第107話 真夏の対決!インドアVSアウトドア
夏の日々はあっという間に過ぎて行く。レンドーン公爵領の実家、領主代行を任された南部の飛び地、そして王都。三か所をぐるぐると巡り毎度何か用事をこなしている。
これはお休み? 本当に私は長期休暇中なのかしら? 前世で同じくらいの年齢の時はもっと暇……じゃなかったわね。毎日ある夏期補修に汗水たらしながら通っていたわ。
とにかく、今日は久しぶりの何も用事がない日。こんなにお外が暑い日はお家でぐーたらお菓子でも……は貴族令嬢的にNGなので、お紅茶でも飲みながら優雅なひと時を過ごしますわ。オーホッホッホッ!
「失礼しますレイナ様、お客様がお見えになっています」
「お客様? 誰かしら?」
「それが……」
「不明瞭ですよ。お嬢様にはっきりと申しなさい」
来客を知らせに来た若いメイドちゃんの返答にクラリスの注意が飛ぶ。
なになに? そんな言い淀むような方が来られているの?
「それが、ライナス・ラステラ様とパトリック・アデル様が屋敷の門前にお見えになっているのですが、お二人とも何やら揉められていて中々屋敷に入って来られなくて……」
☆☆☆☆☆
「パトリック、ここはオレに譲ってもらおうか」
「いいやライナス、君は僕に譲るべきだね」
何とも要領を得ないメイドちゃんの答えに不安を感じながら外に出ると、なんとメイドちゃんが言っていた通り、ライナスとパトリックが言い争いをしていた。人の家の門前で。
「ちょっと二人とも、人の家の前で何をそんなに言い争っているの?」
「ん? レイナか、久しぶりだな」
「やあ、こんにちはレイナ」
「ごきげんようライナス、パトリック。人の家の前で争っている理由は説明していただけるのかしら? えーっと、まずはライナスから」
これ以上話をややこしくなるのを避けるために回答者を指名する。ライナスは私の言葉にうなずくと、静かに語り始めた。
「自領に戻っているという話を聞いてな。そこでオレは久しぶりに良い絵でも見せてやろうかとやって来たわけだ。そして門前でパトリックと鉢合わせた」
「なるほどねー。じゃあパトリックは?」
「僕もたまたま近くにいる時にレイナが休日を過ごしていると聞いてね。天気が良いし、ハイキングにでも誘おうと思ってきたところさ。そうしたらライナスと鉢合わせた」
「なるほどなるほど。……つまりはインドア派とアウトドア派、今日は三人でどうやって遊ぶかを決めかねてもめていたんですね!」
一瞬デートのお誘いでもめていたのかしらと勘違いしちゃったけれど、攻略対象キャラである二人はアリシアが好き。結局どのルートに進んでいるか判別できないけれどこれは確実だと思うわ。
つまり二人は休日に友人である私を訪ねてきて鉢合わせ。インドア派のライナスとアウトドア派のパトリック、どちらがより良い休日を過ごせるかで討論していたわけね。せっかくの夏休みを外で元気に過ごすか家の中でまったりと過ごすかとは、前世でも永遠の命題だった。
ウヒヒ、良い友人を持てて幸せね。個人的には前世からのインドア派なのでライナス案を支持したいのだけれど、パトリックもせっかく私の事を考えて主張してくれているし、どちらの意見も捨てがたいわね。
「ライナス、ここは僕に譲ってくれ。最近ディランに活躍を譲ったり、先日の戦いでは裏方に徹して貧乏くじを引かされているんだから」
「知るか、それはディランの借りだろ。それを言うなら先日の戦いの際、オレはレイナを助けに行くと言って聞かないアリシアを引き留める役目だったんだぞ? 大変だったんだからな。あいつ、あんなに力強かったか……?」
「こうなったら勝負で決めようライナス、かけっこはどうだい?」
「子どもか! というかパトリック、お前自分に有利な勝負を持ちかけるのかよ」
「男には譲れない時があるんでね……!」
勝負勝負って男の子はいくつになっても勝負事が好きねえ。何か良い解決策はあるかしら。なんだかお腹も空いてきたのよね……。
「そうだ! 間を取って、私の提案した勝負に勝った人の言うことを聞くのはどうですか?」
「「乗った!」」
息ピッタリ。正反対な性格なのに、ほんとこういう時は波長が合うんだから。
☆☆☆☆☆
「さあ、結果発表よ。審査員はクラリス、コック長、メイドちゃん!」
さあやって参りました、レンドーン邸恒例白熱の対決!
勝利の女神がほほ笑むのは果たして誰かッ!!!
「なあ、レイナ。本当にこれで決着をつけるのか?」
「何よライナス、もう作っちゃったじゃない。今更だわ」
「そうだよライナス、棄権でもするかい?」
「誰が棄権するか、誰が」
「それじゃあ気を取り直して。エントリーナンバー1番、ライナスの作品です!」
二人に競ってもらっていること。それはレンドーン邸で勝負と言えばこれの事。そう、お料理対決だ。
ルークの料理は言わずもがな大変な腕前。ディランにも以前軽く料理してもらった事があるけれど、さすが“万能の天才”なだけあってそつなくこなしていた。だから攻略対象キャラでこの二人の料理の腕前は謎なのよね。そこで興味本位でこの勝負を提案したってわけ。
「おお、これは綺麗ですね」
審査員たちが感嘆の声を上げる。ちなみに審査員を務めるのは、クラリス、料理長、メイドちゃんだ。私は公平をきすために司会でございます。
ライナスの料理は、中央に瓜をくり抜いて作った見事な馬の彫刻が置かれ、料理全体の彩りも綺麗な一品だわ。
「さあ、判定はいかに!?」
「見た目は良いのですけれど……」
「見た目は良いのだが……」
「見た目は美味しそうでした……」
おおっと、これは味の方は低評価みたいね。ライナスも複雑な顔をしているわ。
「じゃあ続いてエントリーナンバー2番、パトリックのお料理です!」
パトリックのお料理は質実剛健のアデル家らしく、武骨な一品よ。添えられたサラダを作る時のみじん切りのスピードは驚愕の一言だった。
「さあ、判定はいかに!?」
「急ぎ過ぎて生煮えですね……」
「早すぎて素材の味が……」
「早くて美味しかったら良かったです……」
おおっと、パトリックの方も味がイマイチみたいね。
「なら見た目の分で、オレの勝ちだな」
「いやいや、調理技術で僕の勝ちだと思うよ」
「二人とも、決めるのはまだ早いわよ。最後にエントリーナンバー3番、私のお料理です!」
「なんだって、レイナも参加するのか!?」
「そうよライナス。言ったじゃない、勝った人の言うことを聞くって」
☆☆☆☆☆
「二人とも、今日は楽しかったわ。遊びに来てくれてありがとう!」
「……ああ、まあオレも楽しかったよ」
「……うん、レイナの料理は今日も美味しかったしね」
白熱のお料理対決は私の勝利で幕を閉じた。結果、お料理を食べて談笑した後、お庭を腹ごなしにお散歩するという私のインドアとアウトドアの折衷案が採用さることになった。
「ウヒヒ、私のお料理ならいつでも食べさせてあげるわ。また今度遊びましょう?」
「ああ、今度はオレと美術品でも見に行こう。もちろんパトリックは抜きで」
「いいや、今度は僕とスポーツでもしようか。もちろんライナスは抜きで」
喧嘩するほど仲が良いというぐらいだし、やっぱり二人は仲良しさんね。ウヒヒ、一体誰がアリシアのハートを射止めるのかしらね?
「やっぱり根本的なところで勘違いしているだろ」
「やっぱり根本的なところで勘違いしているでしょうね」
何のことかわからないけれど、やっぱり息ピッタリね。
☆☆☆☆☆
☆王国騎士団
グッドウィン王国が抱える軍事力。島国らしく海軍力も高く、これまで幾度となく他国の侵攻を防いできた。近年、魔導機の国産化に成功して戦力の拡充を図っており、その戦闘力は高水準で列強国の地位を盤石のものにしつつある。アデル侯爵家は渡来して以来、武門の重鎮として代々一族が騎士団の要職についている。
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