第44話 期末試験はりきりガール
ついにやってきた試験週間。これを乗り越えれば長期休暇、すなわち冬休みだ。
エンゼリア王立魔法学院の定期試験には、筆記試験と実技試験があるわ。
レンドーン公爵家の息女たるもの、試験で無様な成績は残せない。なのでクラリスの徹底的な指導の下に勉強を頑張った結果、筆記試験ではそこそこの成績を残せたように感じる。
前世でお勉強は苦手だったけれど、為せば成るものね。
ここ、クラリスの授業でやったところだ!
さあ次は実技試験。私はあのおとぼけ女神のおかげでチート魔力を得ている。ここでなるべく良い成績をとって総合点を上げたいわね。
「よし、全員揃ったな。試験内容は魔法を用いた時間内の標的の破壊だ」
試験会場は野外の演習場。
シリウス先生はそう言って前方を指さした。
指を指した方を見れば、魔法で作られた十個の標的があった。
ふよふよとゆっくり動いているのもあれば、素早く動いている標的もある。
あれに魔法を当てるのはなかなか大変でしょうね。
「もちろん標的を破壊できたかは重要だが、それ以上に魔法をコントロールできているかとか適切な判断ができているかとかも見るぞ」
なるほどね。総合的な実戦力を問う、なんともシリウス先生らしい試験だわ。
「男子から行ってもらうか。ディラン・グッドウィン、前へ」
「はい!」
「試験開始!」
☆☆☆☆☆
ディランは得意の風属性の雷魔法《雷霆剣》を使って瞬く間に標的を破壊した。
続くルークも、氷魔法の《氷縛》で動きを封じてから一撃ですべてを破壊。
ゲーム中だとテキストでさらっと流されていたけど、こうして生で見るとこの方たちはバトル漫画の登場人物なみの戦闘能力ですわね。そしてそんなことを考えている私は解説要員……。
男子は試験を終えて今は女子の試験中だ。
エイミーとリオは良いペースだったけど、惜しくもパーフェクトとはいかなかった。
でもディラン達が異常にすごいだけで、ほとんどの生徒は五、六個程度しか的を破壊できていないから、エイミーとリオの成績は良い方だと思うわ。
そして現在、アリシアの試験が行われている。
「《影の矢》よ! 続いて《影よ貫け》!」
闇属性の魔法は暗いところで真価を発揮する。
その逆に日中ではその威力は半減する、と授業で習った。
けれどアリシアの魔法は申し分ない威力と正確性で次々に標的を射抜いていき、ついには全ての標的を破壊した。
「アリシア・アップトン、記録パーフェクト!」
「凄いわアリシア! おめでとう!」
「ありがとうございますレイナ様。次はレイナ様の番ですね。応援しています!」
アリシアは今日も謙虚で可愛らしい。これがヒロイン力……。
「次、レイナ・レンドーン!」
「はい!」
ううっ、緊張するわ……。
「レイナ、頑張ってください!」
まあディラン。王子様に応援してもらうなんて、今の私って最高にヒロインみたいじゃない?
でもその隣に立つルークは腕を組みながら無言で頷いて、「お前は俺のライバルだ、こんなところで躓かないだろう?」するのはやめてちょうだい。その後方ライバル面はバトル漫画のムーブです。
「レイナ様、ファイトですわ!」
「お嬢、緊張するなよー! トイレは行ったか?」
「レイナ様なら大丈夫です!」
エイミーやリオ、アリシアも負けじと声援を送ってくれる。
“紅蓮の公爵令嬢”として、一つ見せてやりましょうか!
「試験開始!」
シリウス先生の合図とともに、私は両手を前に構える。
この試験の為に練習した私のとっておきを見せてあげるわ!
「いきますわ! 中級魔法《大火球》!」
《火球》は初級魔法。《大火球》はそのグレードアップ版よ。
私の両手の先に生成された火の玉は、実に私の身長を超える大きさだ。
それを目標が点在する中心に向けて放つ。
――ドゴゴーン!!
着弾した《大火球》は激しい轟音を立てて爆発を起こした。その威力は《火球》の時よりもはるかに上だ。激しい爆風が一瞬で私たちのところにまで到達し、生徒たちが悲鳴を上げる。
爆炎が治まったとき《大火球》の着弾地点には巨大なクレーターができていて、標的は全て塵と化していた。
「すげえ、なんて威力だ……」
「あ、あれが”紅蓮の公爵令嬢”様の本気……!」
うーん。私の予想では拍手喝采だったんだけれども、どよめきの方が大きいわね。
ディランは苦笑いを浮かべている。
ルークはいまだに「それでこそ我がライバルだ」みたいな顔で頷いている。
「ひゅー、驚いたぜ」と言わんばかりのリオの顔は、初めて会った時を思い出して何だか懐かしい。
笑顔で拍手を送ってくるのはエイミーとアリシアくらいだ。
「レイナ・レンドーン、記録パーフェクト!」
よし! ちょこまか動いているのもまとめて吹き飛ばせば関係ないと考えた私の作戦勝ちね。これで高得点ゲットよ。
「ウヒヒ、やりましたわ。オーッホッホッホ! オーッホッホ……ほ?」
私が作成したクレーターを、試験続行の為に必死に修復する先生方。
称賛どころかあまりの威力にドン引いている多くの生徒。
そして冷静に考えればここまでの威力がなくても標的は破壊できたという事実。
……もしかして、私張り切り過ぎたかしら?
☆☆☆☆☆
試験結果発表。
前世なら個人情報だとか生徒への配慮がということで自分の成績以外は知る由もなかったけれど、ここは実力主義のエンゼリア王立魔法学院。全生徒の成績がデカデカと張り出される。
私の成績は筆記試験13位、実技試験1位の総合9位。
惜しくも筆記試験は二桁順位だったけれど、総合一桁はレンドーン公爵家の面目躍如でしょう。
「総合9位! さすがですレイナ様!」
「ありがとうエイミー。何とか恥ずかしくない成績を残せてよかったわ。そして総合2位おめでとうアリシア」
「あ、ありがとうございますレイナ様!」
アリシアは筆記2位、実技4位の総合2位だ。
マギキンは懐かしさすら感じるステータス制を採用していたから、テストの結果はプレイヤーの選択肢次第だった。
総合2位という順位を私はプレイ中見たことがない。
きっとものすごく努力したのでしょうね。
「私は魔導機のことなら得意なのですが……」
「私も勉強はな……」
そう言って遠い目をしている二人は、実技と得意科目はいい線だったけどそれ以外の結果で総合順位を落としていた。
そして総合1位に輝いたのは――、
「やあレイナ、皆さん」
「でましたわね総合1位!」
筆記1位、実技も私とルークに次ぐ3位の好成績。見事総合1位を獲得したのは完璧王子ディランだ。涼しい顔をして流石ですわね……。
「王家の者として恥ずかしい順位は晒せませんからね。魔法でもいつかはレイナやルークに勝ちたいと思っていますよ」
「お手柔らかにお願いしますわ、殿下」
ゲームだと実技はルークに負けるけど2位だったし、この涼しげな笑顔の下ではふつふつと闘志を燃やしているかもしれない。
「「レイナ!」」
「被せるなパトリック、オレが声をかけた」
「君こそ被せないでくれ、僕がレイナに声をかけた」
「あら、ライナスにパトリック」
順位表で確認したところ、ライナスは芸術の科目はずば抜けているが他は振るわず、総合順位は中の上といったところだ。
パトリックはその脳筋っぷりに反して意外にも筆記の成績も良いみたいだ。
私はこの脳筋に負けたのか……。
「もう明日からは冬休みですね。レイナ様と毎日お会いできないと思うと寂しいです」
「私もよアリシア。あなたの焼いたパンをしばらく食べられないと思うと気が滅入るわ」
アリシアの焼いたパンは本当に美味しいわね。幸せの味とはあのことでしょうね。
「そう言えば、今年からは月下の舞踏会に参加しなくちゃな……」
それまでマギキンでのクールキャラのように沈黙を守っていたルークがふとつぶやいた。
――その瞬間、周囲の空気に緊張感が張り詰めた。
むーんらいとだんすぱーてぃー?
そんなイベントってマギキンにあったかしら?
周りの顔を見渡すと、わかっていなさそうなのは私とリオくらいのものだった。
「「「「ぜひ一緒に踊りましょう」」」」
うわびっくりした!?
そんなサラウンドで言われても私は聖徳太子じゃありません……って言っても通じないのよね。
「エイミー、なぜ君がレイナに誘いを?」
「あら殿下。危ない殿方に任せるくらいなら、大切な親友であるレイナ様はこの私がエスコートいたしますわ。しかし、パトリック様は普段連れ歩いている女の子でも誘えばいいのでは?」
「彼女達は連れ歩いているのではなく、僕の魅力にみんなが寄ってくるのさ。ところでライナスはダンスを踊れるのかい?」
「当たり前だ。オレの美しいダンスを今ここで披露してやろうか? それにしても殿下は軽々しく女性をお誘いしていい立場ですか?」
なんという四つ巴……。
みんなそんなにダンスが好きだったのかしら?
「大丈夫、大丈夫。ちゃんとみんなと踊るから」
ダンスパーティーは別に決まった相手とひたすら踊り倒すものではない。きっとこのパーティーもそうだろう。
「レイナ……」
えっ!?
何その「こいつわかってないな」的な目は!
私、か弱いんだから泣いちゃうわよ!?
読んでいただきありがとうございます!




