヒと連れの男は、不自然なくらい自然に人混みにまぎれて私の視界から消えた。


 あの男は一体何者なの?

 ただの頭のおかしな貴族?

 それとも――、


 ――ドゴーン!


 私の思考は、突如会場に響いた轟音にかき消された。


 会場の壁の一部が、何らかの原因により崩落した音だ。

 響く悲鳴、叫ばれる怒号。続いて巻き上がった砂煙の奥から多数の人影が歩んでくる。

 そいつらは皆、そろいの妙な仮面をしていて顔が見えない。

 けれど一つだけわかるのは、仮面の集団が明確な敵意を持っていることだ。


「襲撃だ! 警備兵は前へ!」


 その言葉が開戦の合図だったのかもしれない。

 華やかなパーティー会場は一瞬で魔法の飛び交う戦場になった。


「きゃあ! 誰か助けてー!」

「くそっ、この野郎!」


 何? 何なのいったい!?

 この世界のパーティーは何か問題が起こらないといけない決まりがあるの!?


「レイナ様、ご無事ですか!?」

「エイミー! 一体何があったの!?」

「わかりませんが、見ての通り何者かの襲撃です」


 会場内では出席者と仮面の集団の戦闘が繰り広げられている。

 しかし、さすがは魔法の名門エンゼリア。突然の襲撃だったにも関わらず、ここに応戦している出席者側が押し返しているようだ。


「危ねえぞお嬢!」

「グハッ!?」


 私を背後から襲おうとした敵を、リオがハイキックで気絶させる。

 そう言えばこの子って喧嘩めちゃくちゃ強かったわね。


「ありがとうリオ!」

「ボサッとしてんじゃねえ。早く逃げるぞ!」

「ええ!」


 リオに促されて、私たちは会場を脱出するべく走る。

 やっとたどり着いた出口付近でも激しい戦闘が行われていた。


「《雷霆剣(らいていけん)》!」

「ディラン!」


 剣が振られ、雷光が轟く。ディランお得意の《雷霆剣》の魔法だ。

 ビリビリと迸った電撃が仮面の集団をまとめて感電させた。その隙をついてディランに声をかける。


「レイナ! 良かった、無事みたいですね! アリシアとサリアはルークが連れて行きました。レイナも早く!」

「そうだよ、ここは僕とディランが支えるからね!」


 パトリックは笑顔で返しながらも、複数の仮面の男を相手にしている。

 流れるような剣技であるいは受け、あるいは斬り払い、巧みに戦闘のペースを握っている。


「パトリック! わかりました、お二人とも無理はなさらないで」


 あの二人なら大丈夫だろう。

 アリシアとサリアもルークが護っているなら大丈夫だ。

 それくらい乙女ゲームのヒーローは無敵なのだ。



 ☆☆☆☆☆



「なんとか脱出できたけれど……あれは、魔導機!?」

「ですわね。あの武骨で実用的な姿、ドルドゲルスのMZ04〈シュトルム〉ですわ」


 またドルドゲルスの機体。あのハインリッヒとかいう男もドルドゲルスの貴族だったし、やっぱり襲撃犯はドルドゲルス?


 でも一番魔導機を生産しているのもドルドゲルスで、多くの勢力が手にしているから、安易にそう断じてはいけないと王宮襲撃事件でも言われていたわね。


「どうやら戦っているようですわね。……あれは練習機かしら?」


 エイミーがつぶやくように、一機の練習機が複数の敵と交戦していた。

 右手には剣を持ち、左手は魔法を放って牽制している。


「くらえ《雷撃》!」


 あの声、シリウス先生だ。シリウス先生が戦っているんだわ!

 シリウス機は、迫りくる〈シュトルム〉の斧を巧みにかわして魔法を撃ちこむ。


「すごい! 一機倒してしまったわ!」

「ええ! ――レイナ様、新手が!」


 遠めに見ても分かる。他とは違う形の機体だった。

 全身は夜の闇の様に漆黒で、豪奢な金の縁取りがしてある。

 他の〈シュトルム〉よりも大きな斧を担いでいる。


「あの機体、私の記憶にはない機体ですわ!」


 海外の新機体発表会や開発状況まで調べ尽くしているエイミーが知らない機体!?

 つまりどこかの勢力が開発した新型……。ざっと見た感じ、あれだけ巨大な斧をかつげるだけパワーがあるってことよね。


「ああっ! シリウス先生!」


 おまけに速いわ。機械とは思えないなんて速さ!

 漆黒の新手は獣のようにシリウス機へと襲い掛かると、周囲との連携で追い詰める。


「このままじゃ負けちまう! みんな援護を!」

「そうだな! 《火球》!」

「《石の(つぶて)》よ!」


 誰かの掛け声に呼応して、周囲の人々が魔導機に向かって魔法を撃ちこむ。


 でもだめ。まるで効いていない。

 防御呪文を使うまでもなく魔導機の装甲にはじかれているわ。


「うわあっ!? こっちに来るぞ!」


 しびれを切らしたのか、敵の内一機がこちら側へと向かってきた。

 このままじゃみんな殺されちゃう!


「エイミー、私の魔法なら効くかしら?」

「……あるいは」


 魔導機の装甲は硬い上に、魔力に強い。でも挑むしかない。


「食らいなさい! 《大火球》!」


 今の私の渾身の中級魔法。

 試験場を吹き飛ばした一撃。どう?


「効いていない! お嬢逃げろ!」


 嘘、無傷……?

 リオの言葉通り逃げたいところだけど、この距離だともう無理だ。

 目の前に激高した〈シュトルム〉の振り下ろす斧が見える。


 ――私はここで死ぬ?


「《土の巨人》よ! レイナ、今のうちに!」


 私が死を覚悟したその時、土で作りだされた二メートルを超す巨人――いわゆるゴーレムが、振り下ろされた斧をその巨躯で受け止めていた。


「ライナス、助かったわ!」

「長くはもたない! はやく逃げるんだ!」

「はい!」


 でも逃げるっていったいどこへ……?

 王国の魔導機部隊の援軍は、まだ来る気配がない。

 確か最寄りの駐屯地はかなり遠かったはずだわ。


「ライナス、助太刀するぜ。氷つけ《氷結》!」

「ルークか! すまない!」


 駆けつけたルークの加勢もあって、襲ってきた〈シュトルム〉は動きを止める。

 どうやらダメージは与えられなくても、動きを制限するくらいはできるようね。

 でも一時的なものだわ。


「おい、キャニングにミドルトン! 早くレイナを連れて行け!」

「は、はい!」

「おいレイナ、お前にしかできないんだ」


 ルークが私をどこへ連れて行けと言っているのか、私にしかできない事とは何なのか。

 私は思い浮かんだ。思い浮かんでしまった。


「ここは何とか時間稼ぎをする……!」


 ライナスの目には、私に頼らなければならない悔しさと私を信じる気持ちが見える。


 みんな必死だ。私も私にしかできないことをしないとけない。

 そうじゃないと、やっぱりみんなここでデッドエンドだ。


「格納庫へ行くわよ、サポートよろしくね」

「ええ、レイナ様!」

「ああ、お嬢!」


 勘違いしないでほしいけれど、私が望んでいるのは今もスローライフだ。

 決してSFもどきのロボットバトルに興じたいわけではないし、興味もない。


 でもどうやらこの謎のバトル展開を乗りきらないと、私に夏休みは来ないらしい。

 アイラブ夏休み。ウェルカムサマーヴァケーション。

 だからさっさと終わらせて夏休みに入るわよ!


読んでいただきありがとうございます!

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