第143話 お嬢様は高飛車でワガママ
「久しぶりだねえ、レイナ。ご機嫌いかがかな?」
「あら、ごきげんようハインリッヒ。そして死になさい、《獄炎火球》!」
「おっと、《光の壁》よ。危ないなあ、一体何をするんだい?」
ちっ……、不意をつけたと思いましたのに。ここで捕らえるかどうかしたいんですけれど。ここはみんなやマッチョなSPの方々を呼んで――。
「おっと、お友達を呼ぼうとしても無駄だよ。ヴェロニカに結界を張らせてあるからね。禁書に記されている禁術の類さ」
ハインリッヒはまるで私の心を見透かしているかのように喋る。ムカつくわ。癇に障るとはまさしくこの事よ。見た目だけならイケメンなのだと思う。けれど思えば、私は出会った時からこいつのことを生理的に受け付けなかった。どうやら正解だったみたいね。
「ずいぶんお怒りのようだね。何がそんなに君の逆鱗に触れたのかな?」
「わかっているでしょう! あんなに人々を痛めつけて許される事だとでも思っているの!?」
「収容所のことかい? 資源を効率的に活用して何が悪いというんだ」
「資源!? 彼らは人間よ。資源なんて言い方はやめてちょうだい!」
「いいや資源さ。未開なこの世界の住人は魔力という名の資源だよ。君も言ったじゃないか、ゲームの世界だと」
「私はこうも言ったわよ。この世界の人々はみんなちゃんと生きていると。今すぐこの蛮行をやめなさい!」
もはや私の怒りは頂点に達し烈火のように責め立てるけれど、対するハインリッヒの方はというと涼しい顔だ。そのニヤつきがなおさら私の感情を逆なでる。
「辞める? こんなに生産的な事をかい? もちろん集めた魔力は有効活用しているよ。魔導機のコアや魔導砲台のエネルギー源に使用しているのは、君たちも気がついているみたいだね」
ハインリッヒは私を無視してベラベラと喋る。こいつにそれをして何のメリットがあるか一瞬疑問に思ったけれど愚問だったわ。こいつは自己顕示欲の塊。聞いてないことでも得意気にベラベラと喋る。
「君は何故、私が魔法を使えたのか疑問に思わなかったのかい?」
「……どういう意味よ?」
「これは私の熱心な研究の結果分かったことなんだが、この世界の人間にはね、言わば魔力器官とでもいう様なものが神経のように体中に張り巡らされているんだよ。それで魔力をコントロールして魔法を行使する。だが異世界からやって来た私にはその魔力器官がない。つまりこの世界に転生した君と違って、本来魔法を使えないんだ」
ハインリッヒはまるで大学で講義をしているように語る。私がマッドン先生やエンゼリアの講義から得た知識では、魔法は神様の力を借りて行うとされているわ。魔力器官なんてものは聞いたことない。けれど嘘をつく必要も感じられない。
「この世界の稚拙な外科技術では魔力器官の移植は不可能だ。そこで先ほどの話しに繋がるわけさ。集めた魔力を使って魔力サーバーと呼べるものを製作してみてね、それから魔力を引き出すことで私も魔法が使えるようになったんだよ。これこそ私が魔法を使えるカラクリ。そして数百人分の魔力を使用できるから君の攻撃も受け止めることもできる。塵も積もればなんとやらってね」
この男が言うように、コイツはさっき実際に私の魔法を止めて見せた。それが何よりの証拠でしょうね。
「そこまでして……、人から魔法を奪う様なマネをしてまであんたは一体何がしたいのよ!」
「ひとつは魔法を使ってみたかった。……フフッ、冗談じゃないさ。こういう世界に来たら誰だって魔法を使ってみたくなるはずさ。君とてそうだろう?」
否定はできない。私だって前世の記憶が戻った直後は、魔法を使ってみたくてウキウキだったわ。その為にコイツがとっている手段は許せないけれど。
「ふたつめに以前も君に話したが、私はロボットというものが大変好きでね。沢山ロボットに活躍してほしいんだ」
でたわねハタ迷惑クソロボットオタク野郎。おもちゃ遊びは自分のおうちでしなさいよ。あー、この世界をおもちゃにして遊んでいるんでしたね。死になさい。
「そして最後、勘の良い君ならもう気がついているんじゃないかい? 一体全体私が魔力を集めて何をしようとしているのか」
「……そうね。答えなさいハインリッヒ、あんたが膨大な魔力を使って何の魔法を使おうとしているのかを!」
そそのかしたルシアは禁書を使い、手下のヴェロニカは禁書に記された《影渡り》を使用していた。こいつには明らかに禁書の知識がある。そして魔力を大量に集めるということは、何らかの禁書に記された大型魔法を使うという事!
「ご名答。君に敬意を表して答えてあげよう。私が使う魔法、それは神を殺す魔法」
「神を……、殺す……?」
「そうだ。皮肉にも君が神の存在を明言してくれたからね」
ハインリッヒはニヤリと皮肉気に笑う。神を殺す……。つまりあのおとぼけ女神を殺すってこと?
「神様を殺してどうなるのよ?」
「決まっている。世界の管理者を気取る神を殺して、私こそがこの世界の永遠の神となる」
「あんた狂っているわ……!」
「悲しいことに大望ある者は時に奇人として見られる。もうじき一千万の魔力が、生命のエネルギーが集まる。すぐに私の偉大さが理解できるさ」
一千万……! この世界の人々をそんなに!?
「させないわ! おとぼけ女神がどうなるかは知ったことじゃないけれど、あんたみたいなのが神様な世界って地獄よ。私が止めて見せるわ!」
「ほう……、世界を救う勇者でも気取るつもりかな?」
勇者? 違う。私はそんなんじゃないし、救世の志なんて持っていない。そう私は――、
「――私は勇者じゃなくてお嬢様よ! それも悪役のね。悪役令嬢。それがこの世界における私の――レイナ・レンドーンの役割よ!」
「勇者じゃないなら何故私の邪魔をするのかな? 世界に対して献身する必要は無いだろう。私は君に同郷のよしみで親近感がある。協力を求めたいんだけれどね」
「ごめんこうむるわ。お嬢様はね、高飛車でワガママなの。だから単に気に食わないという理由であんたの狂った計画を潰すわ!」
誰がハインリッヒなんかに協力してやるもんですか。あんたに比べたらまだセクハラパワハラの禿上司の方が……いえ、どっちもないわね。
「ふん、言うことを聞かない女は可愛くないな。まあいい、計画はじきに最終段階だ。君に止める手段はないよ。ここらでお暇させてもらおうか」
「待ちなさい! 《獄炎火球》!」
「効かないよ。それにほら、私のお土産があるんだけれどいいのかな?」
その時背後からズシ―ンという音が響く。気づけば奇妙な霧は晴れ、元の景色に戻っていた。そして音が響いた本陣がある町の方を見ると――、
「あれはルシアが出した巨人!? それも六体!?」
本陣は巣穴をつつかれたネズミの様な喧噪に陥っていた。突如現れた巨大な存在、ルシアがオプスクーリタースで作り出した巨人に似た兵器が襲撃をかけてきている。
「名は〈リーゼ〉。お察しの通り、ルシア嬢が作り出した巨人を模した巨大魔導機だ。六体いる。さあ、がんばって撃退したまえ」
「くっ……、待ちなさい!」
「私も君ともっと話していたいが、残念ながらやるべきことがある。さようなら、レイナ。健闘を祈らせてもらうよ」
刹那、黒い風が吹き荒れた。ハインリッヒは最後までニタニタ笑顔のまま、黒い風に包まれて消えた。
☆☆☆☆☆
ハインリッヒの追跡が困難だと判断した私は、襲撃を受け大混乱の本陣にダッシュで戻った。
「クラリス! 〈ブレイズホーク〉の準備はできているかしら!?」
「お嬢様、お戻りになられたのですね! はい、ワックスがけまで済んでおります」
「ありがとう、私は出るわ。あなたは安全なところへ」
「はいお嬢様、ご武運を」
クラリスに見送られ、すぐに出撃する。六体の巨人はもうすぐそこまで迫って来ていた。
「レイナ、来ましたか!」
「遅くなって申し訳ありませんディラン。状況は?」
「よくありません。六体もいては多数で切りつけは離れる戦術も中々……」
ルシアの時はこちらが多数で相手は一体だったからやりようがあった。けれどこれは厳しい状況ですわね。
「全員いるな!?」
「シリウス先生!」
「ひとまず俺とお前たちの六機で一体ずつ巨人を足止めする。非戦闘員が退避する時間を稼ぐぞ!」
「「「「「了解!」」」」」
私たちは燃える町に照らされた夜の闇の中を、巨人たち目掛けて飛び立った。
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