第41話 おいでませフルーツサンドパーティー
「レ、レイナ様の会に私が入れないなんて……!」
「ごめんなさいエイミー。でもあなたは魔導機研究会に入っているのだし仕方ないわ」
「か、かくなる上は魔導機研究会を退会してでも……!」
「エ、エイミー!? あなた何か吐血でもしそうな顔よ!? そんなに無理しなくてもお料理作ったらちゃんと呼ぶから!」
大好きな魔導機と天秤にかけてくれるなんて、本当に友達思いの良い子ね。でも無理はしなくていいわよ。
「それで今日はアップトンさんも一緒ってことなのか。よろしくね」
「はい、ミドルトン様。よろしくお願いします」
「私の事はリオで良いよ。それに様もいらない」
「そうですわ。私の事もエイミーで結構です」
「はい、リオさんエイミーさん。私の事もアリシアとお呼びいただければ」
「ただしレイナ様の隣は私のポジションであることをお忘れなきよう!」
「こらこら、威嚇するなよエイミー」
うんうん。仲良くできそうで良かったわ。
エイミーとリオは元からアリシアちゃんを気にかけていたしね。
「ところでレイナ、記念すべき初料理は何にするんですか? 絶対に来ますからね!」
「そうだな、今週末にするんだろう? もう決まっているのか?」
横からスッと現れたのはディランとルークだ。
ディランはそんなに私の料理が待ちきれないのかしら?
昔は毎日のように私の調理を求めてやってきただけのことはあるわね。
「最初のお料理はフルーツサンドにしようと思いますわ」
「フルーツサンド、ですか?」
「具材が生クリームとフルーツのサンドイッチです。美味しいフルーツが手に入ると良いのですが……」
私が死ぬ直前の前世では、フルーツサンドが結構流行っていた。
見た目が華やかだし、お手軽に作れる。なにより美味しいしね。
これだったらお料理未経験のサリアも楽しく作れるし、アリシアちゃんの製パン技術も生かせる。生クリームを多く作るのはルークの氷魔法のコントロールが活かされるはずだ。
「でしたら僕がフルーツを準備しましょう。伝手がありますから」
「いいのですか、ディラン殿下?」
「はい、まあ結成お祝いとでも思って貰ってください」
「ありがとうございます殿下!」
なんと気前の良い王子でしょうか。そんなに私のお料理が食べたいのね。
「初級魔法論の講義を始めるぞ」
教室にシリウス先生が入ってきてそう宣言する。
さあ、週末はフルーツサンドパーティーよ!
☆☆☆☆☆
「レイナ様、あれ」
次の講義の教室への移動中。
エイミーに指摘されて一画を見ると、アリシアちゃんが何人かの令嬢に囲まれていた。
一目でわかる、和やかに会話しているとはいいがたい様相。
――またか!
また可愛いアリシアちゃんに嫌がらせをしているのね。いい加減しつこいわよ!
そう思い、すぐにやめさせようと飛び出したのだけれど……、
「あれ?」
アリシアちゃんを囲んでいた令嬢たちは、私が駆けつけるよりも早く退散していった。
皆一様に怯えた顔、というよりまるで幽霊でも見たように恐怖で歪んだ顔をしており、私とは目をも合わせない。
「あっ! レイナ様!」
「アリシアったら大丈夫? なにもされなかった?」
「……? はい、大丈夫です。きっとレイナ様のおかげだと思います」
私の質問に疑問符を浮かべたアリシアちゃんは、そう花の咲いたような笑顔で答えた。
私の名前でアリシアちゃんへの嫌がらせが止まるのなら、いくらでも使ってくれて構わないわ。
「そうなの? まあ、それなら良かったわ」
「はい! 良かったですレイナ様」
うんうん。やっぱりアリシアちゃんには笑顔が似合うわね。アリシアちゃんが無事ならそれでよし!
でも心配だからなるべく一緒にいようかしら?
サリアちゃんは別のクラスだしね。
☆☆☆☆☆
「うわあ、大きな部屋ですねー!」
「これが最上級のお部屋……。凄すぎます!」
お料理研究会最初の活動in私の部屋。
考えてみたら私の部屋はみんなを招くのに十分な広さだし、寮には広々としたキッチンもしっかり完備している。ここで活動を行うのに不足はないわ。
そして私の部屋に驚きっぱなしのアリシアとサリアの二人というわけだ。
ルークはほぼ同じ間取りの寮に住んでいるので、特に感動はないようだ。
「レイナ様、ところでパン窯はどうするのですか?」
「安心して、ほら」
そう言って私は窓の外のお庭の一点を指す。
クラリスに言って業者に造らせたパン窯よ。ちゃんと学院にも許可を取ってあるわ。
「驚きました! すごく立派な窯です。ありがとうございます!」
「お礼ならクラリスに言ってちょうだいな。時間がない中よく完成させてくれたわ」
「うわ! 本物のメイドさん……し、失礼しました。ありがとうございますクラリスさん」
「お仕事ですので。そして私に“さん”は不要ですアップトン様」
冷静に返しているようでいて少し照れているわね。私はクラリスに詳しいからわかる。
「それにフルーツもディラン殿下から、お料理研究会の発足のお祝いとしていただいたのよ」
「ディ、ディラン殿下からのプレゼント……!」
そう言ってサリアはフリーズする。
あなたも貴族令嬢なら一度くらいは顔合わせしているでしょうに。
でもこれがみんなの憧れ完璧王子ディランに対する正常な反応なのかしらね?
私が慣れ過ぎているのかしら?
というわけで、厨房には山のように季節のフルーツが積まれている。数が多いだけではなく、どれも最上級の品だ。
お土産の時も思ったけれど、ディランって結構加減を知らないところがあるのかしら?
「ディランもいい仕事をするな。これは良いものが作れそうだ」
「そうね。早速取り掛かりましょう。まずはアリシアの指導でパン作り。その後は私とサリアでフルーツのカット。ルークはクリームをお願いね。作業開始!」
☆☆☆☆☆
「これで、完成ね!」
作りに作った大量のフルーツサンド。いよいよ出来上がりだ。
アリシアちゃんの焼いた美味しいパンに、最高級のフルーツを惜しげもなく挟み、生クリームは氷の魔法を使わせたら天才のルークの自信作だ。
「やりましたねレイナ様!」
「アリシア、貴方のパンは最高よ」
「ありがとうございます!」
パンは焼いたことなかったけれど、結構楽しいのね。
頬を桜色に染めて喜ぶアリシアの顔を見られただけでもパン窯を造らせた甲斐があるというものだわ。
「ごめんなさいレイナ様、だいぶ足を引っ張ってしまって……」
「そんなことはないわサリア。少しずつ覚えていけばいいのよ。少し切ったところは大丈夫かしら」
「はい、レイナ様!」
サリアも初めてのお料理を楽しんでくれたみたいね。
お料理道は果てしないわよ? ついていらっしゃい!
「うん。これなら王宮でも出せる味だと思うぞ」
「生クリーム製造魔法使いさんのおかげよ。ありがとね」
「お前なあ……。ま、生クリームやらアイスやらの魔法的問題は任せておけ」
ルークはこの年にしてかなりのレベルの魔法使いであり魔法研究者だ。
その最先端の論理を使うお料理。かなり贅沢ではないでしょうか?
「レイナ様、皆さまをお連れしました」
「ありがとうクラリス」
クラリスには料理が完成する時を見計らってみんなを集めてもらった。
フルーツのスポンサーであるディランをはじめとして、ライナス、パトリック、エイミー、リオ、そしてお世話になっているシリウス先生だ。
「美味しそうですね。期待以上です」
「ディラン殿下、フルーツありがとうございました」
「いえいえ。こうやって呼んでいただいてレイナの手料理が食べられて満足です」
あの完璧王子をここまで虜にしてしまうとは。私のお料理ったらなんと罪作りな……。
さあ、フルーツサンドパーティーの始まりよ!
☆☆☆☆☆
「ふう、美味しかったわ……」
堪能した。もしかしたら私が一番食べたかもしれない。
「ふふふ。レイナ様ったら本当に美味しそうにお食べになられていましたよね」
「本当に美味しかったわ。アリシアの手作りパンは最高ね」
「ありがとうございますレイナ様」
現在、私はアリシアと二人きり。
他のメンバーの目はこちらに向いていない。少し探りをいれてみようかしら。
「ねえアリシア、今日集まったのはみんな素敵な人たちよね?」
「ええ、もちろんです! みんな私たちが作ったお料理を美味しいと言って食べてくれて。私、こんな日が来るとは思いませんでした」
「じゃあさ、この中だと誰が一番良いなって思っているの?」
「私はレイナ様を一番お慕いしています」
すごくいい笑顔で返してくれたけれど、私が聞きたいのはそれじゃないんだよなー。
友情を厚く信頼していてくれるのは嬉しいわ。デッドエンドから少し遠ざかったかしら?
「さあ、今日の楽しい出来事を糧にして明日からも頑張りましょうか!」
「はい! もう少しで期末試験ですものね。がんばりましょう」
――あっ、期末試験の事忘れていた……。
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