第249話 決戦の大濠公園!
ここ数日魔力反応は感じないし、ルシアは電車なんかに乗ることができない。そして大きなニュースが飛び込んできていない事を考えると、間違いなくルシアは大濠公園から移動していない。
私の目的は、この世界にとっての異物である魔導機と私たち自身をマギキン世界に返すこと。であればルシアが動くのを待つのではなく、私から出向く!
「準備よしと……!」
マギキン世界に持ち帰らなくていいように、荷物は可能な限り処分したわ。そして必要な情報は全部調べた。後は行動するのみよ。
準備を終えた私はホテルからチェックアウトした。後はタクシーで〈ブレイズホーク〉の隠し場所に向かうだけ。
「これで本当に見納めかしらね?」
私は死んだ身だ。本当はこの世界にいてはいけない。ルシアと一緒にさっさと帰らないとね。まあ次元の裂け目は不安定だから、パッとマギキン世界に帰れるか分からないのがなんですけど。
「落としたぞ」
「ありが……ん?」
もう暖かいのに不自然にも黒のコートを着込んだ長身の男から、何か紙を渡された。私の物じゃないし、何かしら? ナンパ?
「私のじゃありませんわ……いない?」
いない――。くるりと見渡してみても、あんなに目立つ服装ですごい長身だったのに、影も形も見当たらない。どこに行ったのかしら?
「まったく、何なのよ……」
私は手渡された紙を見る。それは名刺サイズのメッセージカードみたいだ。そこには粗い字で、『天に花が咲く頃、望みの道は開かれる』とある。
「このカード、かすかに魔力を感じますわね? 世界は広い。この世界にも魔法使いがいるのかしら?」
ま、知りませんけど。このタイミングで私を妨害する意味はないし、邪悪な感じもしない。おとぼけ女神の差し金か、もしかしたらどこぞのお節介さんだったのかもしれない。
「天に咲く花……花火かしら? 花火ねえ?」
ダメでもともとですし試してみますか。季節は春先。花火大会なんてまだまだ先だ。でもまあ、心当たりならありますわね。
☆☆☆☆☆
「よし、いけるわ。〈ブレイズホークV〉飛翔!」
エイミーの話を聞いていることもあって、なんだかんだ魔導機の知識が増えつつある私は、この世界で手に入れた機械部品を使ってこの子を応急修理した。
というかそうでもしないと、ドルドゲルスでの戦いから連戦であちこちガタがきている。まあ、私の素人修理でもしないよりはましでしょう。
《光の鏡》を使って姿を隠したまま大濠公園上空へ。中央の大きな池を中心としたこの公園は、福岡市民の憩いの場として親しまれているわ。福岡城跡でもあり、美術館や能楽堂がある。
時刻はもうすぐ夕暮れ時。子どもたちもそろそろお家に帰り始め、平日の園内の人はまばらだ。
「さてと……《光の鏡》解除!」
機体を覆う光の魔力が、鏡が割れるように砕け散り、人々の前に〈ブレイズホーク〉の姿が明らかになる。
「な、なんだあれ!?」
「何アレ、うちゅーじん?」
「人……いや、巨大ロボット!?」
空に浮かぶ〈ブレイズホーク〉に気がついた人々が騒めきだす。混乱は呼ぶでしょうけど仕方がないわ。これしか手段がない。
「出てきなさいルシア、いるんでしょう?」
私は英語に近いグッドウィン語で呼びかける。もちろん風魔法で拡声させてだ。気分は宮本武蔵を待つ佐々木小次郎……だと負けちゃうわね。えっとじゃあ……あれ? 決闘で先に待つ方ってだいたい負けてない?
時間が経つにつれ、眼下の混乱は益々大きくなっていく。スマホを掲げて、写真や動画を撮ろうとする人の群れだ。サイレンの音が聞こえて、交通整理をする警察官が現れた。
福岡にも基地はあるけれど自衛隊はまだ来ない。当然ね。国境を侵犯してきた未確認戦闘機ならともかく、領土内に突然現れた人型兵器に対する法律なんて存在しないわ。まずは警察の領分よ。時間が経てばわからないけれど、それでも私とルシアが戦闘状態に入って、数時間経ってからといったところでしょうね。
『好調スマートバルク、今夜も勝利で七連勝とすることができるのか? さあ時刻は間もなく午後六時を回ります。今、主審のコールが鳴り響きました。プレイボールです!』
操縦席に持ち込んだラジオから、声が響く。だいたい計画通りね。さあ、来なさい!
「――! やっぱりいたわね!」
見えた。〈ワルキューレスヴェート〉だ。重要文化財の多門櫓方面から上がってきた。狙い通りだ。生身で接触しようとしたらどうせ魔導機で襲ってくるでしょうし、それならこっちが先に魔導機でやって来て正解!
「レイナ・レンドーン……! 貴女のせいで私は……、乞食のような真似を……!」
ははーん、それってお弁当をスティールしたことかしら? お弁当忘れてみんなから少しずつおかず貰うなんて、誰でも一度はする経験だから気にしないでいいわよ。
それにこの世界に来たのはあんたが暴れたからですって……。言ったら怒って話が進まないし、まあそれは置いといて。
「何日か前と比べて、少しは落ち着いたかしら? さあ、私と一緒に元居た世界に帰りましょう?」
私は出来るだけやさーしく声音を作って話しかける。気分は小さい子に言い聞かせる感じだ。
「ねえルシア、こんなところもう沢山でしょう? 本当に誓って悪いようにはしないわ。私を信じてちょうだい」
「信じる……」
おっと、献身的な美少女の説得にさすがのルシアも折れたかしら? 私の言葉を聞いたルシアの〈ワルキューレ〉の手が緩み――そしてまた強く握られる。
「貴女を信じる信じないなんて、もうとっくに超えてきましたのよ私は……!」
「――うわっと!?」
大きく振られたハルバードを回避。雰囲気が変わったことを敏感に察した地上の見物客の一部が逃げ出す。
「レイナ・レンドーン、ここで貴女を討ちます。それが……それだけが私の生き残る道!」
「このわからず屋め……!」
まったくなんてワガママなのこの女。あ、そういえば原作レイナの悪しき因子を元に世界の収束で生まれたんですっけ? 納得ね。
よーし、作戦変更。ここはプランBに切り替えよ。ブランB――とりあえず殴――オホホ。お上品に言うと説得するでしたわ。
どんなに正論並べたって、自分より弱い者、劣る者の意見を人はそう簡単に受け入れない。であれば、こちらが十分に力を持っていることを証明――つまり力づくでも言うことを聞かせるしかないわ。
「魔法は……人がいるから〈フレイムピアーズ〉!」
剣を引き抜き、そのままルシアに斬りつける。だけど捻りのない一撃は、簡単にかわされてしまう。
「その程度? その程度の実力で貴女はディラン様を――全てをこの私から奪うと言うのかしら!?」
「そんな恨みつらみ……しつこい!」
剣を返してもう一度斬りつけると、今度はハルバードで受け止められる。けれど目的は剣による一撃じゃない。
「これだけ接近すれば――《火球》!」
「くうっ……!?」
至近距離から外れようのない《火球》を叩きつける。ルシアの機体も連戦でダメージを負っているはずだけど、いやに力強い動き。まさか――!?
「フフ、《治癒の光》よ」
「回復魔法!?」
ルシアの機体が光り輝く。光属性の回復魔法だ。強化魔法しか使えなかったルシアが、いつの間に? ――いえ、神級魔法を使いこなすくらいだから不思議じゃないわ。それよりも問題は――。
「その機体、まさかドルドゲルスの〈ドラッヘ〉と同じように……!」
「察しが良いのね、レイナ・レンドーン。今の私は無敵でしてよ?」
間違いない。ルシアの機体は〈ドラッヘ〉と同じように生体パーツが使われているんだ。だから連戦で整備もしていないのに動きが良いんだ。厄介ポイントプラス1と……。
「それならあああっ――!」
「な、何を!?」
私は余裕かましたルシアの機体に急速接近すると、両肩をガシッと掴んで加速する。目標は下だ。私とルシアは真下に高速落下していく。
「亀さん、鯉さん、アヒルさん、その他ごめんなさいいいいいいっ!!!」
真下。そこは巨大な池。二機の十メートルほどのロボットが叩きつけられるのに十分な広さの池!
「スプラアアアアアッシュ!!! そして《氷結》!」
叩きつけられた二機に勢いで、池の水が激しく巻き上がる。瞬間――私は全力で魔力を注ぎこむ。ダメージが無意味ならルシアの動きを封じる!
「な、なにを……!?」
「凍らせてんのよ! 少しは頭を冷やしなさいな!」
『三回裏、この回スマートバルクは七番夏田の見事なツーランホームランで逆転しました!』
急速的な魔力の消費に息を切らしそれ以上は言えない私の操縦席に、ラジオの野球中継の声が響く。
時間は……夜の七時半前といったところかしら?
「まるで魔法みたい……」
広いお池は一瞬でスケートリンクの様に凍り付いた。目の前で起こったあまりにも非現実的な光景に、野次馬の女子小学生三人組の一人がそうつぶやいたのが聞こえた。さあ、良い子はお家に帰る時間ですわよ。悪い子のルシアもね!
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