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紅蓮の公爵令嬢  作者: 青木のう
第6章 Beyond~双子~
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第177話 私の行き先どこですか?

「不思議ですねえ……」

「ええ、本当に不思議ねエイミー」


 ここはグッドウィン王国王都にある、騎士団の魔導機格納庫。そして私とエイミーの前には深紅に輝く機体、〈ブレイズホーク〉が騎士のように膝をついている。


 エイミーが不思議に思っているのは、大破したはずのブレイズホークが存在している事。私が不思議なのは、未だに魔導機なんて物が私の人生に存在している事。イッツすれ違い感。


「本当なら()()()()で跡形もなく大破した。しかし、レイナ様が魔法で呼び出した。それで間違いないでしょうか?」

「ええそうよ。説明した通りで違いないわ」


 ざっくり説明すると、あの不思議死後空間で呼んだらこの子が来た。当然おとぼけ女神と転生云々は説明オミットよ。


「魔法によって言い表すならそう……、()()した物なら新たに生成されたということで間違いないはず。事実この機体は私が製造した当初のように新品同様です。けれどこの機体には、私が調整した細かい部品もそっくりそのまま再現されている。不思議ですねえ……」


 エイミーはなおもブツブツとつぶやきながら、思索の世界に入っている。


 まあ確かに不思議ね。でも女神とか魔法とかなんでもありなこの世界だから、そんな不思議な事もよくある話じゃないのかしら。いえ、そんな話にもっともらしい理屈をつけたがるのが技術屋というものかしら?


「それで、パトリックはどうしてこちらに?」


 私は後方で静かに壁に寄りかかっている、パトリックへと声をかけた。


「どうしてとはご挨拶だねレイナ。僕は久しぶりに君のその美しい顔を見られて、幸運に打ち震えているというのに……!」

「ええまあ……、ありがとうございますパトリック。お久しぶりね」


 パトリックは私に間違いなく好意を抱いていると思う。だって会うたびに「美しい」だの「可愛い」だの言ってくれるからだ。


 けれどそれがどこまで本気なのかわからない。なにせ目の前の褐色プレイボーイは、出会う女の子全てにそんな感じの声を掛けているからだ。まあでも、上手く言えないけれど大事にしてくれている感はあるのよねえ。


 私と彼の始まりは決闘だった。それもあってか、私という人間を尊重しつつ女性として丁寧に扱ってくれるというか……ま、実は脳筋度は昔から変わらないパトリックの事だ。単に私との再戦の機会を狙っているのかもしれない。あな恐ろしや。


「で、真面目な話どうしてこちらに?」

「当然魔導機の視察だよ。僕は卒業すれば騎士団へと入るからね。KK105〈バーニングイーグルⅡ〉は言わば戦時生産機。その改良の話なんかをね」


 ということはまだまだ新型が……。なんなのやっぱりこの世界は「超魔導機大戦ブレイズサーガ」なの? いやいやそんなわけないわ。おのれハインリッヒ……! あと百回くらい必殺の魔法をぶち込んでおくべきだったわね。


「あれ? というかパトリックは騎士団に就職? 入団かしら? するんですね」

「当然さ。先の大戦では父上も負傷されたからね。アデル家の者として父上を助けて、やがては人々を率いる者にならなくてはならないと強く感じたよ」


 やはりというかなんというか、マギキン原作とは少し違う。


 マギキンでのパトリックルートは、父であるアデル侯爵との対立と和解がメインのシナリオだ。そんなこんなに主人公であるアリシアが巻き込まれ、パトリックを助けることで二人の間に愛情が生まれる。そして二人は生涯支えあっていくことを誓うのだ。


 つまり、原作のパトリックが騎士団に入るかどうかは明言されていない。


 けれど今私の目の前にいる胸板が素敵な細マッチョさんは、昔から父親と対立していない。それが騎士団に入って父を支えるという選択肢に繋がるのは、不思議ではないわね。


「でも意外だわ。結構まじめに将来の事を考えているのね」

「当り前さ。本来ならばもう学院を卒業している頃。しっかりと物事を考え、立場ある者の責任を果たさないとね」

「うっ……!」


 その自信に裏付けされたキラキラと光る情熱、前世で学生時代をふわっと生きて、ふわっと上京して、ふわっと成り行きでブラック企業に勤めて死んだ私にブスブスと刺さるわ……! 串刺しよ!?


「レイナは卒業後、どうするんだい?」

「うっ、それは……」


 私は卒業後、どうするんだろう?


 お父様の補佐をしながら領地経営を学ぶ? そしてお婿さんに来てもらって家督を相続? あれ、お貴族様って何すればいいんだろう?


 ……結婚? 前世ではクリスマスケーキと女は云々的な言葉は古く錆びついて幾久しくだったけど、この世界での結婚は早い。それはお母様の年齢からも明らかだし、クラリスの年齢でさえ遅めと言われる。あわあわあわ……、将来とかいろいろ考えると、なんだか急に不安になってきたわ。


「それは……、その……」

「その?」


 パトリックはずいっと顔を近づけて、私の答えを待つ。

 え、なになに近いんですけど!? ちょっと待ってこれ、良いお顔が近くにくると心臓に悪いわ。いえ、嫌とかじゃなくて、むしろウェルカムなんだけれど。


「それは……」

「――様! レイナ様! ついでにパトリック様も。聞いておられましたか?」


 と、窮地に陥ったところで聞こえてきたエイミーの呼ぶ声。ナイスアシストよエイミー!


 え、将来? 

 保留で。灰色の言葉を使わせれば日本人は世界一よ。オーホッホッホッ!


「あ、ごめんなさい。聞いていなかったわ。何の話だったかしら?」

「民生向け魔導機の話です!」


 その話は何度か聞いたことがある。魔導機を様々な分野で活かそうという計画のことよ。例えば前世で言うトラクターみたいに農機具としてとかね。

 けれど私たち貴族と違って、魔力量の安定しない平民の皆さんは魔導機を操縦するに足る魔力量の確保が問題だから――。


「コアの改良の話かしら?」

「そうそう、その通りですレイナ様! 少ない魔力量で安定した起動ができるのなら、やがては航空艦(こうくうかん)の建造だって……!」

「へーなるほどねー……って航空艦!?」

「はい、魔導機が飛べるのなら船だって飛ばせるはずです! けれど今の技術では、レイナ様レベルの方が常に魔力を注ぎこまないと無理なので、コアの改良をもって実現しようかと」


 航空艦。未だに馬車が荷を引くこの世界で航空艦……。

 それなんてサイエンスフィクションな世界なの!?


「まあ僕としてはコアの改良よりも、僕たちの新しい機体をお願いしたいけれどね」

「新しい機体?」


 パトリックの言葉に私の頭には疑問が浮かぶ。なんのこっちゃ。


「ああそうさ。僕たちの専用機は先の戦いで全て大破したからね。十六人衆レベルの強者がきたら、レイナの〈ブレイズホーク〉が頼みだってことさ」


 あの、ご存じでしょうか? それは我々の業界で言う所のフラグではないでしょうか? 少年漫画的な新たなる敵の登場……ご遠慮いただいてよろしいでしょうか?

 ええ、お帰りはあちらですわ。父殺しの因縁や、選ばれし者に浮かぶ痣、変身を残しているボスキャラなどのお忘れ物はありませんか? こちら原作乙女ゲームとなっておりますので、それらは不要です。切実に……。


読んでいただきありがとうございます!

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