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紅蓮の公爵令嬢  作者: 青木のう
幕間1 Friends~日常~
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第29話 推薦状とメイドさん

「お嬢様、お手紙です」


 時間は少しさかのぼったある日のこと。

 私はクラリスから(うやうや)しく差し出されたあるお手紙を受け取った。

 ついにこの日が来たわね。


 近くには手紙を開けるのが待ちきれないお父様とお母様がいらっしゃる。

 そう、この手紙が今日来るという事は事前にわかっていたのだ。当然内容もわかっている。だからこの開封は儀式のようなものなのよ。


「さあレイナ、早く開けてごらん」

「焦らないでくださいませお父様、今開けますわ」


 深紅の手紙に封をしている(ろう)には、私が前世で何度もタイトル画面で見た紋章が刻まれている。私はペーパーナイフを差し込み開封し、中の手紙を読む。


『レイナ・レンドーン殿。上記の者、類稀(たぐいまれ)なる魔法の才能をもって、エンゼリア王立魔法学院への入学を推薦するものとする』


 ――ついに来た。もしかしたら私のデッドエンドへの片道切符になるかもしれない推薦状。


「どうしたんだいレイナ? 何が書いてあった?」


 お父様はそんな私の気も知らず、満面の笑みで分かっていることをお聞きになる。


「エンゼリアへの入学推薦状(すいせんじょう)でしたわお父様。私は秋からエンゼリアに通えますの」

「素晴らしいじゃないかレイナ! あれ、どうしたんだい? あまり喜んでいないみたいだけれど。エンゼリアへの入学はレイナの小さいころからの夢だったじゃないか」

「そうですよレイナさん。レイナさんの実力なら入学は当然ですけれど、これは栄誉ある事なのよ」

「……いえ、驚き過ぎてしてしまいまして。オホホ」

「なんだ驚きすぎただけか、アハハ」

「もうレイナさんったら、オホホ」


 とほほ……。デッドエンドを迎えないようにするためには、エンゼリアへ入学しないのが確実だとは思うんだけれど、やっぱりその選択肢は選ばせてはくれないようね。


 麗しのエンゼリア魔法学院。薔薇色の学園生活を送らなくてもいいから、無事に卒業を迎えて物理的に生き残りたい。切実に。



 ☆☆☆☆☆



 入学推薦状が来たからには入学が決まっているので、入学のための準備をしなくてはいけないわね。

 エンゼリアは完全寮制(りょうせい)。長期休暇以外の帰省は、原則としてないのだ。


「調理器具はどれを持っていこうかしら?」

「学校の厨房にあるのでは?」

「ダメよクラリス。プロたるもの道具にはこだわらないと」

「誰がプロですか……」


 推薦入学生かつ公爵令嬢たる私には、結構な広さの個室が与えられる予定になっている。ゲームの背景を参考にすると、豪華ホテルの部屋みたいな感じのだ。


 多少荷物が多くても誰にも迷惑をかけないわね。権力万歳!


「そう言えばクラリス、良い子を見繕(みつくろ)っておきなさいよ。あなたの推薦に私は従うから」

「……はい?」

「はい? じゃないわよ。学院に連れて行くメイドを選びなさいよって言っているの」


 エンゼリア王立魔法学院には次のような規則がある。

 “推薦入学生かつ侯爵以上の爵位の家の者は、供する従者を一名に限り認める”だ。つまり私は誰かしら一人のメイドを伴う権利がある。


 身の回りの世話なんて前世の一人暮らしで鍛えた私にはいらないこともないけれど、デッドエンドがいつ訪れるかもしれない中、信頼できる相談相手が一人側にいるのといないのでは違い過ぎるわ。


「……てっきり私がついて行くものと思っていましたが」

「え? クラリス、自分が何を言っているのか分かっているの? 私についてくるということは、あと最低三年間は側付きメイドをしないといけないのよ。完全に婚期を逃すでしょう?」


 私にとってクラリスは姉の様に大切な存在だ。そのクラリスが私のせいで婚期を逃すなんて耐えられない。


 クラリスは年齢不詳だけれど、私が七歳の時から仕えている。結構いい歳のはずだわ。

 美人で若く見えるからといって油断してはいけない。年齢はお肌に突然来るわよ。


「三年後でも私は行き遅れと言われるような年齢ではギリギリありません」

「結婚のお世話ならお父様に頼んであげられるけれど、あなたは私によく仕えてきたわ。そろそろ自分の人生を大切にすべきよ」

「お嬢様は私を厄介払いしたいのですか?」


 そんなことない。望めるならクラリスにはこの先もずっと側にいてほしい。でもクラリスの人生はどうなるの?


「だいたい私でなければ、策士策に溺れる性格で不幸の巻き込み事故体質のお嬢様のフォローを誰ができるのです」


 ううっ……。勝負挑まれて厨房の準備をしたり、お庭を吹き飛ばした後処理をしたり、誘拐された時に陣頭指揮をとれるメイドに心当たりはないわね……。


「……本当にいいの?」

「ええ。お嬢様に嘘は申しません」


 そう答えたクラリスの笑みは穏やかだ。澄んだ瞳には少し涙のようなものが見えるわね。

 ウヒヒ、クラリスも私と別れたくないと見た。


「じゃあ、よろしく頼むわねクラリス」

「はい、かしこまりましたレイナお嬢様」


 まだまだ私はクラリスに頼る必要があるようね。


 ――そういえば。


「ところでクラリス、本当は何歳になったの?」

「それはナイショです」


 私の質問にクラリスは、いつだったかと同じように立てた人差し指を口に当てて、片眼をつぶる茶目っ気あるポーズで答えた。


 相変わらず可愛い。可愛いけれど……。


「いいかげんそのポーズは年齢的に厳しくない?」

「……何か言いましたか、お嬢様?」

「――っ! い、いえ何でもないわ」


 恐ろしい笑顔とはこのことね。 禁忌(きんき)に触れるのはやめときましょうか……。


 そういえば、クラリスってマギキン本編で見たことないのよね。だから学院にもついてこないものと思い込んでいたけれど……。


 まあこの世界は完璧にマギキンの世界ってわけじゃないってことでしょうね。



 ☆☆☆☆☆


☆“マギカ☆キングダム~恋する魔法使い”

 モレノソフトから発売された女性向けADV(アドベンチャー)。全年齢対象。

 プレイヤーはデフォルト名アリシア・アップトンとなり三年間の学園生活の中で様々なタイプの男性たちと恋をしていく。舞台は魔法の国グッドウィン王国のエンゼリア王立魔法学院。


読んでいただきありがとうございます!

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