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紅蓮の公爵令嬢  作者: 青木のう
第8章 Rival~激突~
251/308

第246話

「レオーノヴァ陛下、アスレス擾乱(じょうらん)部隊の傭兵隊長ブルーノ様よりご連絡。予定通りアスレス民衆を焚きつけ、王都アラメ他複数の領地を占領。逃亡した王族を追跡中とのこと!」

「ドルドゲルス侵攻軍の親衛隊長ロマン様からもご連絡。王都ロザルスにて最優先目標アルファを確保。既に報告の通り“第一の剣”も捕縛に成功しました!」


 バルシア宮殿女帝の間。私は部下たちの報告に満足してうなずく。全ては予定通りだ、我が神の啓示に狂いはない。


「目標ベータはどうなっていますか?」

「他の者達と逃亡中とのことで、西方のマルツ市に。現在ロマン隊長の軍勢が包囲しています」

「マルツ包囲はすでに聞き及んでいます。そこにグッドウィンの軍勢が到来したと?」

「はっ! 優先目標ガンマを攻撃しましたが、仕留めたかは不明。それ以外は“紅蓮の公爵令嬢”の火力が予想以上だったものの、作戦は想定の範囲で進行しているとのこと」


 ウフフ。それならいい。本当は“紅蓮の公爵令嬢”が欲しかった。けれどアルファが手に入った今、その必要はない。神の啓示に従いベータを確保しガンマを始末。それで私の望みは叶う。そう神は仰っている。


「では、ロマンに任せましょうか。ルシア・ルーノウについては何か言ってきているかしら?」

「はっ! “()()()()”とのことですが……」


 “門は開く”。それだけで十分だ。意味を知らぬ部下は混乱しているが、これは私がわかればいい。あの子の恨み、そして信念はそれほど強固だった。


 ブリジットは良いエサになってくれたし、良い拾い物をした。門が開けばもはや邪魔になった“紅蓮の公爵令嬢”は消える。ルシア・ルーノウにはその為の捨て駒になってもらう。


「水の神からの新たな啓示をいただきました。各々方、使命を果たしなさい」

「「「はっ! 偉大なる神に! 麗しの女帝陛下に栄光を!」」」


 神が私に囁いてくれて――私を選んでいただき幸運だった。もうすぐ全てが手に入る――。



 ☆☆☆☆☆



「くう……、レン……ドーン……!」


 もはや満身創痍のボロボロ状態だけれど、〈ワルキューレスヴェート〉は――ルシアは立ち上がろうとする。彼女を振り立たせるのは、通したい意地か私への恨みか。


 結局手品のタネはわからなかったけれど、ロマンの〈クロノス〉も戦闘不能。マルツ市に押し寄せた軍団の大半も焼き払った。勝負は決した。


「ルシア、もうおやめなさい。せめて降伏して、ルーノウの家名の汚名を雪ぐ手段を探すべきではなくて? それともここで死を選ぶのかしら?」

「知れた……ことを……! 私は貴女に勝って、勝って、勝つ! その一念でここに来たアッ!!!」

「――魔力!?」


 その力はどこから湧いて出てくるのか、もはや魔力は尽きたと思われたルシアから、突如膨大な魔力を感じる。


「我が血の一滴までも勝利の為に! 《光神の祝福》よ!」

「おいおいやべえぞ。さっさと止めねえと!」

「わかっているわ!」


 〈ワルキューレスヴェート〉は、再び虹色に輝いて天を舞う。四対八枚の光の翼をまとったその姿は、さながら天使みたいだ。いやいやいや、ルシアが天使なんてそんな馬鹿な。


「リオ、エイミー、なんかヤバいわ。あなた達はロマンを捕獲して退避していて!」

「それがお嬢……」

「どうしたの、リオ?」

「ロマンの奴が……いや、機体そのものがどこにもないんだ!」


 ――え?


 ロマンの〈クロノス〉は四肢も砕けて、ほとんどスクラップの状態でそこに――ない。消えた? 魔法で脱出を? それともまた手品?


「おや、レイナさん。僕のことをお探しかな?」

「ロマン! そ……、その機体……!」

「倒したはず? でも残念でした。僕はこの通りさ」


 声がした方を振り返ると、そこには紺色の魔導機〈クロノス〉がいた。しかもまるでさっきまでの戦闘がなかったかのような新品同様で……!


 じょ、冗談でしょ……? 倒したのは幻影? いえ、戦っていた相手に間違いなく実体があったわ。それなら再生? いえ、生体パーツでもないみたいだし、再生は……でもそれならロマンの能力は……!


「それに僕にかまけてばかりでいいのかな? 上でルシアさんが何か始めそうだよ?」

「悔しいがそいつは後回しだレイナ! 今はルーノウがやべえ!」


 確かにそうだ。お空でビカビカに輝いているルシアからは、今までにないほどとてつもない魔力を感じるわ。もう少しでロマンと〈クロノス〉の謎が解けそうなんだけれど……!


「ま、僕はここでお暇させてもらうよ。知っているかい? バルシアは兵士が畑でとれる国と揶揄されるんだ。君が焼き払ったのなんて欠片にすぎない。この物量に勝てるかな? それじゃあね!」


 逃げた。撤退して、大軍を率いてまた攻めて来るってことかしら? 妙に爽やかに決めてくれるけれど、今はいいわ。


 私は〈グレートブレイズホークV〉を加速させ、天空に座すルシアに迫る。


「フフ、来たわねレンドーン。私の究極の力を、今お見せして差し上げますわ! 神級魔法《驚天光波(きょうてんこうは)》!!!」

「――!? 《光の壁》よ! フルパワー!」


 ルシアが右手を向けた。本能的にマズいと思って、フルパワーで防御魔法を放った。次の瞬間、私たちは巨大な光の柱に飲まれた。


「きゃああああああっ!?!? 防御魔法が……持たない!?」

「くそッ、レイナの魔法でも持たないか!? 《絶対氷壁》!」


 なんていう力よ。この魔法がもしマルツ市に放たれたら、一発で壊滅。そのくらいの威力だ。


「うっ……、なんとか……耐えたかしら?」

「ああ、なんとか……な」


 二人の魔法をフルパワーで使ってギリギリだった。――いえ、正確には防げてはいない。〈グレートブレイズホークV〉は今の一撃だけで相当なダメージを負ってしまったわ。


「どうかしら? 私が岩をも貫く信念――いいえ、天をも貫く信念で会得した神の領域の魔法、《驚天光波》は?」

「見事なもんだルーノウ。驚いちまった」

「ありがとうございますルーク様。けれど私の前に立ちふさがるのなら、貴方も敵ですわ」


 間違いない。口先だけでなくて、これは私の《紅蓮火球》に匹敵する神級魔法だわ! でもそれならもしかして……?


「さあ、私の輝きに飲まれなさい! 《驚天光波》!」

「――くっ!」


 今度は避ける。すると光の柱が降り注いだ雪原に大穴ができた。ロマンの奴はこうなるって知っていたのね。自分が巻き込まれかねないから逃げたんでしょ!


「エイミー、リオ、大丈夫!?」

『なんとか! それよりレイナ様、()()()()()()()()!』

「空が……!?」


 空に一筋。いいえ、何本もヒビが入っている。それはルシアが魔法を放つたびに増えていく。


「ルシア! その魔法を使うのをやめなさい!」

「《驚天光波》! なぜ貴女の言うことを聞かなくてはなりませんの?」

「あんた気がついてないの!? あんたが魔法を放つたびに世界に歪みが生じているのよ!」


 私の魔法《紅蓮火球》は、次元に穴をあける。だから不思議死後空間からいくつかの次元を超えて帰還して以降、おとぼけ女神から使用禁止を言い渡された。


 ルシアの《驚天光波》は、まさにそれと同じ現象を起こそうとしている。このままじゃ世界が持たないわ。


「私の偉大さに世界すら震える! 天が轟く!」

「馬鹿言ってんじゃないわよ! 《火竜豪炎》!」

「たかが超級魔法では! 《驚天光波》!」

「打ち消され――きゃあああっ!?」

「《絶対氷壁》! ぐわあああっ!」


 私が放った炎の竜はルシアの光によってかき消され、そして今度こそ直撃を受ける。ルークが寸前に防御魔法を放ってくれたけれど、致命的なダメージだ。


「ルーク、大丈夫?」

「なん、とかな……」

「止めですわ! 《驚天光波》!」


 追撃のルシアの魔法が迫る。……こうなったら!


「――! 分離!」

「分離して回避を!?」


 私は〈グレートブレイズホークV〉を強制分離。あえて二機に分かれることでルシアの魔法を回避した。


『レイナ!?』

「大丈夫、私に任せてちょうだい!」


 私は分離した〈ブレイズホークV〉を加速させ、ルシアに肉薄する。


「小癪な真似を! 神級魔法《驚天光波》!」

「神級魔法《紅蓮火球》!」


 もう仕方がない。これ以外に手段がないわ。神級魔法には神級魔法をぶつける! 二つの神級魔法はぶつかり、激しい閃光が視界を包み、そして――。


「――時空の裂け目!?」


 ――空に大穴が開いた。


 お互いの神級魔法の衝撃でダメージを受けた私とルシアの機体は、成すすべなくその裂け目に吸い込まれていく。


『お嬢様!』

「大丈夫よクラリス、心配しないで。今度はすぐに戻って――」



 ☆☆☆☆☆



「ルシア……!」


 時空の裂け目の中だ。虹色とも何色とも、暗いとも明るいともわからない空間で、私は必死にルシアの後を追う。逃がしてなるもんですか。さっさとルシアをとっ捕まえて、元の世界に帰らないと!



「――! 外に出る!」


 何度か経験した、時空の裂け目を通して世界に出現する感覚。元の世界か、それとも別の世界か。ともかくルシアを見失わないようにしないと。


 光の輪をくぐり、外へと出る。空だ。魔力を込めて飛行する。問題なし。


「ここは……?」


 海だ。海のど真ん中? いいえ、前方にいくつか島を確認。――いえ待って、一つの島からは細い道が続いて――。


『なんなのよここは!?』


 半狂乱のルシアの声だ。無理もないわね。ルシアは異世界に出るのは初めてでしょうから。私はゆっくりと後方に方向転換する。〈ワルキューレスヴェート〉を確認。その後方に陸地が見える。


()()()ばかり!? どこなのよここ!?』


 石の塔――ビルだ。ルシアにとっては未知だろう近代的なビルが並ぶ街並み。


「文明が発展した世界……? いえ、あれはタワーにドーム!」


 目に映るのは青い巨塔に、奇妙な半円の建造物。私が見間違えるわけがない。あれはランドマークのタワーに、野球場だ。


「ということは玄海島(げんかいじま)能古島(のこのしま)志賀島(しかのしま)! ここは玄界灘(げんかいなだ)!」


 間違いない間違いない間違いない。間違えるなんてことあるわけがない。この海の青も空の青も私は知っている。つまり私の目に映っている陸地は百道浜(ももちはま)だ……!


「だとするとあの奥が天神、そして博多。間違いないわ、ここは()()だ。私とルシアは日本に出てきちゃったんだ……!」



 紅蓮の公爵令嬢 第246話


『 福 岡 上 空 』




第8章 了

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異伝 【4月26日】開始


【補足】

物語は佳境なのですが、この続きの第9章の前に明日から数話程「異伝」という話を投稿します。「紅蓮の公爵令嬢」の時系列的には過去になるエピソードです

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― 新着の感想 ―
[良い点] 海と空の間から戦闘中のオー◯バトラーが日本に。 [気になる点] ルシア、ハイパー化する? [一言] 同じ高位貴族令嬢で立ち位置も近いのに相手は成功、自分はうまくいかない。新型に乗っても元同…
[一言] 空自がスクランブルかけて・・・ まあ問答無用で撃墜はしないだろう ああ、でもパニクったルシアが魔法使ったりするとミサイル飛んで来るかな
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