第24話 みんな立派になりましたの
月日が流れるのは早いもので、私は十五歳になった。つまり、いよいよエンゼリア魔法学院への入学=ゲームスタートまであと一年。
私の中では輝かしい薔薇色の学園生活が待っている……というよりは、デッドエンドへのカウントダウンが近づいているという気持ちの方が強いわね。
そういえば、私に前世の記憶が戻ってからの五年の間、ついにゲームの主人公アリシア・アップトンとは接触する機会はなかった。マギキンとはいろいろズレているこの世界、果たしてアリシアちゃんはどういう性格なのか。
そもそもマギキンとの設定の違いはなぜ起こっているの?
魔導機とかいうロボットはどこから湧いて出たの?
あのおとぼけ女神のせい?
それとも――。
疑問は尽きないけれど、今の私に調べる方法はないわね。どこかであのおとぼけ女神を問い詰められないかしら?
「奥様、レイナ様、もうすぐ到着いたします」
クラリスからの呼びかけで、私は思考の海から浮上する。
現在、私たちは馬車に揺られながら王宮へと向かっている。今日はグッドウィン王国の建国記念日、国中の貴族が集まる一年に一回の式典だ。……ん?
……本編開始一年前の式典?
何かマギキンの中であったような……?
あっ、思い出したわ!
一年前の建国の式典、そこで王子であるディランは暗殺者の襲撃を受ける。けれど確かな剣の腕を持つ彼は、襲い来る三人の暗殺者を瞬く間に返り討ちにした。というエピソードがディランルートの中で語られていたわ。
ゲーム上ではディランの剣の腕を示すためのほんの数行のエピソード。けれどその世界が現実となった今の状況では違う。
本編で言うところの「一年前の建国の式典」は、つまるところ今日この日。ゲームの設定通りならディランに暗殺者の魔の手が襲い来る。それは約束された予言のように必ずだ。
無事、という結果はわかっていても心配ね。一応ディランには伝えておこうかしら?
☆☆☆☆☆
「ようレイナ、久しぶりだな。元気にしていたか?」
会場に到着するなり声を掛けてきたのはルークだ。
本来マギキンではクールで魔法以外興味のない引きこもりだった彼は、人当たりが良く社交的な性格になっていた。最近では自分の得意な水魔法の氷を活かしたデザート作りにはまっているらしい。
私にとっては生意気な弟感覚で接していたルークも、この数年で立派に背が伸びて見た目はすっかりゲームで知っているルークの姿になっている。昔は私と同じくらいの背だったのに……。
「これはルーク様、お久しぶりですわ」
「? レイナ、その喋り方はどうしたんだ?」
「淑女たるものこういった場での礼節は守りますわ」
「……淑女? お前が?」
あらあら、こんなに立派な淑女の私にルーク様ったらご冗談がお好きね。……後でルークのお父様に言いつけてやる!
「レイナ! やっと見つけた」
私の姿を見つけてライナスが近寄ってきたので、私も笑顔で答える。
ライナスもこの数年で背も伸びて、性格も本人が望んでいた堂々としたものが板についてきた。絵の方も順調に上達していくつもの賞に入選を果たしている。
その堂々とした性格と繊細な心が見える絵画の腕で、貴族の子女の皆様におモテになるらしい。私は昔の弱気ショタなライナスも好きだったけどね。
「ライナス、この前の絵も素晴らしかったわよ」
「ありがと……当然の結果だな」
「ウヒヒ、私の前だとちょっと昔がでますわね」
他の子たちには強気なセリフを吐いて“ライナス様”なんて慕われているけれど、やっぱり昔の自分を知る相手には地がでちゃうのかしらね?
「やあレイナ、今日も君は花のように可憐だね」
すっと私の隣に来たのはパトリックだ。
パトリックは私との決闘の後から急激にマギキン作中のナンパキャラに近くなった。鍛え上げられた細マッチョな身体と女の子への心遣いで、大変おモテになっている。
ただしゲームとは違い親子の仲は良いようだ。いまだにアデル侯爵は私に会うたびに嫁入りを誘ってくる。
「ありがとうパトリック。今日は女の子をお連れしてないの?」
「君のような大輪の花を抱える為には両手が空いていないとね」
「まあお上手。あなたのファンに言ってあげればきっと喜ぶわよ、ウヒヒ」
あれからパトリックも私の家にたびたび遊びに来ている。もちろん決闘じゃないわ。普段は大勢の女の子に囲まれているらしいけれど、私に会う時は不思議といつも一人だ。
「レイナ様ー! こちらですわー!」
「お嬢、こっちだこっち」
「エイミー! リオ!」
最近では二人ともすっかり大人びてきたけれど、私たちの仲の良さは変わらない。三人とも興味がある事は違うけれど、一緒にいてとても楽しいわ。
「エイミー、そのドレスとっても素敵ね!」
「レイナ様ほどではありませんわ。今日も輝いていらっしゃいます!」
エイミーはすっかり綺麗な女性になった。
メイク、服や小物のセンス、振舞い、どこをとってもパーフェクトな淑女だわ。でも魔導機大好きな中身はちっとも変わらない。私の前世で言うところの偽装女子ね。
近年急速的に魔導機の評価は上がっているけれど、貴族令嬢の趣味として認知されるにはまだまだ遠いみたい。
中身も良い子だし、外見はいかにもキラキラ女子って感じでスタイルも抜群。男子人気も高いようだけれど、意中の相手がいるのか断り続けているらしいわ。
「リオ、今日は一段とかっこいいわね!」
「そうかい? でも最近マジっぽい年下の子多いんだよな……」
リオはかっこいい。私の前世で言うとヅカ系って言葉がぴったりの見た目だわ。
出会った時から男勝りって感じで頼れるリオだったのだけれど、最近はそのルックスとサバサバした性格と相まって年下の女の子たちに人気みたい。
本人は少し大変みたいだけれど、私も女の子たちの気持ちがちょっとわかるかな。
レンドーン家と繋がりがあるっていうバックボーンのおかげか、正妻とその異母兄弟に牽制を入れつつお父様との関係はすっかり良くなったみたいで、最近ではよく会って話すようになったらしいわ。良かった良かった。
「あっ、そうだ! 式典の前にディラン殿下に会わなきゃなんだ」
「イケメン王子に? そうか、また後でなお嬢」
「レイナ様、ディラン殿下のお部屋について行ったりしてはだめですよ!」
「? まあ式典前だし手短にね。ごめんね、また後で!」
私は二人にそう伝えて、小走りで去る。
大事な事を伝え忘れていた。この世界はマギキンと結構ズレがあるし、転ばぬ先の杖としてディランに伝えておくべきでしょうね。
それにしても、と私は思うことがある。
――みんなモテ過ぎじゃない?
いや、理由はわかるわよ。みんな性格良いし、美形ぞろいですからね。マギキンだってサブタイトルは“~恋する魔法使い~”だし……。
子供っぽい性格のままのルークでさえ、あの魔法の才能とお料理スキル、そして黙っていれば涼やかなマスクで男女問わず人気だし。
でも、私だけ非モテなのは何故でしょうか?
私だけ非モテなのは何故でしょうか?
大事な事なので二度言いました。
私に恋する魔法使いは適用されないの?
私だってレイナちゃんファンクラブ的なの欲しいのだけれども……。未だに呼ばれ続けている“紅蓮の公爵令嬢”の肩書を譲ってあげるから、誰か私のファンクラブ作ってくれないかな~。
……なんて、実際あったらあったで大変か。
自重、自重。私は非モテでもいいからデッドエンドを必ず回避してスローライフを手に入れるのよ。ここ数年、クレーターを作ったのは何度かだけだし私は成長しているわ。デッドエンドは必ず回避して見せます。オーホッホッホッ!
……ダメね、ちょっと悪役令嬢に染まってきている気がしますわ……。
読んでいただきありがとうございます!




